政府などが使う「人流」は「なじみがなく『人の流れ』とすればよい」が8割と圧倒的でした。お役所用語としては昭和から使われていたようですが、一般的ではない上、「JINRYU\人流」という形で日本ユニシスの登録商標になっています。

人流という言葉をどう思うか、うかがいました。

「『人の流れ』でよい」が圧倒的

首相や知事が「人流(じんりゅう)」という言葉を使っていますが…
「人の流れ」の意味で不自然ではない 9%
書き言葉では使えるが、話し言葉では避けるべきだ 11.3%
なじみのない言葉であり「人の流れ」とすればよい 79.7%

 

やはりというべきか、「なじみのない言葉であり『人の流れ』とすればよい」という回答が8割と圧倒的になりました。

平野啓一郎さんもツイッターで「違和感」

菅義偉首相が緊急事態宣言発令に関する記者会見冒頭で「大都市における人流や都市間の移動を抑え、人と人の接触を減らすために、これまで以上に踏み込んだ対策を実施します」と述べたのは4月23日。菅首相が「人流」という言葉を発したのはこれが初めてではありませんが、国民の生活に直結する新たな方針を説明する冒頭発言でこの言葉を使ったのは初めてのようです。

符節を合わせたように、この前後から東京と大阪の知事も「人流」の語を使う場面が目立ってきました。これに4月25日のツイートで違和感を示したのが作家・平野啓一郎さんです。

 

今回のアンケートに対する書き込みでも、例えばこんなツイートがありました。

「発出」と同じくらい気持ち悪い使われ方だと感じる。身内にしか通じない用語を市民に向けてそのまま使用するのってある種の傲慢というか、伝えるのにふさわしい態度と思えないんだよね。

一方、次の趣旨のツイートもありました。「人流」は「月光」と同じく漢字熟語のありふれた構造で別に違和感はない、と。造語として問題ないとの意見でしょう。

昭和の白書にも使われていたが…

「人流」は諸橋轍次「大漢和辞典」に載っていますが、意味は「人の流れ」ではなく「普通の人」とあります。他の漢和辞典を見ても今ひとつはっきりしませんが、「流」に「普通の」の意味合いを持たせる使い方はあったようです。ただし、その使い方は今は死語といえます。「人の流れ」という意味で載せる国語辞典は今のところ見当たりません。

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「人の流れ」の意味での「人流」は最近突然出てきたように思えますが、新型コロナウイルス感染拡大以前から一部で出ていた用語です。さかのぼると、運輸省(現国土交通省)の1988年の運輸白書に既に使用例が見つかりました。「運輸分野の協力は、物流及び人流の手段の整備」などとあります。昭和時代から使われていたとは意外ですが、官庁などの狭い範囲で用いられるにとどまっていました。

2017年の国土交通省の会議(社会資本整備審議会道路分科会第63回基本政策部会)では、「国土交通省では一般的に『人流』という言い方をしているのだろうか」という趣旨の外部委員の疑問があり、公に文書を出す際は 「人流・物流」を「人と物の流れ」、「人流・物流 拠点」を「交通・物流拠点」に修正したという記録が残っています。

やはり外部の目にとっては「人流」の語は異様に映ったようです。指摘されて初めてお役所言葉を改めるという、官僚の体質が表れているように思います。逆に言えば、今回は「そんな言葉は公式にはやめた方が」と進言する人がいなかったということでしょう。

登録商標だった「人流」

さて、さらに調べていくと、驚くべきことがわかりました。実は「JINRYU\人流」は日本ユニシスの登録商標だったのです。

特許情報プラットフォームによると2018年登録で、役務はかなり挙げられていますが、例えば「動画の電子画像処理及びこれに関する情報の提供」とあります。日本ユニシスなどはホームページで「人流解析サービスJINRYU」に「丸囲みR」のマークを付け、登録商標であることを明示しています。

これはいわゆるビッグデータの解析としての登録商標であり、「人の流れ」を指す一般語として「人流」という言葉を使うのは問題ないという見解もあるかもしれません。しかし、一般語とはいえない、例えば普通の国語辞典には存在しない語だからこそ、特許庁は「人流」の商標を認めたのではないでしょうか。

また、ローマ字としての登録ではないかと言う人がいるかもしれませんが、口に出せば同じであり、類似のサービスとしてはもちろん、一般語のように使うのも問題と思われます。公共機関がその言葉を多用するのは、日本ユニシスの商標権を侵害する、もしくは同社を特別視し他のビッグデータを扱う会社をおろそかにしていると思われる恐れはないのでしょうか。

単に「日本語としてなじみがない」という観点とは別の意味でも「人流」という言葉の使用は抑制した方がよいと考えます。

(2021年05月21日)



質問に際して

4月の3回目の緊急事態宣言発令に際し、菅義偉首相は記者会見で「人流の抑制」という言葉を使いました。相前後して小池百合子・東京都知事、吉村洋文・大阪府知事も「人流」という言葉を発していました。最近、「人流」使用は抑制できない流れなのでしょうか。

漢字で書くと平易なのですが、この言葉を載せている辞書は今のところ見当たりません。ただし今回突然出てきた用語ではなく、首相官邸ホームページなどではここ数年「人流・物流」「人流データ」などの形で少なからず使われていることがうかがえます。

とはいえ、今回は専門家だけの会議ではなく、一般の人に向けた発信です。「ジンリュウ」という語は初めて耳にした人が多いのではないでしょうか。皆さんはこの言葉をどのように受け止めましたか。

(2021年05月03日)

 

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