景気や政権などが上向き基調のときに、その勢いをそぐことを表す慣用句は「冷や水を浴びせる」が「冷水を浴びせる」の約3倍になりました。毎日新聞の記事でも「冷水」から「冷や水」への流れがうかがえますが、両方とも間違いではありません。

景気、政権に「○○を浴びせる」という場合の○○は「冷水」か「冷や水」か、はたまた単なる「水」か、うかがいました。

「冷や水」が「冷水」の3倍超

景気、政権などに「○を浴びせる」――「○」の部分、どの表現がいいと思いますか?
水 6.2%
冷水(れいすい) 20%
冷や水 73.8%

 

結果は「冷や水」が「冷水」の3倍を超えました。ほぼ同じ質問を2014年にインターネットで行っていて、「冷や水」が66%と「冷水」34%の2倍近くでした。単純な比較はできませんが、8年を経て差が広がっていることがうかがえます。

前回の調査と違う点は、選択肢に「水」を加えたことです。最近、毎日新聞のコラムに、冷水でも冷や水でもない「水を浴びせた」という表現が載り、最近はこう言う人もいるのかと思って加えました。結果はごらんの通りで、浸透はしていないようです。

電子図書館「青空文庫」で検索する限りでは、「冷水を浴びせる」「冷や水を浴びせる」ともに出てきますが、個人をぞっとさせるという意味がほとんどのようです。上向きの状況に対してその勢いを失わせるという使い方は見当たりません。

2010年代に「冷や水」が主流に

全く確証はありませんが、個人よりも状況についての文章が多い新聞が使い始めた可能性があります。毎日新聞のデータベースで調べると、見出しの最も古い例としては1960年に「本格化の矢先に冷水」、67年に「零細預金に冷や水」とあまり差がなく、どちらが本来とは明確にはいえません。

毎日新聞東京本社版で「冷水を浴びせ」「冷や水を浴びせ」の使用件数の大まかな推移を調べてみました。

1960~79年の20年間では「冷水を浴びせ」18件、「冷や水を浴びせ」4件。80~2009年の30年間では「冷水を浴びせ」297件、「冷や水を浴びせ」90件――と「冷水」が「冷や水」の3倍以上となっていました。60年からの約30年間はデータベースが未整備なので単純な比較ができませんが、おおむね「冷水」が「冷や水」を圧倒していることは間違いありません。

ところが2010~19年に「冷水を浴びせ」82件、「冷や水を浴びせ」146件と逆転。20年1月から22年7月まででは「冷水を浴びせ」17件、「冷や水を浴びせ」36件と「冷や水」が倍になっています。

どうも「冷水を浴びせる」から「冷や水を浴びせる」への流れはとどまるところを知らないようです。文中では「冷水を浴びせ」と書いているのに見出しで「冷や水」と記す例もありました。一般的に見出しは字数を少なくしたがる新聞の編集者が、これは逆に送り仮名が必要な表記を選んでいたのです。それだけ「冷や水」が一般的と思われている状況になったのでしょう。

「ひやみず」と打っても「冷水」が変換候補に

以前、この流れについて国立国語研究所に問い合わせたことがあります。担当者は、ことわざ「年寄りの冷や水」との関連を指摘しました。「『年寄りの冷や水』には悪いイメージがあったが、今使われなくなってきているので、知らない人は『冷や水』に悪いイメージを持たず、ちゅうちょなく『冷や水を浴びせる』を使うのではないか」(毎日新聞2014年8月13日「校閲発 春夏秋冬」)

面白い解釈です。ただ、関連を証明するのは至難の業でしょう。そもそも文字では、筆者が「冷や水」のつもりでも「冷水」の表記が出ている可能性もあります。手持ちのパソコンで「ひやみず」と打って変換すると候補に「冷水」も出てきてしまうのです。だからインターネットなどで「冷水」の頻度を調査しても、「ひやみず」を含むと考えられるので単純な比較は不可能。黙読する人も「冷水」を「ひやみず」と脳内で受け取っている可能性が捨てきれません。

件数はともかく両方正しい

その点、新聞は送り仮名の決まりがあるので「ひやみず」を「冷水」と書くことはできません。だから件数の比較に新聞のデータベースは有効です。

もっとも、各記事の文脈を全て調べたわけではありませんので、比喩としての用法ではなく実際に冷たい水を浴びせるという使い方がまぎれています。例えば数年前に幼児に冷水をかける虐待事件がありましたが、「冷水を浴びせ」という例が何件か出ています。ちなみにこの事件で「冷や水を浴びせ」と書いた記事は見当たりませんでした。

このように、以上のデータはあくまでも参考であり、学問的に検証するなら精度を上げなければなりません。それでも「冷や水を浴びせる」が「冷水を浴びせる」を圧倒してきているということは間違いないでしょう。

とはいえ、件数にいくら差を付けられても「冷水を浴びせる」を不適切としてはなりません。国語辞典には片方しか掲げていないものもありますが、どちらも間違いではないということは押さえた上で選んでほしいと思います。

(2022年08月25日)

質問に際して

高まった気分やムードをそぐことの比喩です。例えば、お盆休みでさあ帰省だ、レジャーだ、受け入れ側は書き入れ時だなどと思っていたところに、またしても新型コロナウイルス感染急拡大で「――を浴びせられる」と使います。「冷水」「冷や水」どちらも使われますが、どちらがより好まれていのでしょうか。▲実は毎日新聞の校閲による二者択一のアンケートを2014年にもしていました。そのときは「冷や水」が「冷水」のほぼ2倍になりました。▲今回のアンケートでは、単なる「水」も加えました。あるコラムで原発回帰の動きに関し「水を浴びせた」という表現が紙面に載り、「冷水」でも「冷や水」でもない表現は受け入れられるのだろうかと気になったためです。さて「水」はどの方面に流れるのでしょう。

(2022年08月01日)

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