魅力的な物事には即座に飛びつく――そんな場面で「軽率に」を用いることについては、「わからない、ふさわしくない」とする回答が7割超と圧倒的でした。自虐とユーモアのにじんだ使い方とも感じられますが、抵抗のある人が多いようです。

「軽率に」の使い方についてうかがいました。

「わからない、ふさわしくない」が大多数

「回らないおすし食べに行かない?」「『軽率に』行く!」――二重カギの中、どうですか?
意味がわからない。「軽率に」は場面にふさわしくない 73.3%
腰が軽く、「深く考えず」承諾する自分を冗談めかして強調している 24.7%
「考えるまでもなく」という意味で受け取り、違和感は小さい 2%

 

質問文のような形で「軽率に」を用いることについては、「意味がわからない、場面にふさわしくない」と断じる回答が7割超と圧倒的でした。予想していた結果ではありますが、やはり認知度は低く、受け入れがたいと感じる人が多いようです。

「考えない→軽率」という使い方

「温泉行きたいな」「いいじゃん。軽率に行こうよ」
「好きなブランドの新作がよすぎる。軽率に買うわ……」
――SNSなどで、このような「軽率」の使い方を見かけるようになりました。

「軽率」とは「注意深く物事を考えることなく、すぐ決めたり、したりする態度であること。かるはずみ」(岩波国語辞典8版)。他の辞書も「深く考えない」ことを中心とした語釈を載せており、大きな違いはみられません。新明解国語辞典8版は「事の善悪・成否などをよく考えずに何かをすること」と、「何を」考えないのかという内容にまで踏み込んで記述しています。

新聞紙面では、不祥事を起こした企業の謝罪の記者会見や、不用意な発言で人を傷つけた権力者を批判する場面などでしばしば登場します。思慮が浅く、後先を考えずに動いて事態を悪化させ、他人に損害を与えるなどよくない結果を伴う態度や行為について、批判したり、本人が自らを反省したりする際に用いられることが多いです。

上に挙げたような例にはこういった深刻さや非難のニュアンスはなく、規範的な使い方とは言えません。しかし、「深く考えない」という辞書の語釈に照らせば、本来の意味を完全に逸脱しているとも言い切れないように感じ、評価に迷います。

自虐とユーモアにじませ

このような「軽率」の使い方をいつごろから誰が始めたのか、確かなことはわかりませんでしたが、インターネット上では2014年ごろには既に広がりを見せていた様子が見られます。SNSを中心に内輪で使われる若者言葉のようなものと思われ、出題者の観測範囲では10~30代くらいの、趣味に没頭するタイプの人が、娯楽や嗜好(しこう)品に手を出す際に使う例が目立ちました。

娯楽は心地よく楽しいものである一方、自分を甘やかしすぎると人はだめになってしまいます。「回らないおすし食べに行かない?」「軽率に行く!」という質問文の例で言えば、もちろんおすしは食べたいけれど、高級な食事は身の丈に合わないぜいたくではないのか? こんなに遊んでいていいのか? 二つ返事で承諾したら暇な人間だと思われるのでは?など、内心では葛藤があるかもしれません。日程の調整やお金の用意も必要です。それなのに「行く!」と即答してしまう、だって行きたいから。細かいことを顧みず、欲望に正直な自分って「軽率」だなあ……という、ゆるい自虐のような、ユーモラスな雰囲気がにじんでいるように出題者は感じますが、いかがでしょうか。

伝わらないこともありそう

数人の同僚に意見を求めると、「フットワークが軽いことを自虐や自嘲を込めて言う意図なら理解できる」「考えるまでもなくやってしまう、という感じは伝わる」「海外旅行や遠征(居住地から遠いところで開催される舞台などを見に行くこと)のように、実現に時間やお金のかかるお誘いをあっさりOKするなら確かに『軽率』感がある」などと受け止めていました。

ただ、聞き手に理解してもらうのは難しいかもしれません。アンケートで「意味がわからない、文脈にふさわしくない」と答えた人が7割を超えたことからも、出題者のような受け取り方は一般にはほとんど浸透していないことがうかがえます。

冗談めかしたつもりが全く伝わらず、それどころか、言われた側が「自分と食事に行くのは『思慮が浅くて軽はずみ』というわけか?」と不快に感じることもあるでしょう。あくまで気心の知れた友人などにのみ通じる話し言葉と捉えるのがよさそうです。

さらに変化した用法も

またツイッター検索では、質問文の例からも大きく外れて、「この漫画おすすめだから軽率に読んで!」「軽率に遊びに来てほしい」といった使い方も多く見られ、気になります。こちらは完全に「気軽に」への置換が可能で、しかも他人の行動についてポジティブな文脈で「軽率」と言っており、衝撃的です。仲間内の冗談のつもりでオーバーな表現をして楽しんでいたのが、だんだんそれが元々の意味であるような感覚になり、誤用と言うべき範囲にまで使い方が拡大してしまった例でしょうか。

既存の言葉をわざとおかしな文脈で用いれば、強いインパクトを与える効果はありますが、同じ言葉を話す人と共有しているはずの土台を揺るがし、意思の伝達を困難にしてしまうことにもなります。軽い気持ちで「軽率に」などと言い募って、本当に心底軽率な人だと思われるのも寂しいので、冗談もほどほどに。新聞ではまず登場しないネット語ですが、今後も使われ方に注目していきたいです。

(2021年12月10日)

質問に際して

「回らないおすし食べに行かない?」「軽率に行く! いつでも誘って」。友人同士の会話ですが、ツイッターなどを中心にこのような「軽率」の使い方を目にすることがあります。▲「軽率」とは「十分に考えないで、決めたり行動したりするさま。かるはずみなさま」(日本国語大辞典)。不用意で思慮が浅く、よくない結果を伴うなど、本来はネガティブな印象を与える言葉です。それが一部の人たちの間では、多く「軽率に」という副詞的な形で、「気軽に」「二つ返事で」のような意味で使われる実態があるようです。▲規範的な用法ではありませんが、独特のニュアンスもあるかもしれません。上記の例なら、たとえば提案の内容がぜいたくでお金がかかったり、遊びに行くにはスケジュールを調整する必要があったりと、本当は返事をする前に考慮すべきことが多々あるが、そんなことは差し置いて勢いでうっかりOKしてしまう――という意味だと推測されます。▲「後先を考えず、自分の欲望に正直であること」を、やや自虐的に、ユーモラスに表現しているのではないかと出題者は解釈しますが、果たしてそんな意味の広がりは受け入れられるのでしょうか。新聞ではまず登場することのない用法ですが、感じ方を伺ってみたいと思います。

(2021年11月22日)

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