お内裏様って何?という質問に対し「おびな」という回答が多くなりました。内裏びなというのは「男女一対のひな人形」を指すので「誤用」といえます。ひな祭りの季節に流れる童謡の影響を感じさせますが、国民的誤用といえるかもしれません。

ひな人形の「お内裏様」の意味をどうとらえているか、うかがってみました。

「おびな」6割にみる童謡の影響

「お内裏様」は何を指しますか?
おびな 62.3%
男女一対のひな人形 37.7%

 

結果は「おびな」が約6割。辞書的には正解の「男女一対のひな人形」を大幅に上回りました。やはり童謡「うれしいひな祭り」の歌詞「お内裏様とおひな様」が影響していると思われます。しかし今のところ、辞書で内裏びなは「おびな」単独のことをも指すと記すものは見当たりません。この童謡が国民的な歌だとすると、この「誤用」も国民的といってもいいかもしれません。

直し方も気を使う「お内裏様とおひな様」

ひな人形を扱う企業のサイトでも「お内裏様とおひな様」と記すものがあります。実は出題者も、10年以上前ですが「内裏びな=おびな」という思い込みのまま書いてしまったことがあります。

その反省で気をつけるようになり、今年もある原稿で、簡単な飾り物として「お内裏さまとおひなさま」とあるのを「おひなさま」に直しました。「お内裏さま」だけにすることも考えましたが、男のひな人形だけのように取られかねないので「おひなさま」だけにしたのです。しかし後で、男女ひとそろいということを明示するなら「一対のおひなさま」などとした方がよかったかなと思いました。このように、誤用が広がっていることを前提にしなければならないので、直し方も気を使います。

「おびな」の子供向け言い方は?

なぜこんなに誤りが広がっているのでしょう。「うれしいひな祭り」の作詞者、サトウハチローが間違えたからというのが一義的な理由ですが、ではなぜサトウハチローが間違えたのでしょう。もしかしたら、作詞した1935年ごろにはお内裏様とおひな様を分けていう俗習が既にあったのではないでしょうか。

というのも、おびなのことを子ども向けに親しみをこめて呼ぶ言い方が思いつかないからです。「おびな様」とは普通いいませんよね。「男のおひな様」とか、「男のお内裏様」というのもまだるっこしい。だから特におびなのことを「お内裏様」と呼ぶ素地はあったのかもしれません。

内裏びなは男女一対が大前提

もっとも、これは全くの推測であり、ちょっと調べただけではサトウハチロー以前にはそういう実例が見いだせません。そこでふと思ったのが、例えば靴にしても手袋にしても、二つで1組の物の片側だけをいうには「左の靴」とか「右の手袋」とか何か付けるしかないことです。

そもそも、内裏びなというのは天皇の結婚をかたどったものとされますので、男女一対であるのが大前提。だから、片方を示す語が「おびな」「めびな」という即物的な言い方以外あまりないということこそ、内裏びなが男女そろって大事にされていたことの証しなのかもしれません。だから、歌の「お内裏様とおひな様」を禁止することはできないにしても、この誤用をさらに新聞などが広げることは慎まなければならないと思います。

(2021年03月19日)



質問に際して

桃の節句が近づくたびに、あちこちで童謡「うれしいひな祭り」が流れます。「お内裏様とおひな様 二人ならんですまし顔」。日本人の誰もが耳にするこの歌詞のせいで、お内裏さまは男のひな人形(おびな)、おひなさまは女びな、と刷り込まれた方は多いのではないでしょうか。

しかし、辞書で「だいりびな」を引くと、一様に「天皇、皇后をかたどった一対のひな人形」などとされ、おびなだけを指すと書かれたものは見当たりません。大辞泉の補説では「男性の人形のみを指して『内裏』『お内裏様』と呼ぶのは誤り」とあります。実は、作詞したサトウハチローも後で自分の歌詞の誤りを悔いていたそうです。

とはいえ、日本語は変化するという観点からすれば、「内裏びな」の正式な意味とは別に、「おだいりさま」というときは「おびな」、「おひなさま」というときは「めびな」――なんていう新解釈も、もしかしたらありうるのでしょうか。子ども向けの工作用に「おだいりさまのつくりかた」「おひなさまのつくりかた」と男女別に書かれたものを見るとそんな気もしてきましたが、さて?

(2021年03月01日)

 

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