「人を殺すのを」に続くのは「やめろ」を選んだ人が圧倒的でした。新聞では「止めろ」と書くと「とめろ」という読みになるのですが、「とめろ」のつもりで「止めろ」と書いても「やめろ」と読者に読まれる可能性が大きそうです。

「人を殺すのを」に続く反戦デモの呼びかけとしては「とめろ」か「やめろ」か、うかがいました。

「とめろ」は無理があるのか

反戦デモの呼びかけで「人を殺すのを○○」――マルの部分は?
とめろ 4%
やめろ 73%
どちらもいう 23%

 

「やめろ」が7割以上で「とめろ」を選んだ人が約4%――これには少々驚きました。
戦争の場合「やめろ」という方がストレートな反戦の呼びかけであることはわかります。しかし戦争をやめる決定を下せるのがロシアのプーチン大統領である以上、戦争の当事者でない国の場合、プーチン大統領を「とめろ」と周囲に圧力をかけることはあってしかるべきでは。そう考え、「とめろ」や「どちらもいう」がもっと多くなることを予想していました。

実際に、デモをする人を撮った写真には「STOP PUTIN STOP WAR」と書かれたものがありました。「STOP」だから「とめろ」が正しいとはいえませんが、「プーチンをやめろ」ではおかしいですね。ロシア国民あるいは国際社会に向け「プーチンをとめろ」「戦争をとめろ」と訳すのも無理はないのです。

アンケートに対する読者の投稿にも次の受け止め方がありました。

「やめろ」は殺害行為の主体に向けて。ウクライナ侵攻の例ではロシア軍やロシア政府。
「とめろ」は「やめさせろ」の意味で、対象は殺害行為主体の周囲。日本でのデモなら日本政府が第一対象。ロシア国民や日本国民を含めることも可能。

しかし、今回のアンケートでは、周囲を動かすという考えは遠回りに過ぎると受け止められたかもしれません。

常用漢字表では「止めろ=とめろ」だが

今回のアンケートのきっかけとなったのは、日本の集会でウクライナ人などが「ウクライナ人を殺すのを止めろ」などと書かれたプラカードを掲げ、戦争反対を訴えた――という毎日新聞記事でした。後で動画を見ると「STOP KILLING UKRAINIAN PEOPLE」という文字が確認できました。記事中のプラカードの日本語は記者が訳していることになります。

新聞では常用漢字の音訓の範囲内で書くのが原則であり、「止める」には「やめる」の読みがないので、「止めろ」とあれば「やめろ」ではなく「とめろ」と読ませます。校閲としては、明らかに「やめろ」の意味であれば「止めろ」を「やめろ」に直すようにします。しかしこの場合、明確に「やめろ」とする根拠がないため、担当者は「止めろ」のままにしたそうです。

しかし、今回のアンケートを受け、「とめろ」のつもりで「止めろ」と書いてあったとしても、ほとんどの読者は「やめろ」と読んでしまうのではないかという声があがりました。

それならそれで一般読者にとって違和感はないかもしれません。しかし同じ記事を転載したうえ、全ての漢字に読み仮名を付ける方針の毎日小学生新聞では「止(と)めろ」としました。こうなると読者に違和感をもたらさなかったか、やや心配です。

誰に向けて言っているのか

悩ましいのは戦争関連だけではありません。今回のアンケートに際してはこんな反応もありました。

これもよく見る「原発止めろ」はどうなのか? 「原発の稼働をとめろ」ということなのか「原発事業をやめろ」という意味が込められているのか。どう読んでいいのか、デモをしている人に尋ねてみたい気がします。

先年亡くなった中国文学者の高島俊男さんは「漢字と日本人」(文春新書)で

「止める」というような書き方はしないほうがよい。これでは「やめる」なのか「とめる」なのかわからない。

と書いています。確かに、常用漢字表に基づき「『とめる』は『止める』」「『やめる』は仮名」と使い分ける習慣がない人にとって、完全に平仮名で分けた方がわかりやすいですね。

とはいえ、正確な報道を期するなら、プラカードを持つ人にいちいち「この『止めろ』は『やめろ』ですか『とめろ』ですか」と聞かなければならず、平仮名で統一するのはなかなか難しいかもしれません。でも、それを聞くことを通して「誰に向けて言っているのか」を明らかにすることも報道機関の役割ではないかとも思うのです。

(2022年03月25日)

質問に際して

ロシアのウクライナへの侵攻で、各国でロシアに対する抗議集会・デモが広がっています。先日も、「ウクライナ人を殺すのを止めろ」と書かれたプラカードを掲げて戦争反対を訴えるウクライナ人らの集会が記事になりました。▲この「止めろ」は「とめろ」と読むべきでしょうか。それとも「やめろ」? 実は常用漢字表の「止」の音訓には「シ、とまる、とめる」とあり「やめる」はありません。だから常用漢字表の原則に従えば「止めろ=とめろ」と読むしかないのです。もし「やめろ」なら「止」を平仮名にしなければなりません。▲しかし、一般的に「戦争をやめろ」という表記も多く目にします。戦争を起こした国に対する抗議の言葉としては「とめろ」「やめろ」のどちらがふさわしいのでしょう。「どちらもいう」としたら、どう使い分ければいいのかもお考えくださればと思います。

(2022年03月07日)

9/30(金)19時~ オンラインイベントを開催

「記者時代、訂正・おわびにつながる間違いを校閲記者に助けられること数知れず」という毎日新聞人事本部の三木陽介・採用担当部長が司会を務め、校閲記者が舞台裏を語るオンラインイベントが9月30日(金)19:00〜20:30に開催されます。

チケットは一般1650円、学割550円。文章の校閲・構成に興味がある方から「毎日ことば」のファン、さらに、ことばそのものに興味がある方まで幅広くお楽しみいただける内容です。

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