球場の「お膝元」という表現には「違和感が強い」とした人が7割を占めました。本来は貴人のそばや支配の及ぶ範囲を指す言葉。その土地で存在感があるものについて使う場合もありますが、誰もが受け入れ得る表現とは言えないかもしれません。

「お膝元」という言葉の使い方について伺いました。

7割は「違和感強い」

甲子園の「お膝元」、兵庫県西宮市――この書き方、どうですか?
「お膝元」は権力が及ぶ場所のこと。球場に使うのは違和感が強い 69.5%
「甲子園があることで有名な西宮市」と受け止め、許容できる 30.5%

 

球場の「お膝元」――という表現には「違和感が強い」とした人が7割程度。3割の人が「許容できる」と回答しました。「熊谷ラグビー場のお膝元、埼玉県熊谷市」と書かれた原稿に遭遇し、球場などの単なる所在地についても「お膝元」を使えるのだろうかと違和感を覚えたことが、質問のきっかけでした。「違和感が強い」との回答が7割とかなりの割合を占め、この書き方に疑問を呈した出題者にとっては心強い結果となりました。

基本的な意味は「貴人のそば」

「お膝元」の意味を辞書で引き比べてみると、

①貴人などのいる所。また、そのおそば。②天皇や将軍など、国権掌握者の居住している土地。江戸、東京をさすことが多い。(日本国語大辞典2版)
①(天子または将軍など)政権を持つ者のいる地。また、有力者などの本拠地。②貴人のそば。(岩波国語辞典8版)
①「膝元」の尊敬語。②庇護してくれる人や権力者に近い所。特に、天皇や将軍の住む所。(明鏡国語辞典3版)
①貴人のおそば。②天皇や将軍のいる土地。首都。③権力者の直接の支配下。(大辞泉2版)

といった具合で、いずれも「権力者や高貴な人の本拠地、支配や庇護(ひご)が及ぶ所」のニュアンスを伴います。質問文のように「甲子園のお膝元、西宮市」というと、出題者の感覚ではまるで西宮市が甲子園の支配下にあるかのように思え、疑問に感じられます。

一方、新明解国語辞典8版は「お膝元」の語釈の2番目に「物事の活動(生産)の中心となる地域」と記し、用例として「高校球児たちのメッカ甲子園の――兵庫県」を挙げています。「権力者」から対象が拡大し、「中心となるもの、有名なもの」まで広がった使い方も認められていることがうかがえます。

地元にとって大きな存在に使う傾向

実際に毎日新聞のデータベースで過去の使用例を調べると、「菅義偉首相のお膝元、横浜市」のように政治家の出身選挙区を指したり、「バチカン(ローマ教皇庁)のお膝元、イタリア」「米自動車大手3社のお膝元、ミシガン州デトロイト」のように本拠地を指したりする使い方が大半でした。

しかし「東京スカイツリーのお膝元、墨田区押上」のように、より気軽な文脈で使われた例も一定数見られます。「お膝元」というからには権力者でなければ不自然、というほどではなく、単にその土地で存在感の大きなものについて言うのに広く使われ、ある程度許容されているのが実情のようです。

ピンとこない人もいるかも…

ただそこに立地しているという意味にとどまらず、地元の人たちに大事にされ、経済的・精神的によりどころとなっているような、その地のシンボルのような存在であれば、敬意や親しみを込めて「お膝元」を使いたくなるのかもしれません。その感覚を共有している読者にとってもしっくりくる表現となるでしょう。

一方、そこまでではないと感じられる場合には、「地元」などで十分ではないか、という提案もできそうです。対象をどう評価し位置付けるか、書き手の意図や読者が受ける印象を想像し、納得して使いたい言葉です。

(2021年09月03日)



質問に際して

実際に目にした原稿には「熊谷ラグビー場のお膝元、埼玉県熊谷市」とありました。「お膝元」は、「①貴人などのいる所。また、そのおそば。②天皇や将軍など、国権掌握者の居住している土地。江戸、東京をさすことが多い」(日本国語大辞典)とされるように、「権力のある人や組織の本拠地、支配が及ぶ範囲」のイメージです。

単なる所在地の意味で使うには違和感があるように思い、相談の上で、その時は「熊谷ラグビー場のある埼玉県熊谷市」と直すことになったのですが……。「所在地」と「何らかの権力が及ぶ範囲」との線引きは曖昧です。最近では、東京オリンピックについて報じるニュースで「大会の『お膝元』(である東京)」との表現も何度か使われていました。その土地においてひときわ存在感の大きいものに対して「お膝元」を使いたくなるのかもしれません。

接頭語の「お」を付ける前の「膝元」はもともと「膝のすぐ近く」「身の回り」の意味であるため、何か大きなものの近く、という場所を表す表現として、誤りとも言い切れません。「お膝元」、どんな場合に使いますか?

(2021年08月16日)

 

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