いわゆる“オタク”層で主に使われてきた「推し」。どれだけ一般に理解されているかという質問でしたが、「意味がわかる」とした人はなんと96%。芥川賞作品のタイトルにも使われるなど、すっかり浸透した様子がうかがえます。

「推し」という言葉について伺いました。

「わかる」人が96%

「推し」――意味はわかりますか?
わかるし、使う 56.9%
意味はわかるが使わない 39.8%
わからない 3.3%

 

いわゆる“オタク”層で主に使われてきた「推し」ですが、どれだけ一般に理解されているのでしょうか。近ごろは朝のテレビ番組で取り上げられたり、「推し、燃ゆ」(宇佐見りん著)というタイトルの作品が芥川賞を受賞したりと、耳にしたことがある方は多いだろうと想定していました。アンケートの結果、「意味がわかる」とした人はなんと96%にのぼり、誰に対して使用しても意思疎通にほぼ支障がないことがうかがわれます。

最近は国語辞典も採録

中でも「使う」とした方は全体の6割弱。この数字だけを見ても、何かに熱中する人の多さを物語っているように思います。「推し」に相当する相手がいても使わない層もいると考えられるので、実際はさらに多いのかもしれません。なお、某かいわいでは「推し」に類する言葉の「担当」「ひいき」などが使われています。

「推し」はもともと「推す」から派生した語で、“推薦する”意味合いを引き継いでいます。辞書で「推し」をひくと、大辞林第4版(2019年9月発行)には「推すこと。特に、『応援していること』『ファンであること』をいう若者言葉」、明鏡国語辞典第3版(2020年12月発行)には「特に引き立てて応援している人や物。お気に入り」とあり、比較的新しい辞書では採用されつつあります。

ただ語釈を見ると、前者はファンの立場、後者はファンから見た“相手”と指す対象がやや違い、いまだに形を変えている言葉であるといえます。さらに“相手”は人やブランド、物、場所……と、使用範囲が広いのも説明が難しい要因です。

実際の使われ方は?

違いが出るのは対象だけではありません。どんな気持ちを持つ相手に対して使用するのか、どのような場面で使用するのか、これも人によってさまざまです。この解説を書くにあたり同僚に相談した際にも、出題者と同僚では「推し」という言葉に対するイメージに開きがあり驚きました。では実際に「推し」という呼称が身近にある人はどのように捉えているのでしょうか。何人かに聞いてみたのでご紹介します。

自分が格別にひいき、応援している対象を指します。対象は人・モノを問いませんが、総じて相手から己が認識されない不特定多数に属していることが条件で、家族や友人、恋人には「推し」を使いません。なお恋愛感情を伴い、対象を恋人に見立てることもありますが、その場合も現実には関係性が無いため「推し」を使います。

「推し」の意味が多様化していて複雑なので、自分の好きなキャラクターや人物を、それらについてあまり詳しくない方に、包括的に話す際に、「推し」という単語で表現しています。一方でそのキャラクターや人物に詳しい友達などと話す際はあまり使わず、好きな対象に抱く感情をより具体的に表現する言葉を代わりに使います。

アニメやゲームのキャラクターに対して使います。「推し」は好きや憧れ、崇拝などいろいろな意味が含まれていて、自分が対象に向ける感情をまとめて表すことができて便利です。また、「推し」という言葉を使うと恋愛感情の有無がうやむやになる気がして、周囲へのカムフラージュという意味でも使っています。

次元を問わず「(画面の)向こう側」におり、生きている世界が違うことが前提で、応援したい相手を「推し」と呼んでいます。個人的には「好き」「かっこいい」といった言葉は生々しく思え、「推し」に対して自分の感情をぶつけてしまう感じがあり、あまり使いません。また、自分側の世界の人は「推し」にはなりません。

趣味の文脈で、主に人間やキャラクターや、その組み合わせに対する一方通行の感情に使われるイメージです。「好き」に含まれる重たさ、現実っぽさ、なれなれしさが除かれたような感じ? 一方でかなり高い熱意が求められるように思えて、個人的にはちょっとハードルが高いです。そのため、私はあまり使いません。「推」のイメージが自分の感覚に合わないのもあります。

推し=好きで応援している人や物、と思っていますが、周りでは単なる「好き」にとどまらず、生きるための心の支えや信仰に近い気持ちであったり、自身の欲望の投影であったりと、とにかく特定の対象に強く心を動かされたオタクの雑多な感情を一言にまとめた概念として使われている印象です。その「全部ひっくるめた便利ワード」のようなあり方がかえって表現の幅を狭め、個人的には物事の解像度を下げるように感じるため、使いません。

このように、単に「応援している相手」というだけでなく、恋愛感情の有無や距離感をぼかす目的で使用したり、自身の応援している対象には積極的には使用しなかったりと、「推し」という言葉だけではその背景までは推察できないことがわかります。

日本語らしい幅のある言葉かも

「やばい」「えぐい」など、近年「若者言葉」と称される語は使用者や場面によって意味が変わってきます。「推し」は幅広い年代で使われている印象こそあるものの、近年使用されるようになった言葉という点では「若者言葉」に近いように思います。

受け手によって印象が変わってしまうのは困りものですが、これも物事をはっきりとさせない日本文化ならでは。いわゆる“日本語の妙”というものなのかもしれません。

(2021年08月27日)



質問に際して

2021年7月16日に掲載した解説で「出題者は外出中に推しのポスターを目にしたりすると……」と書きました。同僚に文章をチェックしてもらっていると、「『推し』という言葉はどの程度、一般に浸透しているのだろうか?」という話に。朝のテレビ番組でも取り上げられているため耳にしたことがあっても、自分は使わない、意味はピンとこないという方もいるのではないでしょうか。

「推し」は近年では辞書にも掲載されるようになってきました。主要な国語辞典で一番最近に出た明鏡国語辞典3版は「特に引き立てて応援している人や物。お気に入り」と説明しています。主に”オタク”と言われる人が使う言葉だったと思いますが、こんなふうに辞書に載るようになったとは……。しかし、日本のオタク人口は増加傾向にあるとの試算もあります。今後耳にする機会がさらに増えるであろう「推し」について考えてみたいと思います。

(2021年08月09日)

 

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