「他人ごと」は「ひとごと」と読むものだと考える人が、「たにんごと」を許容する人も含めて全体の3分の2に達しました。一方で新しい読み方の「たにんごと」を使う人も3分の1おり、この読み方も無視できなくなっています。

「他人ごと」をどう読むかについて伺いました。

なおも「ひとごと」が多数派

「他人ごと」――どう読みますか?
たにんごと 15.8%
ひとごと 45.1%
本来は「たにんごと」だが、「ひとごと」も許容範囲 16.5%
本来は「ひとごと」だが、「たにんごと」も許容範囲 22.5%

 

自分には関係ないことという意味の「他人ごと」。これは「ひとごと」と読むものだと考える人が、「たにんごと」を許容する人も含めて全体の3分の2に達しました。最近では「たにんごと」の方が多いのではないかと感じていたのでやや意外です。もっとも、3分の1は新しい読み方の「たにんごと」を使うということで、無視できないというのは事実でしょう。

ひとごと→他人事→たにんごと

文化庁の「言葉に関する問答集9」(1983年)は「『ひとごと』か『たにんごと』か」という項目で、この件について取り上げています。いわく、

「ひとごと」が古くから使われている語であることは疑う余地がないが、「たにんごと」のほうは比較的新しく生じた言い方ではないかと思われる。(中略)「ひとごと」を「人事」と表記したのでは「ジンジ」と誤読される心配もあって、いつしか「他人事」と書く習慣が生じたものであろう。(中略)江戸時代には、「ひと」を「他人」と書く習慣も生まれていたと想像されるが、それが一般化するにつれて、こんどは、文字面にひかれて「たにんごと」と読む人が広がってきたのではないかと考えられる。

とのことで、元々あった「ひとごと」の語に「他人事」の文字を当てた結果、「たにんごと」の読み方が生じたのだろうと考えています。

人事(じんじ)と紛れないために「他人事」の表記をするというのは理解できますが、「人ごと」と書いても読み紛れはなくなります。現在の新聞が「人ごと」と表記しているのも合理的な選択と言えそうです。もっとも、「人ごと」は「人毎」と受け止められる可能性も考えることはできますが。

辞書は「たにんごと」に冷たいが

国語辞典の大半は「たにんごと」を冷遇しています。カラ項目にして「→ひとごと」と誘導するものも多く、新語の採用に積極的な三省堂国語辞典(7版)も「『ひとごと』に当てた『他人事』から、あやまって生じたことば」と注記。誤りとしていない辞書でも「『他人事』の文字面に引かれて生じた語か」(現代国語例解辞典5版)のように説明しており、「ひとごと」が本来であるという姿勢は共通しています。

ただし、現在において「他人ごと」と書かれているときにこれを「ひとごと」と読むか「たにんごと」と読むかは決定できないかもしれません。回答からの解説でも説明しましたが、「他人」を「ひと」と読むのは個別の漢字の読みによらない熟字訓で、この読み方は常用漢字表に記載されていません。学校で習う読み方としては「他人」は「たにん」であって、「ひと」ではない。だから「他人ごと」と書いてあれば「たにんごと」と読む――無理のない話でもあり、意味の伝達に支障があるわけでもないので、出題者としては「たにんごと」も第2の読み方として定着するのではないかと考えます。

むしろ書き手が考えるべきか

問題は書き手の側に投げられるかもしれません。「ひとごと」と読んでもらいたい場合にはどうするか、ということです。新聞では、既に紹介したように「人ごと」という表記を用います。これは読み方という点で揺れのなくなる一つの解決策です。

しかし、意味をはっきりさせるため「他人」という表記を用いたいという場合にはどうするか。①「たにんごと」と読まれても仕方ないと割り切る②どうしても「ひとごと」と読んでほしいなら読み仮名を振る――という選択しかないのではないかと思います。日本語でも画面で横書き文字を読むのが主流という時代に読み仮名という選択は時代錯誤という気もしますが、こうしないと読み方を決定できない言葉があるというのも日本語の一面であるのは事実なのです。

(2021年06月15日)



質問に際して

辞書を引いてみると、大辞林4版は「たにんごと」の項目で次のように説明します。「『ひとごと(他人事)を文字づらどおりに読んだ語で、本来は誤用」。「ひとごと」が本来の読み方とされています。

「他人」を「ひと」と読むのは、熟語を構成する個々の漢字の読み方によらない「熟字訓」です。しかし、熟字訓になじみがなければ「文字づら」に従って読むようになるため、結果として「たにんごと」という読み方が生まれたわけです。ただし、「他人」の場合は「たにん」と読んだとしても意味が通じるので、これを誤りと捉えるかどうかは一考の余地があると思います。

「たにんごと」の読み方は、新聞も助長している面があるかもしれません。常用漢字表で認めていない「他人=ひと」という読み方を新聞は採用していないので、「ひとごと」は基本的に「人ごと」と表記します。「人ごと=ひとごと」であるとすれば「他人ごと≠ひとごと」という考え方につながってもおかしくありません。

最近は「自分ごと」という言葉もよく見ますが(https://mainichi-kotoba.jp/enq-125)、これも「たにんごと」に対応する言葉と考えられます。もはや「たにんごと」を認めるべき時期に来ているのでしょうか。皆さんの使い方の傾向を知りたいと思います。

(2021年05月27日)

 

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