大会などの始まりを「幕開き」というか「幕開け」というかでは後者が圧倒的多数でした。辞書では「幕開き」が主流ですが「幕開け」を主とする辞書も出ています。ただし五輪を「幕開け/幕開き」にかぶせる例は、ともにほとんど見られません。

オリンピックなどの大会が始まることを「幕開き」というか「幕開け」というかうかがいました。

「幕開け」が圧倒したが

東京オリンピックなど大規模な大会が始まることを何といいますか?
幕開き 10.4%
幕開け 76.5%
上のどちらもいう 5.5%
上のどちらもいわない 7.6%

 

およそ4人に3人が「幕開け」を選びました。本来の語とされる「幕開き」は10人に1人程度。これはだいたい使用実態を反映する結果といえるかもしれません。もっとも、毎日新聞のデータベース検索で単純に比較する限りでは「幕開け」は「幕開き」の数十倍に上り、それよりはこのアンケート回答者は「幕開き」を選んだ人が多かったともいえそうです。

辞書では多くが【幕開き】

「幕開け」に違和感を表明する意見はそれほど目立ちませんが、辞書で「幕開き」ではなく「幕開け」を正規な扱いとしているのはほとんどありません。【幕開き】しか出していないものも少なからず見受けられます。例えば岩波国語辞典は2019年に改訂された8版でも【 】付きの見出し語で示しているのは「幕開き」であり、注釈で「『幕開け』は本来の言い方でない」と付記するにとどめています。

「幕開け」は「広く転じた用法」

これに対し明鏡国語辞典は、誤用に厳しいという評価もありますが、この語に関しては他の辞書と一線を画します。多くの辞書が「幕開け」を注釈や「幕開き」に誘導する「空見出し」にしているのに、明鏡は逆。2002年の初版から一貫して【幕開き】は矢印で「幕開け」を見るよう促しています。そして【幕開け】の注釈として「『幕開き』とも」と付記し、特に演劇の演技が始まることの意味では「幕開き」としています。

明鏡国語辞典と同じ編者による「続弾!問題な日本語」(大修館書店)にはその理由の一端が示されています。

「幕が開(あ)く」意では「幕開き」、「幕を開ける」意では「幕開け」となり、どちらにも使われる。「かいまく(開幕)」と音で読んだ場合も、「幕開き」「幕開け」のどちらの意ともとれる。もともとの形は「幕開き」で、歌舞伎など演劇用語では、現在も「幕開き」が普通。ただし、「新時代の幕開け」のように、広く転じた用法では、近年は「幕開け」を使うことが多くなっている。

五輪は「幕開き」「幕開け」になじまない?

「幕開き」が本来の言い方であることはどの辞書も共通なのですが、「幕開け」をどの程度認めるかで辞書の扱いの差が生まれているようです。実は「毎日新聞用語集」でも「幕開き」は「主に演劇用語」、「幕開け」は「物事の始まり、『幕開き』の転」となっています。だから演劇や落語などの批評記事では「幕開き」が使われます。

それでは、五輪はどちらに入るのでしょう。「幕開き」は「主に」演劇と幅を持たせた分け方ですし、五輪の開会式は演劇的要素も含みますが、やはり素直に解釈すれば「幕開け」でしょう……と予想して「オリンピック」「五輪」との組み合わせで毎日新聞記事を検索すると、「幕開き」も「幕開け」も、ほとんどストレートには結びつけていませんでした。

今回の五輪に関していえば「東京オリンピックの幕開けを告げる聖火リレーが26日に始まる」が1例。他に目に付いたのは「五輪イヤーの幕開け」など、大会そのものよりもその年や関連語と結びつけるケースです。

誰が幕を開けるのか

思うに、五輪が始まることは「開幕」で済むので「幕開け」か「幕開き」かで迷う必要がないわけです。言葉を飾ろうとすると「戦いの幕が切って落とされた」など、別の言い方がいろいろあります。そういう意味では、今回の質問では「どちらもいわない」という答えが最も賢明といえるかもしれません。

ところで、「幕開け」というと、「開ける」が他動詞なので「誰かが幕を開ける」という含みがあるのですが、今回の五輪の場合、その主語は何なのでしょう。誰の、誰による、誰のための五輪なのか、真剣に考え抜かなければならない東京大会といえるのではないでしょうか。

(2021年07月23日)



質問に際して

「幕開き」か「幕開け」かを辞書で調べると、大抵は「幕開き」が主、「幕開け」は従という感じの扱いになっています。例えば広辞苑の「幕開け」は「『幕開き』に同じ」としか書かれていません。新明解国語辞典は「幕開き」しか立項せず、注釈で「最近は誤った類推で『幕開け』と言う向きも有る」と記しています。これは「夜明け」などからの類推をいっていると思われます。

文化庁「言葉に関する問答集」にも「伝統的には、『幕開き』であって、『幕開け』は、新しい形であるといえよう」とあります。しかし、毎日新聞の記事データベースで東京本紙に限り単純検索すると「幕開け」は「幕開き」の10倍以上と大差が付いています。実際、職場でも「け」を「き」に直している人は見た記憶がありません。

このアンケートでも「幕開け」が多数派になると予想されますが、一方で「イベントにはどちらも使わない、『開幕』で事足りる」という声もある気がします。また「幕開き」と「幕開け」では使い方が違っている(芝居は「幕開き」で、時代などは「幕開け」など)という考えもありそうです。ご意見をお待ちしています。

(2021年07月05日)

 

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