「病床があふれる」という表現は「言い換えたい」とした人が3分の2近くに上りました。「多少違和感はあるが、許容範囲」と合わせると9割が違和感を示しています。意味は分かるが、光景を想像すると奇妙に感じるという人も多そうです。

「病床があふれる」という表現についてどう感じるか、うかがいました。

回答の9割が「違和感あり」

(新型ウイルスの流行で)「病床があふれる」――この使い方、どうですか?
特に違和感はない 10.1%
多少違和感はあるが、許容範囲 26.1%
違和感がある。言い換えたい 63.7%

 

「違和感がある。言い換えたい」を選んだ人が3分の2近くに上りました。「多少違和感はあるが、許容範囲」と合わせると、9割が違和感を持ったということになります。言わんとしていることは分かるけれども、上のイラストのようにベッドが外へとあふれてくるような表現に感じられてひっかかったという人も多いのではないでしょうか。

あふれるのは「人」のはずだが…

「あふれる」は漢字で書くと「溢れる」となり、「溢」は「水が器にみちて、外にこぼれでる。水が堤の外にあふれ出る」(学研漢和大字典)という意味を持ちます。部首がさんずいであることからも分かるように、元々は水が器からあふれ出すさまを示した漢字です。

新型コロナウイルス流行の第5波では感染爆発が起こり、医療体制は逼迫(ひっぱく)した状況に追い込まれました。感染者が急増し、本来であれば入院が必要な人(=患者)を病床に収容できないケースも多数発生しました。そんな緊急事態を「病床があふれる」と表現したのでしょう。

とはいえ、この場合の“器”は病床であり、そこからあふれてしまうのは患者です。「あふれる」主体は患者なので、「(病床から)患者があふれる」とするのが正確でしょう。あるいは病床を主語にするなら「病床が足りなくなる」としてもいいですね。

「あふれる=いっぱいになる」という意味も

一方、「溢」には「溢(み)ちる」という読み方も存在し、「ある空間にものがいっぱいつまる」(同)ことも表します。「あふれ返る」「満ちあふれる」などの「あふれる」はこの意味で使われており、実際にあふれ出すかどうかよりも、あふれ出しそうなほどいっぱいに満ちていることに力点が置かれています。「病床が外にあふれ出す」ではなく、「病床があふれ返る=病床が患者でいっぱいになる」と考えれば、さほど違和感はありません。

さらに言えば、「病床」が「患者が療養しているベッド」の意味で使われることもあります。例えば「確保病床数」の「病床」は、病院が設置しているベッドのことですが、「病床を回って診察する」のような言い方では、「病床」は一種の比喩として、入院している患者たちのことを指します。このような視点から捉えても「病床があふれる」を「患者が療養しているベッドがいっぱいになる」と解釈することは可能です。

自然な流れを心がけたい

以上を踏まえると、「病床があふれる」という言い回しは必ずしも誤りだとは言えないでしょう。しかし、ぱっと見ただけだと違和感を持たれかねない表現ゆえ、「患者があふれる」「病床があふれ返る」などとした方が書き手の意図がはっきり伝わり、自然な流れになると思います。

(2021年12月24日)

質問に際して

新型コロナウイルス流行の第5波を振り返り、専門家がインタビューに応じた原稿を読んでいると、「病床があふれる」という表現が何度も登場しました。流行により患者が急増して病院のベッドが足りなくなる様子だとは理解できますが、その言い回しにどこか引っかかりを覚えました。▲「あふれる」とは「いっぱいになって外に出る。中に入りきれず外に出てくる」(広辞苑7版)こと。「病床があふれる」だと病床が外に出てくることになってしまいます。流行によって「患者」が「病床」に入りきれず外に出てくるという状況であれば、「病床から患者があふれる」とした方が正確でしょう。▲同じ原稿中には「病床は埋まり、あふれる人が出ます」「病床逼迫(ひっぱく)は避けられません」との表現もありました。この書き方なら問題ありませんね。「病床があふれる」は「病床が足りなくなる」と直すことにしました。▲医療従事者や専門家の立場からすれば、「病床=患者が療養しているベッド」で、「患者を収容したベッドが病院内にあふれかえる」といったニュアンスなのかもしれませんが、みなさんはこの言い方、どう感じますか?

(2021年12月06日)

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