「○年経過した」という意味での「○年越し」については、回答が四分しました。このように回答が分かれるということ自体が、「○年越し」の受け止め方がまちまちであることを示しており、この語の使いにくさを表していると言えそうです。

「○年経過した」という意味での「○年越し」という言い方について伺いました。

使うか使わないかでは「使わない」がやや優勢

コロナ禍を経て「1年越し」の入学式――この言い方、使いますか?
「○年越し」は「○年」経過したことを言うので問題ない。使う 23.7%
「○年越し」は「○年」にまたがることを言うので、1年の場合は使わない 28.6%
上の両方を指すが、「1年越し」は「1年経過した」という意味なので使う 21.5%
上の両方を指し、紛らわしいため使わない 26.3%

 

どの回答も20%台という接戦(?)でしたが、「使う」か「使わない」かに絞って回答を分けると使う派が45.2%、使わない派が54.9%と、「使わない」とする人がやや優勢でした。このように回答が分かれるということ自体が、「○年越し」の受け止め方がまちまちであることを示しているとも言え、やはり報道にとっては使いづらい言葉だと考えられます。

辞書の説明は「○年続いてきたこと」

国語辞典を引くと、接尾語「越し」の時間に関する用法は、「時間の長さを示す語につけて、その間中続いてきたことを表す。『三年―』」(広辞苑7版)のように説明されています。出題者が確認した範囲の辞書は同様の説明を載せています。

ただし、文化庁の「言葉に関する問答集6」(1980年)の「『二年ぶり』と『二年ごし』」という項目を見ると、「『二年越し』というのは(中略)丸二か年でなくてもよく、足かけの場合もある」とあります。「足かけ2年」なら暦年2年にまたがるという意味で、たとえば2020年12月から翌21年1月にかけて、実際の期間は2カ月程度であっても「足かけ2年」と言うことは可能です(もっとも、そういう場合にはあまり使われませんが)。

これらの説明に従えば「○年越し」という表現は、○年間ずっとあることが続いてきたということ、ないしは足かけ○年にわたり続いてきたことを示すもの、ということになります。

「1年越し」は「窓越し」などと同様の使い方、だが…

つまり質問文に挙げた「1年越しの入学式」とは、1年の間ずっと入学式が続いてきたということ、ないしは足かけ1年にわたり入学式が行われてきたことを示すものとなります――が、それはおかしいですよね(余談ですが「足かけ1年」も片足立ちのようでおかしい感じがします。複数の要素にまたがる形でないと使いにくい言葉です)。

辞書は接尾語「越し」について、別の用法も載せています。時間に関する表現とはされていない「それを隔てて物事をする意を表す。『窓―に話しかける』『肩―にのぞき込む』」(明鏡国語辞典3版)というもの。「1年越しの入学式」という場合の「越し」の使い方はこの説明に沿うもので、「1年を隔てての入学式」という意味です。

紛らわしい表現は避けたい

しかし、やはり「越し」の使い方としては、さきに見た時間に関する用法と紛らわしいことは否定できません。同じ形で「続いてきたこと」と「隔てていること」のどちらも意味し得るというのでは、誤解が生じる場合もあり得ます。

たとえば2020年4月に発生した問題が翌21年4月に解決したという場合、時間の経過に関する辞書の説明に沿えば「2年越しの解決」ということになります。しかし「窓越し」のような考え方をすれば、その表現は、解決に21年4月までの2年間かかった――つまり19年4月から21年4月までかかったということを意味します。一つの表現が二つの可能性を示してしまいます。

そのため毎日新聞では用語集に次のような記載をして、使用の際に注意するよう呼びかけています。

3年越し、3年来=本来、暦年・年度3年にわたることを表すが、起算点から3年経過したという意味の使われ方をすることも多く、解釈が分かれる。記事では、「10年来」などと概数として使う場合以外は、起算点や期間を明示して誤解の余地のないように書く。

今回のアンケートでも4分の1程度の人が「紛らわしいため使わない」を選びましたが、時間を示す言い回しは誤解を招きやすいものが少なくありません。毎日新聞用語集は「年月日・年齢などの表記」という節を設けて特に説明していますし、各社の用語集もそれぞれ説明の項目を設けています。迷う場合にはこうしたものを参照するのもよいと思います。

(2021年04月30日)



質問に際して

新型コロナウイルスの影響で昨年入学式を行うことができなかった大学などが、今年改めて2年生の入学式も実施しているケースが目に付きます。節目の行事ですので、実施できてよかったと思う一方、「1年越しの入学式」のような報じられ方に少し困惑を感じています。

毎日新聞用語集は「3年来・3年越し」のような数え方について「本来、暦年・年度3年にわたることを表すが、起算点から3年経過したという意味の使われ方をすることも多く、解釈が分かれる。記事では、『10年来』などと概数として使う場合以外は、起算点や期間を明示して誤解の余地のないように書く」と記しています。「3年越しの研究が結実」と言ったら普通は「暦年3年にわたる研究」ということですが、「3年前からの研究」と読まれることもあるので誤解されないようにせよ、ということです。

しかし「1年越し」は? 暦年1年にわたる、とするのは何だか片足立ちのようで居心地が悪く、書き方自体に問題を感じるのですが、このごろは「1年経過した」という意味で「1年越し」を使う場合が多いようです。出題者としてはいずれにしても落ち着かない印象を受けるのですが、果たして皆さんに受け入れられている書き方なのか。いかがでしょうか。

(2021年04月12日)

 

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