字体、字形、書体、そしてフォント。これらの言葉をどこかで見たことがありますか。
似ているように感じますが、どのような違いがあるのでしょう。
字体と書体の違い
下の2組の文をご覧ください。一方は「字体」の違う組み合わせで、もう一方は「書体」の違う組み合わせです。
さて、どちらがどちらでしょうか?
下が「字体」の違う組み合わせ
字体とは、文字の骨組みのことです(常用漢字表)。
「体」も「體」も同じ意味で用いることができますが、字体は違います。
それでは、次の四つの条件に従うとどんな形ができますか。
ちょっと「骨組み」を体験してみましょう。
2 1で書いた横棒の中心と、直角に交わるような縦棒を書く。
3 横棒と縦棒の交わったところから、左斜め下に向かって1本直線を引く。
なお、縦棒の下端より下に出てはならない。
4 同様に右からも線を引く。
どれもキと読めるし植物の一種を意味しているとわかります。
目には見えないけれど、「木」だと思える形が頭の中にはあるのですね。
字体と字形の違い
次のふたつの文の字体は同じですが、字形の違うところがあります。さて、どこが違うでしょうか。
わずかな差ですが、これは字形の違いです。
字形とは字体を目に見えるように表したもののことです。
反対に言うと、字体は目には見えないのです。
字体は文字の骨組みだといいましたが、字体が骨なら、字形は肉だと思えませんか。
書体とは何か
下の樹形図をご覧ください。
図左の枠内は広い意味での書体、右は狭い意味での書体です。
書体とは字形の様式のことです。
字体が骨だとしたら字形は肉だろうと書きました。それなら、書体は肉の付き方です。(ややこしくなりますが、字形を書体と同じように使うこともあります)
分類の仕方いろいろ
アスリートと一様に呼ばれる人々でも、競技によって体つきが違いますよね。
漢字の、細い横線の右端に三角形が付いていて、縦線は(少なくとも横線よりは)太いなら明朝体です。
ゴシック体の線は太さが一定。そこから角をとったようなものは、丸ゴシック体です。
もちろんこの3種類だけではありません。
また、分類の仕方はいろいろで、「筆」「装飾」のように表現で分けたり、「本文」「新聞」と用途で分けたりします。
図の右には、実在する書体名が並んでいます。
ここでいう書体とは、同じ様式で作られた文字や記号の集まりのことです。
これだけを明朝体と呼ぶような、ただ一つの何かがあるわけではありません。
明朝体やゴシック体はたくさんあるし、これからも増え続けます。
「みそ」に例えると
これ以上説明するよりも、下の図がわかりやすいでしょう。書体を味噌に置き換えた樹形図です。
広い意味での「書体」を米味噌や麦味噌といった原料別の味噌の種類に、狭い意味のほうは具体的な商品名(架空)に置き換えました。もしあなたが台所で「○○家のお味噌」を手作りすれば狭義の方が増えます。
書体とフォントの違い
私たちは自分のことを書体デザイナーだと思いますが、フォントデザイナーだと思ったことはありません。
「書体」と「フォント」とは何が違うのでしょう。
パソコンやスマートフォンで使う書体を選びたいときは、フォントという項目から変更しますね。
現在はもっぱら、フォントとは書体のデータを指します。
「現在は」と断ったのにはわけがあります。
フォントという言葉に、同じ大きさで同じデザインのひと揃いの欧文活字、という意味しかない時代があったのです。
活字がどんなものか思い浮かべられない人には、後者が何であるのかはっきり分からないかもしれません。それは別の時に解決したいと考えています。
それぞれ一言でいうなら…
字体とは文字の骨組みのことで、目には見えず頭の中にあるもの。
字形とは、字体を目に見えるように表したもののこと。
書体とは、字形の様式のこと。
また、同じ様式で作られた文字や記号の集まりのこと。
フォントとは、書体のデータのこと。
また、同じ大きさで同じデザインの一揃いの欧文活字のこと。
お分かりいただけましたか?
毎日新聞の書体についてや、フォント制作室への質問などがありましたら、ツイッターなどから「毎日ことば」へお寄せください。
【フォント制作室/書体デザイナー・吉田千恵】