「取るに足りない人物」を指す「こもの」をどう書くかは、意外や「小者」を選んだ人が多数派でした。「者」と「物」は、「人」と「人以外」で使い分けることが多いのですが、質問文のような「こもの」は例外。「小物」と書くのが普通です。

たいした勢力のない人を指す「こもの」をどう表記するか伺いました。

「小者」が多数派だが…

俺は先方から、取るに足りない「こもの」だと思われている――カギの中、どう書きますか?
小者 51.9%
小物 41.3%
上のどちらでもよい 6.8%

 

意外や「小者」を選んだ人が多数派で半数に達しました。「小物」派は4割。「者」と「物」は、ざっくり言うと「人」と「人以外」で使い分けることが多いのですが、例外もあります。「こもの」もそうした例外の一つです。

「大物」の対語として「小物」が適当

「政界の大物に陳情に行く」「あいつのような小物は相手にしない」のように用いる「大物」「小物」は、“人”ではあるが、必ず《物》を用いる」

のっけから引用で恐縮ですが、本欄ではおなじみの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)で著者の円満字二郎さんはこう言い切ります。「必ず《物》を用いる」のです。円満字さんは続けて

これらは「沖へ出て大物を釣り上げる」「身の回りの小物を整理する」のように“人”以外に対して使うのが本来の用法で、“人”を指すのは比喩的な表現かと思われる。

と言います。「小物」の場合は、特に取り上げるほどでないありふれたものについての表現を人に転用したということでしょう。結果として、人であっても「小物」と表記されることになります。

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この傾向は対語の「大物」で顕著で、「大者」という表記を取り上げているのは、今回参照した十数点の国語辞典のうち新明解国語辞典(8版)のみでした。新明解にしても見出し語表記としては「大物」で、注記して「『大者』とも書く」とするもの。一般に「物」を使用するということは揺るぎないと考えるべきでしょう。

「小者」表記だと別の語に

一方で「小者」という表記は存在しないわけではありません。ただし、「小物」の持つ「つまらない人物、小人物」(大辞泉2版)という意味とは違います。

こもの【小者】①身分の低い奉公人。丁稚(でっち)。小僧。②武家の雑役に使われた者。小人(こびと)。③年若い人。(大辞泉2版)

という意味で、立場や職分、年齢を指す語です。多くの場合、身分が軽く権力のない人のことを指すはずなので「小物」と重なる部分はあると思われますが、同じように使うのは控えるべきでしょう。

魚も人も「小物」と書きたい

今回の質問のきっかけは、ツイッターで活躍(?)する某大臣についての記事から。自分がブロックされていないと思っていたある文筆家が「『こもの』と思われているのかな」と漏らした言葉を、記者が「小者」と表記してきたことによります。意外に「者」を使ってしまう人が多いのか、と思って伺ってみたところ、懸念にたがわぬ結果となりました。

「大物」「小物」はもしかすると、円満字さんも例文に挙げていたように、魚釣りともゆかりのある表記なのかもしれません。辞書も「小物」の項で「釣りで、小さい魚」(大辞泉2版)と特に記します。そういえば某大臣のサイトの表題には小魚を意味する言葉が使われているのですが……今や国の中枢に食い込む立場なのですから、小物ぶられるのもちょっと複雑な気持ちになります。サイトの表題を変えて「大物宣言」する日は来るのでしょうか。

(2021年03月02日)



質問に際して

「力量や地位がたいしたことのない者」(岩波国語辞典8版)のことを「こもの」と言います。これをどう書くか、毎日新聞用語集には記載がありません。ただし、反対の「大きな勢力・能力を持っている人」(同)である「おおもの」はあります。「(▲大者→)大物」としており、▲は凡例によると「誤った表記」。要するに「大物」だけが正しい表記だということですから、その対語である「こもの」は「小物」と書くのがよいでしょう。岩波も、上記の意味では「小物」の表記を使っています。

ところで「大者」は誤表記とされますが、「小者」は違います。「身分が低い使用人。(ア)武家の雑用に使われる男。(イ)でっちや下男」(同)と説明される、身分・立場を表す別語です。言葉として誤りではありませんが、現代において日常的に使われる表現ではないでしょう。

質問文のような場合は「小物」が普通と言えます。もっとも人物には「者」を使う方がよいと考えてか、「小者」で書いてくる原稿を見ることも。皆さんもつい「小者」と書きたくなることがあるでしょうか。

(2021年02月11日)

 

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