「紛れさせる」という意味の「紛らす」などでいずれを使うかは、「紛らわす」が最多で全体の4分の3を占めました。「紛らす」が4分の1、「紛らかす」は1%ほど。どれも“正解”なのですが、三つの言い方がある事情はなかなか複雑です。

気を「紛らす(紛らせる)」「紛らわす(紛らわせる)」「紛らかす(紛らかせる)」のどれを使うか、うかがいました。

「紛らわす」が4分の3占める

他のことをして気分を紛れさせるという意味の「気を――」。どれを使いますか?
気を紛らす(紛らせる) 26%
気を紛らわす(紛らわせる) 72.8%
気を紛らかす(紛らかせる) 1.2%

 

「紛らわす」が最も多く、全体の4分の3を占めました。次いで「紛らす」が4分の1、「紛らかす」は1%ほどという結果になりました。出題時に触れたようにどれを選んでも“正解”となりますが、「紛らかす」については、あまりなじみがなくなってきているのかもしれません。

「紛る」「紛らはし」から派生した言葉

まず「紛らす」と「紛らわす」について考えてみます。これらは自動詞「紛る(現代語では紛れる)」、形容詞「紛らはし」から派生した言葉です。「紛ら+す」「紛らは+す」という語尾の変化は「紛れる状態にする」という他動詞化で、「書く(他動詞)→書かす(他動詞)」という形も取る使役の助動詞「す」とは少し異なります。ただ他動詞化には「寝る→寝かす」のように使役的な意味を伴った変化もあるため、他動詞化と使役の差があまり意識されない例も多くあります。

また、「す」より口語的な「(さ)せる」についても、使役と他動詞化の両方の働きがあり、「紛ら+せる」「紛らは+せる」という語変化が生まれました。他動詞に「紛らす/紛らせる」「紛らわす/紛らわせる」が存在するのはこのためです。

より古い形は「紛らわす」か

「紛らす」「紛らわす」を国語辞典で比較してみると、「紛らす」を親項目にして、「紛らわす」は「紛らす」に誘導する空項目としているものが多いようです。例えば岩波国語辞典8版は「紛らす」を「①ほかのものといりまじって、わからないようにする。まぎれさせる。かくす。②心をほかのものに移して、気分をごまかす」とし、「紛らわす」の方は単に「まぎらす」と記述しています。

そのため「紛らす」が一般的なのかと思いきや、新明解国語辞典8版では「紛らわす」の方に説明を付しており、「紛らす」は「紛らわす」の口頭語的な圧縮表現としています。また全訳読解古語辞典2版(三省堂)を見てみると、「紛らはす」は載っているものの、「紛らす」は載っていません。このことから考えれば、「紛らはし」→「紛らはす」への変化がまず起こり、「紛る」→「紛らす」への他動詞化、ないし「紛らわす」→「紛らす」への圧縮はその後に生まれたようです。

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とはいうものの今回の結果と同様、出題者も「紛らわす」の方を使い、どちらかというと「紛らす」が書き言葉的、「紛らわす」が口語的という印象さえあります。「紛らす」は短縮形ではあるものの、「紛らわす」の方が言いやすいですし、形容詞では「紛らしい」とは言わないため、「わ」が入った形が自然に思えるのかもしれません。

使われなくなった「紛らかす」

一方、「紛らかす」を選んだ人はごく少数となりました。「紛らかす」は「紛る」に接尾語「かす」がついたことばです。「~かす」にも自動詞を他動詞化する働きがありますが、「~す」の他動詞形よりも他動的な意を強調します(同辞典)。現代語でも「おびゆ(おびえる)→おびやかす」「はぐる(はぐれる)→はぐらかす」などの形、あるいは「冷ゆ(冷える)→冷やす/冷やかす」「散る→散らす/散らかす」のように、「かす」を付け加えることで他動詞形と異なる意味を持つようになるものは定着しています。

ただ、「かす」が古語的であるため、一部の語を除いて「自動詞+かす」という語形はあまり見かけなくなってきています。それゆえ「紛らかす」も依然辞書で取り上げられる“現役”のことばではありますが、同義の「紛らす」「紛らわす」が存在している以上、こちらをわざわざ使う意識が薄くなっているのかもしれません。

(2021年06月25日)



質問に際して

「紛らす」「紛らわす」「紛らかす」――。国語辞典を見る限り、これらに特に意味の違いはありません。例えば広辞苑7版を引くと、「紛らす」は「①他のものと入り混じらせてわからないようにする。まぎれさせる。②他のものに心を移して気分をそらす」とある一方で、「紛らわす」は「①まぎれるようにする。まぎらす。②心を他に移す。まぎらす」、「紛らかす」は「まぎれるようにする。まぎらす」との説明がなされています。こうした記述からもわかるように、どれを使っても構わないというのが“結論”になります。

元々は自動詞「紛る」、形容詞「紛らはし」という古語があり、そこから「紛らす」「紛らわす」「紛らかす」という他動詞が派生したようです。さらに、自動詞が他動詞化するときには「~す」のほかに「~せる」も使われます。「思い知る→思い知らす/思い知らせる」といった具合です。そのため「紛らす」「紛らわす」「紛らかす」はそれぞれ「紛らせる」「紛らわせる」「紛らかせる」との形を取ることもあります。

というわけで、選択肢に挙げただけで6通りの言い方に分かれます。現在では使われないものの、古語には「紛らはかす」も存在していたようで、何とも“紛らわしい”限りです。

(2021年06月07日)

 

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