感情の「振り幅/振れ幅」はいずれを使うかという問いには「振れ幅」が多数派で6割超を占めました。場合によって使い分けられるのでは、との意見も寄せられましたが、こと「感情の~」という場合には「振れ幅」が普通と言えそうです。

「振り幅/振れ幅」という語について伺いました。

「振れ幅」が6割超で多数派

あの人は感情の「振○幅」が大きい――どう言いますか?
振り幅 23.8%
振れ幅 62.9%
上の二つともを同じ意味で使う 5.2%
上の二つを使い分ける 8.1%

 

「振り幅」と「振れ幅」のどちらを使うかという問いには「振れ幅」と答えた人が多数派で6割超を占めました。「振り幅」は4分の1弱。ツイッターに寄せられたコメントでは、自動詞的な用法としては「振れ幅」、他動詞的な用法としては「振り幅」と使い分けられるのではないかとの意見も見られました。

辞書に載るのは主として「振り幅」

国語辞典を引いてみると、多くの辞書が載せているのは「振り幅」です。しかし、その説明は、「(『振幅(しんぷく)』の訓読み)『しんぷく(振幅)』に同じ」(日本国語大辞典2版)とだけ記すものや、広辞苑(7版)のようにカラ項目にして「振幅」に誘導するものなど、漢語の言い換えに過ぎないとするものが目立ちます。

それでは「振幅」はどう説明されているのか。「物体が振動しているときの、振動の中心から最大変位までの距離。振動の幅の半分。振り幅(はば)」(大辞泉2版)。振り子で考えれば、静止位置から一番大きく振れたところまでの距離ということ。理解はできますが、そうじゃないのよね、とちょっと苦情が言いたくなります。「感情の振れ幅」という場合に人が意味するのは「振動の幅の半分」ではないでしょう。そもそもこの説明では、比喩的な用法など入り込む余地がないように見えます。

もう少し説明を求めるなら「気持や考え、物事の傾向などの揺れ幅」(日国)といったところでしょうか。しかし「揺れ幅」と説明するような意味なら、訓読みも「ふりはば」よりも「ふれはば」とすべきではないのでしょうか。

小辞典の説明が充実

大辞典・中辞典の説明がいまひとつな一方で、小辞典には説明が充実しているものもあります。例えば新明解国語辞典8版は、「振り幅」の項目で、物理的な意味を説く第1義のほかに「②ものを振り回すときの端から端までの幅。『ゴルフのスイングの―』③選択肢の幅や多様性の度合。『コーディネートの―』」と説明しており、さらに「振れ幅」の項目の第2義(第1義は「振り幅」に同じ)で「②物事が変化するときの上限と下限の差。『感情の―が大きい/為替相場の―』」と、比喩的な使い方について説明しています。

新明解の説明を見ると、自分でコントロールできるものについては「振り幅」、必ずしも自分で制御できないものについては「振れ幅」としているようです。この考え方は他の辞書でも見ることができ、三省堂国語辞典7版は「振り幅」を「多様さの度合い。『人間としての―がある』」、「振れ幅」を「物事の変動する度合い。『株価の―が大きい・感情の―』」と説明しています。

「感情」に合うのは普通は「振れ幅」

言葉の作りから見ると、「振り幅」は他動詞「振る」、「振れ幅」は自動詞「振れる」が元になっています。「振る」は人の意志的な動作を表し、「振れる」は「地震計の針が振れる」のように人の意志とは無関係に揺れる様子を表します。

例えば幅広い性格の役を演じ分けられる俳優について言う場合には「あの人は役柄の振り幅が広い」とするのが良さそうです。もっとも、あちこちから極端でむちゃな役柄を押し付けられていると見えるなら「役柄の振れ幅が広すぎるんじゃない?」と言う場合もあるかもしれません。

質問文のような場合には、新明解や三省堂国語辞典が例として挙げているように「感情の振れ幅」とするのが普通でしょう。正負とも極端な感情をコントロールし切れずに見せてしまう人について言う場合が多かろうと考えられます。「振り幅」を使った場合には「あの人は意図的に怒ったり泣いたりしてみせている」というニュアンスを織り込んだ表現と取られる可能性もあります。

言葉の意味について調べる場合に、とりあえず当てにしがちなのは広辞苑・大辞林・大辞泉といった中辞典クラスの辞書かもしれません。しかし辞書による説明の濃淡の差はやはり大きく、身近な言葉については小辞典の方が詳しい場合も少なくありません。今回の「振り幅/振れ幅」はそうしたケースの一つであるとも言えそうです。

(2021年05月25日)



質問に際して

昨日はひどく怒っていたと思ったら今日はすこぶる上機嫌――こうした人の情動の振幅について「振り幅」ないし「振れ幅」を使うことがあります。両方の語形が使われますが、出題者の印象としては、普段目にすることが多いのは「振れ幅」です。しかし、辞書を見ると考えさせられます。

日本国語大辞典(2版)は「振れ幅」を載せておらず「振り幅」のみを載せています。その説明も「『しんぷく(振幅)』に同じ」とあるのみ。要するに漢語を言い換えただけで特に説明するほどの必要はない、ということです。

うーん、しかしそんなに割り切った扱いでよいのでしょうか。そもそも「振り幅」と「振れ幅」はそれぞれ「振る」「振れる」が名詞化したものと「幅」が合わさった語のはず。元になる動詞が同じでなくとも、同じように使われるという可能性もありますが、「振り幅」だけを挙げてそれで済ませてよいものか。

新明解国語辞典8版は「振り幅」の項目に「ゴルフのスイングの―」という例を挙げる一方、「振れ幅」の方に「感情の―が大きい」との用例を載せ、使い分けがあり得ることを示唆します。皆さんはどう使うでしょうか。

(2021年05月06日)

 

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