話し言葉ではもはや普通ともいわれる「すごいうれしい」などの「すごい+形容詞」。今回の五輪メダリストもよく使っていましたが、少なくとも書き言葉としては文法上正しい「すごくうれしい」に直すべきだとの回答が半数を超えました。

「すごいうれしい」という発言を書き言葉で伝える場合、そのまま表記すべきか、「すごくうれしい」に直すべきかという質問でした。

発言でも「直すべきだ」が多数

発言の「すごいうれしい」を書き言葉で伝える場合、どう表記すべきでしょうか。
そのまま「すごいうれしい」と書くべきだ 8.5%
文法上正しい「すごくうれしい」に直すべきだ 57.5%
状況による 34%

 

「すごくうれしい」に直すべきだとの回答が半数以上という結果になりました。「状況による」という回答も多いのですが、発言の書き起こしでも書き言葉の文法にのっとるのが適切という人が多いことが分かりました。

「すごい+形容詞」を連発するメダリスト

オリンピックでは、競技者の発言がしばしば話題になります。過去の大会で有名になった「なんも言えねえ」(2008年北京五輪の北島康介さん)、「チョー気持ちいい」(04年アテネ五輪の北島さん)、「めっちゃ悔しい」(00年シドニー五輪の田島寧子さん)など、新聞のニュース記事ではまれな、くだけた話し言葉が紙面に堂々と登場しました。

今回はというと、人それぞれでしょうがあえて最も印象的な発言を挙げると、最年少の12歳で銀メダルを取ったスケートボード女子、開心那(ひらき・ここな)選手の「すごい重いです。今までで一番重いです」です。銀メダルの感想ですが、今まで必死で練習してきたことを重ね合わせた心理的表現と思いきや、実はどうやら本当に重量が重かったということともいわれます。そして、やはりスケートボードの金メダリスト、堀米優斗選手も「すごいうれしいです」と言っていて、「すごい+形容詞」という言い方が当たり前のように出てくることに興味をそそられました。

いや、ここで「すごい」は形容詞で、同じ形容詞の「重い」「うれしい」に続くときは連用形の「すごく」にしなければおかしい、などとメダリストを批判するつもりはありません。むしろ「すげえ」と言わなかったことを「きっちりしている」とさえ思います。

「すごい+形容詞」は「普通」とする辞書も

文化庁の2011年度「国語に関する世論調査」によると、「あの人は走るのがすごく速い」ということを「すごい速い」と言うことがあるかという質問に、「ある」と答えた人は48.8%。実際にはもっと多いのではないかという気がします。調査の例文や聞き方が影響したのかもしれません。

辞書ではどうでしょう。全くこの使い方に触れていないのも少なくありませんが、「すごい」の注として付記しているものを挙げます。

三省堂国語辞典7版――連用形で「すごく」と言うべきところを、俗に「すごい」と言うことがある。
新選国語辞典9版――話しことばでは、「すごい大きい」「すごいきれいだ」のようにいうこともあるが、一般的ではない。
現代国語例解辞典5版――俗に、「すごい楽しい」などと、終止連体形を副詞的に用いることもある。
岩波国語辞典8版――俗用ながら口頭語では「けさは―寒い」など連体形を使うのが普通になった。

岩波が「普通」と踏み込んでいることが目を引きます。一方、大辞林、新明解国語辞典は「すごい」ではなく「すごく」(副詞)で注を立てています。

大辞林4版――近年、くだけた言い方で「すごく」の代わりに「すごいでっかい」「すごいきれいだ」などと言う場合があるが、標準的でないとされる。
新明解国語辞典8版――若い世代に好んで用いられる。また、「すごくきれい」を「すごいきれい」などと、「すごい」を副詞的に用いることがある。

なるほど、「すごい」を形容詞ととらえる限り文法的に「誤用」とせざるを得ませんが、副詞の一種と考えれば「俗用」という扱いだけで済むのか、と思いました。

「ら抜き言葉」も直しているし…

さて、今回のアンケートは、若い人を中心に「すごい+形容詞」という話し言葉が「俗用ながら普通」という実情をふまえたうえで、それを文字に記録するとき、そのまま記すべきかという趣旨でした。

話し言葉と書き言葉は根本的に違うものです、ただし、発言をそのまま記すことで、その場面の雰囲気やストレートな感情が伝わりやすくなる面も否定できません。だから、北島さんの名言は「なんも言えない」などに直さず「なんも言えねえ」と書いています。

ただし、いわゆる「ら抜き言葉」については、たとえば「見れました」と発言のまま書き起こしたと思われる原稿があっても、校閲段階で「見られました」と直します。これは新聞だけのことではなく、テレビの字幕でもほぼそうなっているはずです。

しかし「すごい+形容詞」については、直すべきだというコンセンサスが、ら抜き言葉ほどにはないように思います。その結果かどうか、今回の東京五輪でも「すごいうれしい」などの複数のコメントが毎日新聞ニュースサイトに出ました。もっとも、今回の五輪記事の検索でみる限り、紙の新聞には使用例が見当たりません。速報性と記録性の違いのなせるわざでしょうか。

出題者としては、競技者の生の声をできるだけそのまま届けたいという思いもなくはないのですが、このアンケートの結果をみてもやはり「すごい重い」は「すごく重い」に直したほうがよいと意を強くしました。

(2021年08月20日)



質問に際して

東京オリンピックでスケートボードの堀米雄斗さんが金メダルを取ったときのコメント第一声は「本当にすごいシンプルなんですけど、もうほんと、すごいうれしい」。これを、毎日新聞電子版では「シンプルだが、すごいうれしい」とシンプルに記しました。

他メディアは「シンプルなんですけど、すごいうれしいです」「すごいシンプルなんですけど、本当にうれしいです」「すごくシンプルだが、うれしい」などとさまざまでした。話し言葉を文字として記録する場合に微妙に差が出ているようです。

文法上は「すごいうれしい」の「すごい」は形容詞で、「うれしい」などの形容詞に続くときは「すごく」とすべきです。明鏡国語辞典は「話し言葉では、『すごい』を『すごく』と同じように連用修飾に使うことが多いが、本来は誤り」としています。「本来は」というところに「これだけ広がればやむをえない」という感じがうかがえますが、少なくとも書き言葉では認められないと、くぎを刺しているようにも読めます。

では、話し言葉を記録として書く場合、「すごいうれしい」を「すごくうれしい」と直すべきでしょうか。実は発言中の「ら抜き言葉」をそのまま記さず「来れる」を「来られる」に直すケースなどはかなりあるのですが、「すごい+形容詞」の場合はどうでしょう。

(2021年08月02日)

 

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