「差し替わる/書き換わる」という形の動詞については、いずれも使わないという人が最も多く、4割余りを占めました。「差し替える/書き換える」という行為の主体をうやむやにする自動詞的な形について、違和感を持つ人が多かったようです。

「差し替わる」「書き換わる」という語形について伺いました。

「いずれも使わない」が最多

上の意向で人事案が「差し替わった」/知らぬ間に書類が「書き換わって」いた――これらの言い方、どうですか?
「差し替わる/書き換わる」のいずれも使う 21.5%
「差し替わる」は使うが、「書き換わる」は使わない 24.6%
「差し替わる」は使わないが、「書き換わる」は使う 10.8%
「差し替わる/書き換わる」のいずれも使わない 43.2%

 

「差し替わる/書き換わる」のいずれも使わないという人が最も多く、4割余りを占めました。他動詞として使う「差し替える/書き換える」の一部を変えて自動詞にするということに、行為の主体がうやむやになることもあってか、抵抗を感じる人が多かったようです。ただし、「差し替える」と「書き換える」では言葉のつくりが異なっており、同列に扱うべきではないとも考えられます。

「書き換わる」は3分の2が避ける

アンケートの結果をそれぞれの言葉について整理すると、
・「差し替わる」を使う/使わない 46.1%/54%
・「書き換わる」を使う/使わない 32.3%/67.8%

となります。いずれの言葉も「使わない」という人が過半数を占め、特に「書き換わる」は3分の2が「使わない」としています。

「書き換える」が、より避けられているのは理解できます。「書く」というのはあくまでも人がする行為であって、書類がひとりでに出来上がっていたりすることは考えられないからです。気づいたときには書類の記述が変更されており、いつの間にか「書き換わっていた」と感じることはあるかもしれませんが、その変更においては人の手が関わっているはず。書類が勝手に変わっていた、という無責任な気分も漂う「書き換わっていた」よりは「書き換えられていた」とするのがなじむと考えられます。

「差し替える」の「差し」とは

一方の「差し替える」の場合はどうでしょう。この動詞は大きく二つの意味があります。

(1)(「さし」は接頭語)とりかえる。交換する。
(2)取りかえて別の物をさす。

(日本国語大辞典2版)

(2)は、例えば「カメラのメモリーカードを差し替える」のような使い方ができそうです。差していたものを外して新しいものを差すということ。この場合には元の動詞「差す」の意味が残っています。

しかし(1)の方には、「さし」は接頭語、とあります。回答から見られる解説でも触れましたが、改めて辞書を見ると接頭語「さし」は以下のように説明されています。

動詞の上に付いて、その意味を強め、あるいは語調を整える。「さす」の原義を残して用いるものもある。「さし出す」「さし置く」「さし据う」「さし曇る」など。

(同)

「語調を整える」とはどういうことか。中村明さんの「日本語 語感の辞典」(岩波書店)を引くと「差し控える」「差し引く」の項目には、それぞれ「『控える』より丁寧な感じがある」「単なる『引く』より改まった感じがある」とあります。要するに、接頭語に続く動詞(「控える」「引く」)をむき出しで使うよりもなんだか立派に見える(聞こえる)し、むしろ使いやすくなるということです。

人事案を「差し替える」のような場合も同様で、単に「替える」とするよりも形として使いやすいのでしょう。もちろん接頭語としての「さし」に、書類をファイルから抜き差しするようなイメージをすることも可能ですが、それは言葉の形からさかのぼっての想像に過ぎません。「差し替える」の「差し」に実質的な意味は無いのです。

ひとりでに「かわる」ものではない

であれば、他動詞「替える」が自動詞「替わる」になるのと同様に、意味の上では「替える」と差の無い他動詞「差し替える」が「差し替わる」に変化しても通用するように思えます。国語辞典では日国のほか、大辞林4版に「さしかわる」(表記は「差し代わる」)が載っているのを確認しました。ただし、意味は「交代する」と説明されており、今回の質問文で挙げたような「取り換えられる」という意味とはニュアンスが違うかもしれません。

今回のアンケートでは過半数が「差し替わる」は使わないとしました。日国の「差し替える(2)」のような、他動詞「差す」の実質的な意味が残っている用法もあることを考えると、「差し替わる」とは言いにくく感じるのも理解できます。

また、「差し替わる」にしても「書き換わる」にしても、何事かがひとりでにかわってしまっていた、という印象を与えることが引っかかったのではないかと考えます。人事案の差し替えにしても、書類の書き換えにしても、誰かしらそこに関与した人があるはず。動作の主体の存在をうやむやにする用語に対して違和感が示されたということを見るに、ちょっとした言葉の選び方であっても責任感や倫理的な態度に関わる場合がある、と考えられていることが分かります。

(2021年08月03日)



質問に際して

元々は「差し替える」「書き換える」という形で使われる他動詞の、自動詞形を使うかどうかという質問です。

手元の国語辞典(大辞泉2版)には「差し替わる」「書き換わる」ともに載っていませんが、日本国語大辞典2版には「差し代わる」が載っています。意味は「入れ代わる。交代する」。「差し代わる」「差し替える」いずれの項目にも「『さし』は接頭語」とありますが、その「さし」とは何か。当該の項目には「動詞の上に付いて、その意味を強め、あるいは語調を整える。『さす』の原義を残して用いるものもある」とあります。

つまり「差し替える」は、複合動詞に形は似ていますが、動詞としての意味自体は「替える」とほぼ同じということ。「替える」の自動詞形「替わる」は普通に使われるものですから、「差し替わる」も使うことができそうです。

一方の「書き換える」は「書く」の意味を保持した複合動詞です。「書く」は他動詞なので、これをを「書き換わる」と自動詞形にするのは抵抗のある人も多いのではないかと思います。いかがでしょうか。

(2021年07月15日)

 

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