「放射能による汚染」という使い方は問題があるか。「放射能は能力なので『放射性物質』とすべきだ」という回答が「問題ない」より多くなりました。ただし大差はつかず、「わからない」という2割の回答にもこの用語の難しさが表れています。

「放射能による汚染」という使い方は問題あるか、うかがいました。これは「放射能」を「放射性物質」と同義として扱ってよいか、という問いでもあります。

大差つかず「わからない」も多い

「放射能による汚染」という使い方は問題ありますか?
問題あり。放射能は能力なので「放射性物質」とすべきだ 49.1%
問題ない。この場合、放射能は「放射性物質」を指す 30.9%
わからない 20.1%

 

結果は、「放射能は能力なので『放射性物質』とすべきだ」という回答が「問題ない」よりも多くなりました。ただし大差はつかず、「わからない」という2割の回答にも、この用語問題の難しさが表れています。

「放射能=放射性物質」は「本来誤用」

そもそも放射能とは何か。毎日新聞用語集には「科学関連用語」の欄がありますが、その「放射能」の項には「放射線を出す能力。単位はベクレル。その能力のある放射性物質自体を指すこともある」とあります。二つの使い方を前提にし、どちらを使うべきだという規制はしていません。

辞書はどうか。新明解国語辞典8版の「放射能」には

㊀物質から(自然に)放射線が放出される性質㊁「放射能㊀」を持つ物質。放射性物質。「―に汚染される」「―漏れ」〔㊁は本来誤用〕

とあります。

三省堂国語辞典7版の②は「放射線」「放射性物質」の「一般的な言い方」としています。「放射能漏れ」「放射能に汚染された食品」という用例も載っています。一方、明鏡国語辞典3版は誤用に厳しいといわれますが、放射性物質と同義とはしていません。

使用例多い「放射能汚染」

「放射能汚染」の毎日新聞の使用状況をみてみます。データベースでは東京管内本紙だけでも1800件以上。しかし「放射能による汚染」で検索するとわずか11件。つまり「放射能による汚染」は「放射能汚染」に比べ避けられる場合が多いようです。ちなみに「放射性物質汚染」となると137件、「放射性物質による汚染」117件。これはあまり差がありません。

原発についての本もいくつかのぞいてみましたが、「放射能汚染」は専門家による一般向けの本にも多く見られました。例えば「放射能から身を守る本」(安斎育郎著、中経出版)にはこうあります。「放射性物質で汚染したような場合には『放射性汚染』とは言わないで、『放射能汚染』と言い習わしている。また、『放射性物質』のことを単に『放射能』という言葉で言い表すこともあり(中略)『水道水が放射能で汚染されるのは深刻な問題だ』などと表現したりする」

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原発の専門家、関係者の講演記録に基づく本「それでもあなたは原発なのか」(林田英明著、南方新社)の著者は毎日新聞大阪本社の校閲記者です。同書での放射能の使い方について聞きました。

「セシウムなど明らかに放射性物質を指す箇所はそうしていますが、放射能は幅広く捉えて書いています」「原発問題に詳しい作家、広瀬隆さんも放射能について世間では放射性物質と同義に受け止められていることを認容していました」「同じ単語ばかりが並ぶのも避けたい意識も頭の中にあったかもしれません」ということです。

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「日常語としては自然な意味変化」という研究機関も

原子力安全システム研究所のホームページの「原子力用語解説集」中、「放射能」の項目には次の文章があります。

一般には、放射性物質が原子力施設などから漏れたことを「放射能漏れ」と言ったり、原子力発電所事故などで放射性物質に汚染されることを「放射能汚染」と言ったりする。上記のような「放射能」という言葉で放射性物質を意味するようになるのは、日常語としては自然な意味変化であり、一般に使われているこうした用法をことさら正そうとすることが無益な場合や、そこに注意を払うことで、説明全体がわかりにくくなってしまう場合も多い。その区別が必要になるとき以外は、この誤用は気にしないようにするのもよい。

そして「複合語」として「放射能汚染」という語も掲げられています。

以上のことから「放射能汚染」は十分通用していると判断できます。しかし毎日新聞の記事で「放射能汚染」は多発するのに、「放射能による汚染」が避けられる傾向にあるのはなぜでしょう。

思うに「放射性物質」は見出しなどでの使い勝手がよいのに対し、「による」という言葉は、より厳密な書き方を求めるのかもしれません。今回のアンケートで「放射性物質による汚染」が多数になったのも、質問の文が「による」だったからという可能性も考えられます。

曖昧さを避けるなら「放射性物質」

ところで、今問題になっている福島第1原発の処理水海洋放出決定の記事では「放射能汚染水」という表記は今のところ見られません。「放射性物質の濃度」「放射能の強さ」などと書き分けられています。

長く原発関係の取材に携わってきた西川拓・毎日新聞科学環境部長は、放射性物質を指すときに放射能という語を使うのは意図的に避けてきたそうです。「曖昧な言葉を使うより、放射性物質と書けるなら、そう書いた方が明確に伝わります」ということです。

確かに、「放射能汚染」ならよく「放射能による汚染」はダメという理屈は論理的ではないでしょう。「放射能」の安易な使用を避け「放射性物質」とすべきだという意見に反論の余地はありません。

誤解なければ「放射能」も「問題ない」

ただ、広島への原爆投下以来、放射能という言葉は科学的な厳密さとは別に「危険」のイメージを呼び起こす可能性があるということも否定できません。だからこそ正確でニュートラルな表現が求められるのですが、一方で「放射能が降っています。静かな夜です」と詩人・和合亮一さんが記したような使い方は規制できないとも思うのです。

ちなみに林田記者はこのアンケートに「問題なし」を選んだうえで「とはいえ、『全く問題ない』という立場ではなく、それぞれの文章を吟味したうえで誤解なければ『問題ない』という意見」と答えてくれました。

(2021年04月20日)



質問に際して

10年前の東京電力福島第1原子力発電所事故により、「放射能」「放射線」「放射性物質」という語が連日頻出しました。使い分けが分かりにくく、いまだに「これは放射能でいいのか」などと悩むことがあります。

例えば東京電力柏崎刈羽原発のある新潟県柏崎市のホームページでは、放射能は「能力」を示すため、「放射能が降ってくる」「放射能に汚染される」「放射能が漏れている」などの表現は間違いとし、いずれも「放射性物質」が正しいとしています。

しかし「放射能漏れ」「放射能汚染」などの語は今も広く使われています。広辞苑の「放射能」にも「放射性物質が放射線を出す現象または性質」の後に「放射性物質の意味で使われることも多い」とあります。「放射能」だと問題と思う読者がどれくらいいるのか知りたいと思いました。

(2021年04月01日)

 

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