「年号」は「元号」のことか、「西暦の年」のことかという質問では、「元号」の回答が最多になりました。語呂合わせの覚え方で西暦の年をいう使い方が広がっているのかもしれませんが、「年号=元号」と押さえておきたいものです。

「年号」の意味についてうかがいました。

多数派は「元号」 「西暦」も伸長

「年号」といったら、何を表しますか?
元号のこと 56.8%
西暦の年のこと 19.7%
元号も西暦も表す 23.5%

 

本来の意味である「元号」の回答が最多となったことに、とりあえずは胸をなでおろしました。もっとも、「西暦の年のこと」と「元号も西暦も表す」を足すと半数に近くなることに、西暦の伸長をも感じます。

辞書の多くは「年号=元号」

紙面になった毎日新聞の記事でも西暦の意味での例はいくつか見つかります。

・一九七五年のことだったが、この年号に意味がある。
・西暦四八一年の……この年号から
・ヒトゴロシイロイロ。物騒な語呂合わせで年号を覚えた人もいるだろう。1564年に生まれ、1616年に亡くなった英文豪のシェークスピアだ。

「年号」を新潮現代国語辞典2版で引いてみましょう。

暦年に冠する称号。明治・昭和などの元号。「西洋には―なし〔国尽〕」

「国尽」というのは福沢諭吉の「世界国尽」(1869年)。この例をもって西暦を表すのは間違いと断ずるつもりはありませんが、他の多くの辞書もおおむね「年号=元号」です。

広辞苑7版は年号の起源など詳しく説明しています。

年につける称号。中国で、皇帝が時をも支配するという思想から、漢の武帝の時(西暦紀元前一四〇年)に「建元」と号したのに始まる。日本では六四五年に「大化」と号したのが最初。天皇が制定権を持ち、古くは辛酉・甲子のほか、即位(代始め)・祥瑞・災異その他の理由によってしばしば改められたが、明治以後は一世一元となり、一九七九年公布の元号法も、皇位の継承があった場合に限り改めると規定。元号。

西暦のことを指す余地など全く感じられません。

100年以上前から「西暦」の使用例

しかし、インターネットの「青空文庫」で調べると、古くは寺田寅彦の1921(大正10)年の世界旅行記に「ステインドグラスの説明には年号や使徒の名などがのべつに出て来た」とあります。これはもちろん大正などの元号ではなく西暦の年でしょう。

1925年の宮本百合子の日記に「1877と年号のついて居るフランスの剣」というのも見いだせます。ただ宮本百合子の日記には「昭和となった。自分いろいろに年号の換るのがいやだ。一九二六年でやってゆく方簡単でよろしい」という例もあり、西暦和暦関係なく使っていることがうかがえます。

そしてウクライナ出身の作家ゴーゴリによる「ディカーニカ近郷夜話」の1937年発行の岩波文庫では「一千……と、ええ、この面倒くさい年号と来た日にやあ、ぶち殺されたつて、すらすら言へるこつちやないが、さて……年に」(平井肇訳)。

語呂合わせで年号の用法広がった?

面倒くさいといえば、歴史の授業で、事件などの起こった西暦年を覚えさせられることほど面倒くさいものはありませんでしたよね。そごで、西暦の年を語呂合わせで覚える受験対策が広がります。それとともに、西暦の年のことも年号という言い方が多くなったのではないでしょうか。

三省堂国語辞典8版には

①としにつける称号。元号。例、令和。②歴史上のとし。「―をごろ合わせで覚える」

とあります。語釈には西暦と書かれてはいないものの、先に挙げたシェークスピアの生没年などはまさにこの②の用例に当たりますね。その解釈でいえば、明確に「間違い」とはいいにくいかもしれません。

解釈拡大に加担したくはない

ただし、年号を西暦の年の意味で使う用法がいかに広がっているといっても、「歴史上のとし」ということは、例えば2018年だと「年号」というのはふさわしくないともいえるでしょう。今回の質問のきっかけは、ある原稿に2018年の数字を「年号」と書いた部分があったことです。「西暦」と直してもらいました。

仮に歴史上の年の西暦については年号も使えるとしてしまうと、「歴史上」の年とはいつまでならいえるのかという微妙な判断になります。結局「歴史上」という限定もなくなり、年号は西暦の年のことと思う人は増える一方になるかもしれません。

だからといって、新聞でそういう例を次々出してしまうと、辞書改訂に携わる人はそれを根拠に年号の語釈をどんどん拡大させてしまう可能性があります。校閲としてはそれに加担してはならないと思います。

(2022年06月16日)

質問に際して

2019年5月1日の令和への改元から3年がたちました。ところで、令和とか平成とかいう区分のことを何と呼んでいますか? 改元といいますし、元号法という法律もあります。だから「元号」と呼んでいるかたが多いのではないでしょうか。▲ただし「年号」という言い方もあります。集英社国語辞典3版は「元号の通称」として「元号」を引くよう促しています。▲ところが最近、元号ではなく、西暦2018年の数字をいっているのに「年号」と書いた原稿がありました。「西暦」に直してもらいましたが、その後、三省堂国語辞典8版を引くと②の意味に「歴史上のとし」とありました。その広い意味がさらに拡大しているのでしょうか。もしかしたら「元号」が主に使われるようになって、それに対し西暦の年を「年号」と呼ぶ言い方が広がっているのかもしれないと思い、今回うかがってみることにしました。

(2022年05月30日)

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