読めますか? テーマは〈漱石と病〉です。

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答え
くしゃみ
(正解率 41%)

古くは「くさめ」。夏目漱石の「満韓ところどころ」で、「どうも嚔が出てと、手帛(ハンケチ)を鼻へ当たが、嚏の音はちっともしなかったから、余はさあさあと、暗に嚏を奨励しておいた」と、漱石と英国人とのやりとりがある。くしゃみといえば「吾輩は猫である」の主人公は「苦沙弥」先生だ。

(2016年12月05日)

選択肢と回答割合

たん 16%
くしゃみ 41%
しゃっくり 42%


人事不省

答え
じんじふせい
(正解率 39%)

意識不明になること。胃潰瘍を患う夏目漱石は1910年に伊豆・修善寺で大量に吐血し、「実に三十分の長い間死んでいたのであった」(漱石の随筆「思い出す事など」)。

(2016年12月06日)

選択肢と回答割合

じんじふせい 39%
じんじふしょう 53%
ひとごとかえりみず 8%


含嗽

答え
うがい
(正解率 82%)

音読みでは「がんそう」。うがいは単に「嗽」とも書く。「嗽ぐ」は「くちすすぐ」。この字は漱石の「漱」の字とほぼ同じ意味を持ち「くちすすぐ」は「漱ぐ」とも書く。漱石の随筆「思い出す事など」では、修善寺での大量吐血後「余は黙って含嗽をした」と出てくる。

(2016年12月07日)

選択肢と回答割合

うがい 82%
らっぱ 10%
すいのみ 8%


咳嗽

答え
せき
(正解率 23%)

音読みでは「がいそう」。普通は「咳」1字で「せき」と読む。「外れにいた潰瘍患者の高い咳嗽が日ごとに薄らいで行くので」「衰弱の結果何時(いつ)の間にか死んでいた」(漱石の随筆「思い出す事など」)。同じく潰瘍の漱石にとって人ごとと思えなかっただろう。

(2016年12月08日)

選択肢と回答割合

せき 23%
がいせき 24%
せきばらい 53%


大患

答え
たいかん
(正解率 69%)

「大病」と同義。修善寺での夏目漱石の吐血は「修善寺の大患」といわれる。この6年後の1916年12月9日、胃潰瘍の再発により満49歳で没した。

(2016年12月09日)

選択肢と回答割合

たいかん 69%
だいかん 28%
おおかん 3%


◇結果とテーマの解説

(2016年12月18日)

この週は夏目漱石没後100年に合わせ「漱石と病」をテーマにしました。

「嚔」は「吾輩は猫である」の苦沙弥先生にちなむ出題。「暮らしのことば語源辞典」(講談社)によると、古くはくしゃみをすると早死にするといわれ、「くさめ」と唱えると免れるとされたそうです。しゃっくりを100回すると死ぬという話はよく聞きますが、くしゃみも重病の前兆と思われていたのでしょうか。

漱石の「満韓ところどことろ」という紀行文に「嚔」は出てきますが、別の部分で面白いやりとりが記されています。

佐治さんが遣(や)って来て、夏目さん身をかわすのかわすと云う字は何(ど)う書たら好いでしょうと聞くから、左様(そう)ですねと云って見たが、実は余も知らなかった。為替の替(かわ)せると云う字じゃ不可(いけ)ませんかと甚だ文学者らしからぬ事を答えると、佐治さんは承知出来ない顔をして、だってあれは物を取り替える時に使うんでしょうと遣り込めるから、已(やむ)を得ず、じゃ仮名が好いでしょうと忠告した。佐治さんは呆れて出て行った。

岩波文庫「漱石紀行文集」より

身をかわすの「かわす」は「躱す」ですが、漱石といえどもとっさには分からなかったとみえます。「替す」と答えたのでは相手にやり込められるのも無理はありません。が、仮名にすればいいというのは極めて適切です。

そもそも漱石は漢字の正しい使い方に無頓着なところがあります。当て字が多いことはよく知られていますし、「専門」を「専問」と書くなど誤字も目立つそうです。「直筆で読む『坊っちやん』」(集英社新書ヴィジュアル版)は「坊っちやん」直筆原稿を写真版で完全収録したものですが、1枚目からのけぞらせてくれます(下の写真)。

なんと、署名が「夏目嗽石」ではありませんか。さんずいではなく。

しかし、漱石の号の由来になったことわざ「石に漱(くちすす)ぎ流れに枕す」(負け惜しみが強いこと)の「くちすすぐ」は、「含嗽」の出題時の解説で触れたように「嗽ぐ」とも「漱ぐ」とも書きます。この二つの字は異体字の関係ではなく別字とされますが、読みも「そう」だし意味もかなりかぶります。気まぐれで別の表記を試してみたかったのか、たんなる誤記なのか分かりませんが、漢字に対する無頓着さがこんなところにも表れているのでしょうか。

いや、「直筆で読む『坊っちやん』」の序文で秋山豊さんは「漱石は、用字や仮名遣いに無頓着であった、とよくいわれる。しかし(中略)それ相当のこだわりを持って文章を作っていることは、間違いないようである」といいます。署名に何か意図があった可能性も捨てきれません。

「咳嗽」を「せき」と読ませるのも、それなりの計算に基づくことかもしれません。これは今回最も正解率が低くなりました。

その次に難しかったのが「人事不省」という結果には少々驚きました。最近あまり使われなくなっている気がしていましたが……。「漢字ときあかし辞典」(円満字二郎著、研究社)によると、人事不省の「省」は「気が付く」ことを表し「反省」などと同じくセイと読むのに対し、不要なものを捨てる意味では「省略」などショウと音読みするそうです。

「大患」も「漱石の修善寺の大患」以外ではあまり見聞きしないため「たい」か「だい」かが分からない人が増えているのかもしれません。ちなみに、この秋のNHKドラマ「夏目漱石の妻」では漱石の吐血シーンがちょっと大げさな印象を持ちましたが、後で「思い出す事など」を読むと「妻の浴衣に、べっとり吐き懸けた」などとあり、リアルな描写だったと思いなおしました。

では皆さん、大患にならぬようお体にお気を付けください。

春は曙光、夏は短夜 季節のうつろう言葉たち

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