「食りょう危機」という場合の表記に「料」と「糧」のどちらを用いるかは、「食糧」とした人が8割超を占めました。新聞の表記としては、今般の危機については「食料」が主に使われており、アンケートとのギャップが目立つことになりました。

「食りょう危機」という場合の漢字表記について伺いました。

大多数は「食糧」を選択

穀倉地帯での戦乱により「食りょう」危機が迫っている――どう書きますか?
食料 7.4%
食糧 84.6%
上のいずれでもよい 8%

 

意外なほどに使い分けの意識が強く表れました。「食糧」を選んだ人が8割を超え、「食料」は1割にも届かないという結果に。質問文に「穀倉地帯での……」という記述があるためだろうとは思いますが、ここまではっきり差がつくとは驚きました。

記者ハンドブックは「両様ある」

回答から見られる解説では、毎日新聞用語集の記述を引いて「食りょう危機」という場合には「料」「糧」のいずれもが使われると示しました。今年改訂された共同通信の記者ハンドブック(14版)も見てみましょう。

しょくりょう
=食料〔食べ物全体〕携帯食料、食料安保、食料サミット、食料自給率、食料品
=食糧〔穀類を中心とした食物〕(旧)食糧管理制度、食糧法、戦後の食糧難
〔次の場合は両様ある〕
食料(糧)援助、食料(糧)危機、食料(糧)供給、食料(糧)事情、食料(糧)需要、食料(糧)不足、食料(糧)問題、食料(糧)輸出(入)

校閲センターのツイッターにも「共同通信社の記者ハンドブックでも、どちらかの例より、『両様ある』とされている例のほうが多く記載されている」という声が寄せられましたが、まさにその通り。場合によって判断すべきだというケースが多く、案内があまりうまくいかないのです。

「料」と「糧」の違いは?

しかしこの「食料」と「食糧」、どの程度違うと考えるべきなのでしょう。熟語の中で異なる文字は「料」と「糧」。白川静「字統」を引くと、「料」は「米と斗に従う。斗は柄のついたますで、穀を量るもの」と言います。一方の「糧」は「量は穀量をはかる橐(ふくろ)の形。それによって一定量をはかるので、糧とは食糧をいう」とのこと。要するにどちらも穀物をはかることを表す文字で、文字の意味にあまり違いはないようです。

文化庁「言葉に関する問答集7」(1981年)は「『食料』と『食糧』の使い分け」という項目で、この語をどう扱うべきかに触れています。

「食糧」の糧には「かて、ねんぐ、ふち」の意味があり、「食糧」は農産物、特に米や麦などの穀類、つまり主食について用いることが普通〔である。〕

 

それに対して、「食料」は本来、食事の材料という意味であり、一般には、肉類・野菜・果物・調味料など、主食以外の食品を指していることが多い。

要するに使い分け方については、新聞社の用語集などとさほど変わらないということです。しかしさらに「米や麦などの主食と主食以外の食品をも含む広い概念としては、どちらを用いるかということが問題になる」というのですが、こうなると途端に歯切れが悪くなり、結局は「主要食品と主食以外の食品とを含む広い意味の場合に関しては、表記は必ずしも一定していず、揺れているというのが現状である」と結ばれます。なんだ、結局場合によりけりじゃないか、ということになりそうです。

ふさわしい表記をどう判断するか

しかし今回のアンケートでは「食糧」が8割を超えており、正直なところ意外でした。「食料」というと日常的な食料品と共通する面が目立つため、非日常的な戦争から引き起こされた「食りょう危機」とはなじまないと感じられたのではないかと推測しますが、どうでしょうか。

毎日新聞の記事データベースで、今回のロシアによるウクライナへの侵攻が始まってからの用例(2/24~7/13、東京本社版、地域面除く)を検索すると、「食料危機」が40件で、14件の「食糧危機」よりも優勢です。回答からの解説でも触れましたが、ウクライナからの穀物輸出の停滞が危機の一つのきっかけではあるものの、油や砂糖、肉類にまで禁輸措置が広がりつつあり、食物全般に影響が及んでいるためと考えます。共同通信の記事データベースでは「食料危機」が181件、「食糧危機」が1件のみと、こちらは明らかに表記が統一されているようです。

確かに「食料危機」で統一するというのも分かりやすい立場だとは思うのですが、今回のアンケートのように「食糧」をよしとする傾向が強い可能性も考えると、その場面に合った使い方を模索する必要があるのは間違いなさそうです。表記について「両様ある」というのは常にどちらでもよいということではなく、それぞれにふさわしい場面があるのだと考えるべきでしょう。

(2022年07月14日)

質問に際して

ロシアによるウクライナ侵攻で穀物の出荷が滞っていることが大きく影響し、食べ物の不足・高騰など「食りょう危機」が問題になっています。大変な問題ですが、この場合の「食りょう」を表すのには「食料」と「食糧」のいずれの表記を用いるのがなじむでしょうか。▲毎日新聞用語集は「しょくりょう」の項目で「食料〔食べ物全体〕食料自給率、食料品(店)、生鮮食料」「食糧〔穀物を中心とした主食物〕食糧安保、(旧)食糧管理制度、戦後の食糧難」といった使い分けを示しています。一方で「食料・糧援助」「食料・糧事情」など、両方の表記が使われる例もいくつか挙げているのですが、「食料・糧危機」はそちらに含まれています。▲要するに、場合によりけりということになるわけですが、今回の危機に関しては「食糧」よりも「食料」の方をよく見かけます。穀物の出荷ができないことが主因とはいえ、食品全般に影響が及んでいることが背景にあるのかもしれません。皆さんはどちらを選びましたか?

(2022年06月27日)

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