スポーツ記事で見かける「8強の壁」という言い回しは、「16強止まり」とした人が3分の2を占め、「8強止まり」の4倍に上りました。ただし文脈によって意味が変わる傾向もみられ、解釈が分かれることは押さえておくべき言葉だと言えます。

「8強の壁」という言い回しについて伺いました。

3分の2は「16強止まり」

スポーツ記事で「8強の壁」と言ったら、どういうことと受け止めますか?
16強止まりで、8強に上がれない 66.6%
8強止まりで、4強に上がれない 16.1%
上のいずれにも取れるので困る 9%
上のいずれにも取れるが、文脈から理解できれば問題ない 8.3%

 

スポーツ記事で見かける「8強の壁」という言い回しをどう受け止めるかは、「16強止まりで、8強に上がれない」こととした人が3分の2を占めました。その一つ上の段階、「8強止まり」とした人の4倍に上り、使用するならば「16強止まり」の意味で使うのが誤解を招きにくいと言えそうですが、なかなか悩ましい言い回しであることは確かです。

クリアすべき対象としての「壁」

「壁」を国語辞典で引くと、今回の質問のような意味としては「前進を阻むもの。進展の妨げとなるもの。障害。『記録の壁を破る』『開発が壁にぶつかる』」(大辞泉2版)のような説明が出ています。越える(破る)べき対象で、それをどうにかしないと先に進めないものが「壁」というわけです。

他の辞書からも「○○の壁」という用例を探してみると――「法律の壁は厚い」「ついに二時間六分の壁を破った」(新明解8版)、「時効の壁」(三省堂8版)、「一〇〇メートル一〇秒の壁を破る」(明鏡3版)、「記録の壁を破る」「言葉の壁を乗り越える」(現代国語例解5版)など。普通の用例で「○○の壁」といった場合には、「壁=○○」というケースが多いようです。すなわち「法律」や「二時間六分」「言葉」といったものに阻まれて先に進めない、これらがクリアすべき対象であるということです。

「壁=8強」とするなら…

さて、こうした考え方を「8強の壁」に当てはめることはできるでしょうか。「壁=8強」とすれば、「8強」に阻まれて進めない、ということになり、これは8強になれないと考えるのが素直であるように思えます。質問の選択肢に即せば「16強止まり」で、これを選んだ人が最も多かったというのもうなずけます。

ただ一方で、「8強の壁を突破」「8強の壁を越えた」といった場合にはどう感じるでしょうか。辞書にあった「100メートル10秒の壁を破る」のような例では、「10秒の壁を破る=9秒台の記録を達成する」ということですから、「8強の壁」を突破したなら4強に進むのだろう、と受け止めるとしても無理はないと思うのです。

解釈の絞られる書き方を

実際の用例を見ると、「(サッカー日本代表が)これまで3度はね返されたW杯8強の壁を越えるためにも……」といった場合には「16強止まり」で足踏みしているということですし、「(準々決勝で勝って)8強の壁を突破し『最高の試合内容だった』と自賛した」といった場合は「8強止まり」を克服して4強に上がったということです。

今回の質問に際して用例に当たった印象では、上のように「8強の壁に阻まれる」場合は16強止まりを意味し、「8強の壁を破る(越える)」場合には8強止まりを意味する、という大まかな傾向があるようです。質問では文脈なしで「8強の壁」といった場合にどう受け取るかを伺った結果、「16強止まり」が多数を占めましたが、こうした文脈に沿って読めば、いずれの場合でも受け手が意味を取り違える可能性は低いかもしれません。

しかしそれでも、「8強の壁」という一つの言い回しが二つの意味を持ってしまうのはあまり好ましいことではないでしょう。こと報道に関しては、受け手によって捉え方が分かれるような言い回しは避けなければなりません。「壁を越えられず8強に進めない」「8強止まりという壁を突破する」など、解釈の幅を狭めた書き方をするのが無難であると考えます。

(2022年05月05日)

質問に際して

例えば「なんとしても8強の壁を越えたかったが、あと一歩及ばなかった」と書いてある場合に、皆さんはどう受け止めるでしょうか。これは8強進出を懸けた野球の試合で敗れたチームについての記事です。「8強の壁」を越えたら4強になるのでは?と思った人もあるかもしれません。▲一方で、サッカー日本代表について「これまで3度はね返されたワールドカップ8強の壁」と書かれた記事も。これもやはり8強に進めない、16強から上に行くことができないという趣旨なのですが、はね返されたのであれば「8強の壁」で良いようにも感じます。▲極端な例としては、準々決勝で敗れたチームに見出しは「4強の壁」とあるのに、記事中には「8強の壁を破るのに一番の課題は」という文言が。要するに、▽立ちはだかるものとしては現在地より一つ上の水準、16強からは「8強の壁」を見上げるが、▽破る(越える)かどうかが問題になる場合は現在地の水準が対象になる――という説明を思いつきましたが、あまりすっきりはしないようです。皆さんはどう感じるでしょうか。

(2022年04月18日)

9/30(金)19時~ オンラインイベントを開催

「記者時代、訂正・おわびにつながる間違いを校閲記者に助けられること数知れず」という毎日新聞人事本部の三木陽介・採用担当部長が司会を務め、校閲記者が舞台裏を語るオンラインイベントが9月30日(金)19:00〜20:30に開催されます。

チケットは一般1650円、学割550円。文章の校閲・構成に興味がある方から「毎日ことば」のファン、さらに、ことばそのものに興味がある方まで幅広くお楽しみいただける内容です。

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