「陽気に包まれた一日」という場合の天気は「暖かな好天」と取る人が7割を占め、「判断がつきにくい」ものの好天と思う人も合わせると9割を超えました。しかし辞書類は「陽気」について、大半は「気候。時候」と記すにとどめています。

「陽気に包まれ~」という場合の天候をどう受け取るか伺いました。

「好天」が大多数占めるが…

「陽気に包まれた一日」――どんな天気の一日でしょうか?
暖かな好天 71.7%
好天と思うが、判断がつきにくい 21.7%
好天とも悪天候とも判断がつかない 6.6%

 

「暖かな好天」を選んだ人が7割を占め、「判断がつきにくい」ものの好天と思う人も合わせると9割を超えました。「陽春」などにも使われる「陽」の字の影響が大きそうです。しかし辞書類は気候を指す「陽気」について、大半は「気候。時候」(大辞泉2版)と記すにとどめ、好天か悪天候かなどについては踏み込んでいません。

「陽」でも寒い時もある

漢和辞典で「陽」の字から「陽気」の項目を探すと「①陰気に対して、陽の気。万物の生長や明・暖・夏などを支配する」(学研新漢和大字典)という説明があります。「暖」って書いてあるじゃないか、やっぱり暖かい天気を指すのではないかと思うかもしれませんが、これは中国の陰陽思想に基づく説明のようです。お天気を指す私たちの用法とはちょっと異なります。

同字典をさらに見ると③として「[国]気候。『陽気が悪い』」という用法が載っています。[国]とあるのは「日本語特有の意味」とのこと。日本語としての天気を指す用法では、言葉自体が寒暖などを示すものではなく、「~が悪い」とすれば不順な天候を意味するということです。

「いくら寒くっても、ふところさえ温かけりゃあ驚くこともねえが、陽気は寒い。ふところは寒い。内そとから責められちゃあやり切れねえ」(岡本綺堂「半七捕物帳 白蝶怪」)

青空文庫で拾った用例から。江戸時代の中間(武家の使用人)の愚痴らしく作った会話ですが、言葉は明治以降のものでしょうか。それはともかく、「陽気は寒い」という言い回しが目を引きます。「陽」の字を使うからといって暖かいとは限らない。ふところ具合と同様に寒い時もあるわけです。

「陽春」なら「暖かい春」

とはいえ、もし文中に「陽気に包まれる」とあれば大多数の人が暖かな好天をイメージする、というのが今回のアンケートの結果でした。「悪い」とか「寒い」といった具体的なマイナス方向の記述が加わらない限り、質問文のような例では好天の方へ引っ張られるというのが、現代の一般的な感覚のようです。

理由の一つとしては、やはり「陽」という漢字の印象があるでしょう。「陽春」と言えば「陽気のみちた暖かい春」(大辞泉2版)のこと。ここで出てくる「陽気」は先に引いた陰陽思想に由来するものと見えますが、「暖かい」という意味に結びつきます。

また、今回の質問文でも使われている「~に包まれた」という言葉も影響していそうです。「寒気に包まれる」とも言えないことはないのですが、人やあたりを包み込むような空気といえば、大概は暖かなものを想像するようです。毎日新聞の記事データベース(1987年~、東京本社版、地域面除く)で「陽気に包まれ」の使用例を検索すると18件が該当しましたが、いずれも暖かな場面に使われていました。ちなみに「寒気」の場合は「寒気に覆われ~」という形が選ばれています。

今回の質問のきっかけになった記述も、原稿で目にした「陽気に包まれた2月末の昼」というものでした。2月とはいえ、この書き方から寒そうという印象は受けません。もっとも言葉足らずとは感じたため、出稿部と相談のうえで「穏やかな陽気に~」という形にしました。

「暖かい」とする解釈が固まるか

国語辞典は大半が、気候を意味する「陽気」について寒暖などには触れていないと書いてきましたが、見た中で一つ例外がありました。新しい用法を取り入れるのに積極的な三省堂国語辞典7版(2014年)は、「陽気」の項目でまず「(あたたかな)気候」と説明しています。同辞典も6版(08年)では単に「気候」としており、どうやら暖かな気候を意味する語として使われがちになったのは最近のことと言えそうです。

今回のアンケート結果のような傾向を見ると、「陽気」を「暖かい好天」とするような受け止め方は固まっていくようにも感じますが、当面は従来の用法を頭に置いて「春の陽気」「暖かな陽気」などと修飾語付きで使うのがよいと考えます。また、「冬に逆戻りしたような陽気」のような使い方も、けっしておかしいものではないということも覚えておいていただければと思います。

(2021年04月06日)



質問に際して

「陽気」は中国の易学に由来する言葉で「万物のまさに動き出し、また生じようとする気」(日本国語大辞典2版)を言い、「陰気」と対になる語です。「陽気な人」のように形容動詞として使うと、明るさやにぎやかさといった意味を持ちます。

この語はまた「時候。寒暖。気候」(同)という意味も表します。一般には「陽気がよい」「陽気が悪い」「春の陽気」のような形で使い、「陽気」だけでは寒いとも暖かいとも判断がつきかねます。日国の用例を見ても「じめじめとした、人の気を腐らせるやうな陽気は」(島崎藤村「家」)のように、形容動詞の「陽気な~」とは全く違った雰囲気を表す場合もあります。

しかし時に、「陽気」というなら暖かな好天のはずと考えてか、質問文のような「陽気に包まれ~」といった形を見ることがあります。原稿中で見たなら「穏やかな陽気に包まれ~」などと言葉を補うところですが、言葉の印象から好天と受け止める人も多いかもしれません。あるいは「包まれ」という言葉から暖かさが読み取れる、という考え方もあるのかも。皆さんはどう感じるでしょうか。

(2021年03月18日)

 

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