過料を「科される」か「科せられる」かでは、前者がほぼ2倍となりました。辞書の扱いもまちまちで分かりにくいのですが、「科される」は五段動詞の受け身、「科せられる」はサ変動詞の受け身で、どちらも文法的に問題ありません。

法令違反として過料を「科される」か、「科せられる」か。新型コロナウイルス対策の法改正を機に、どちらがしっくりくるか、うかがいました。

「科される」が「科せられる」の2倍に

法令違反として「過料を○○」――どう続けるのがしっくりきますか。
科される 62%
科せられる 30.5%
上のどちらでもよい 7.5%

 

「科される」が「科せられる」のほぼ2倍となりました。毎日新聞の記事データベース(東京本社版、地域面除く)で「を科され」を検索すると約630件、「を科せられ」が約320件と「科され」が2倍近くの件数となっています。今回の結果はそれとほぼ同じ傾向を示したわけです。

しかし、以前のアンケートでも明らかになったことですが、「罰する」の受け身は「罰される」より「罰せられる」の方が好まれています。これはどういうことでしょう。

辞書によって異なる「科す」の扱い

まずは「科す」を辞書で引き比べてみます。すると辞書によって微妙に異なる扱いが見えてきました。

ほとんどの辞書は「かする」を見出しにし「サ変」としています。「かす」を引いてもいわゆる空見出しで、「かする」を見よと指示されます。これは、「す」が文語であり「する」が口語という立場を、上に「科」が付いても維持しているものと思われます。

しかし明鏡国語辞典では「かす」を見出しとし五段動詞としているのです。つまり明鏡としては「科さない」「科します」「科す」「科すとき」……と活用するのが自然とみなしていると考えられます。

興味深い扱いは、三省堂現代新国語辞典にも見られます。「かす」のうち「架す」「嫁す」は「⇒かする」として、空見出しにしているのに、「科す」と「課す」は「科する」「課する」に誘導することなくこの項目で説明しているのです。

使用例の少ない終止・連体形の「科する」

考えてみれば、終止形の「科する」って少なくとも新聞ではめったに使われません。連体形も「科する」ですが、実際に使われているのは「科す」のようです。例えば毎日新聞のデータベース(東京本社版、地域面除く)で「科すこと」は約680件、「科すること」は20件でした。

また、大辞林で「科す」は「サ変動詞『科する』の五段化」としています。「科す」を五段動詞と扱うなら、受け身は「科される」となるのが道理です。

とはいえ、多くの辞書が「科する」を基本とし、使用実態も「科せられる」が一定程度ある現状では、「科される」「科せられる」のどちらもOKと判断できます。
要するに――
「科される」は五段活用動詞「科す」の未然形「科さ」に受け身の助動詞「れる」が付いた形。
「科せられる」はサ変動詞「科する」の未然形「科せ」に受け身の助動詞「られる」が付いた形。
ということです。

「サ変動詞の五段化」はまちまち

ここで「れる」「られる」はどう違うかを説明しようとして一般的な活用表を見ると……あれあれ? 「れる」は五段動詞、サ変の未然形に、「られる」はそれ以外の動詞の未然形に接続する、となっているのです。ということは、サ変の「科する」に付いた場合「科せれる」が正しいことになってしまうではありませんか!

そんなはずは……。辞書で「られる」を引いてみます。三省堂国語辞典には

〔上一段・下一段・カ変、および、「発する」「達する」など一部のサ変の動詞につく〕

とあり、「科する」もその仲間と考えられます。また、岩波国語辞典の活用表では「れる」は五段未然に接続、「られる」は他の未然に接続となっています。だからサ変「科す」の受け身はやはり「科せられる」、「科す」を五段動詞とみなすなら「科せられる」となります。

やれやれ、これだから文法は分かりにくいというぼやきが出そうです。前述のように「罰する」の受け身は「罰される」ではなく「罰せられる」が好まれています。この語は「サ変動詞の五段化」がまだ及んでいないということです。

他の例も考えると「処される」よりも「処せられる」、「帰(き)される」より「帰せられる」、「擬される」より「擬せられる」の方がしっくりきます。一方、「食せられる」より「食される」、「称せされる」よりも「称される」、「評せられる」よりも「評される」の方が実態としては多く使われているようです。サ変動詞の五段化は今のところ、各語によってまちまちの限定的な現象と考えるべきでしょう。

過料は「課す」ではなく「科す」

最後に、「科す」と「課す」の違いに触れておきます。
「科す」は「罰金、刑などを負わせる」。
「課す」は「税金、学業などを割り当てる」。

「過料」というのは行政罰であり、前科として後まで残る刑事罰、そしてその一つである「罰金」とは違います。とはいうものの、法律的に厳密な区別を抜きにすると、何らかの違反をしてお金を取られることには変わりありません。

文化庁「国語に関する問答集」でも「刑罰としての罰金・科料、行政罰としての過料には、『科する』が用いられている」と記されています。だから過料は「科される」の字で問題ないと判断できます。

(2021年02月26日)



質問に際して

新型コロナウイルス対策の改正法が国会で成立しました。入院の必要があるのに拒否した感染者に行政罰の「50万円以下の過料」、また、緊急事態宣言下で営業時間の短縮命令などを拒否した事業者に「30万円以下の過料」が義務づけられました。この「過料」という言葉はなじみが薄い人が多いかもしれませんが、ここでは単純に「罰金」と思ってください。

それを取られる側としては「科される」「科せられる」という両様の書き方が見られます。毎日新聞東京本社版(地域面除く)で単純に「科される」「科せられる」を検索すると「科される」の方がやや多くなっています。

以前、この「ことばの質問」では「罰される」か「罰せられる」かについてうかがいました。そのときは「罰せられる」が圧倒的に多くなったのですが、今回の結果はどうなるでしょう。

(2021年02月08日)

 

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