喉の腫れると痛い場所――大多数の人は「へんとう腺」の呼称を選びました。「へんとう」とした人はその10分の1。何かを分泌する「腺」ではないため、新聞では「へんとう」が使われますが、昔からの呼称が根強く使われているようです。

喉の部位の呼び方について伺いました。

「へんとう腺」と呼ぶ人が大多数

喉のここが腫れると痛いものですが――どちらの呼び方を使いますか?
へんとう 8.4%
へんとう腺 86%
どちらでもよい 5.6%

 

大多数は「へんとう腺」を選びました。新聞が使用している「へんとう」をよしとする人はその10分の1。昔からなじんだ名称というのは、なかなか変わらないものであることがうかがえます。

「へんとう腺」は「へんとう」の旧称

「へんとう」は人体に4カ所あるそうですが、一般に「へんとう(腺)」と呼ばれるのは喉の入り口の左右にある、アーモンド形の「口蓋(こうがい)へんとう」のこと。リンパ球が集まったものをリンパ小節といい、さらにそれが「粘膜固有層あるいは粘膜下組織内に集合したものが扁桃(へんとう)である」(「ぜんぶわかる人体解剖図」成美堂出版)といいます。

毎日新聞用語集は「へんとう」の項目で、「(扁桃)→へんとう(炎)」と仮名書きを指定するとともに、注記して「『へんとう腺』は『へんとう』の旧称」とし、「へんとう腺」とは書かないように案内しています(仮名書きにするのは「扁」の字が常用漢字表に入っていないため)。もっとも毎日新聞用語集でも1992年版までは「へんとうせん」の項目があり、「へんとう」に切り替えられたのは次の96年版でした。

毎日新聞用語集【2019年版】より

国語辞典はどうか。広辞苑を見ると2版(69年)までは「へんとう」の子項目である「へんとうせん」で「人の咽頭口蓋弓の左右に存する卵形体の隆起」などと説明していました。しかし3版(83年)では、親項目の「へんとう」の②にその説明が移っています。少なくとも80年代には一般向けにも、言葉として「へんとう腺」より「へんとう」が優先されるべきだ、とする立場が出てきていることが分かります。

「腺」ではない、とされるが…

「へんとう腺」が「へんとう」に改められたのは、実態が「腺」ではないためといいます。「腺」とは「特定の物質を合成し細胞外へ放出する腺細胞が、単独で、あるいは集団をなして分泌機能を営む構造」(「医学大辞典」医学書院)。要するに何かを分泌する組織・器官のことですが、「へんとう」はリンパ球の集まった部位ではあっても、合成して放出するものではないため「腺」には当たらないということです。

しかし「へんとう腺」とする呼びならわしが続いているのはアンケートの結果にも見る通り。喉の腫れを抑える医薬品のパッケージに「扁桃腺のはれ・痛みに」と書かれているのも、こうした事情を反映したものなのでしょう。上掲「医学大辞典」の「口蓋扁桃」の項目でも、「一般に扁桃腺といわれている」と記しており、この名称が根強く使われていることを示しています。

新聞としては「へんとう」の呼称をとることに理由があり、妥当だと考えますが、一般に「へんとう腺」がこれだけ通用していることを考えると、「へんとう」に違和感を持たれないかが心配になります。少なくともこれを読んだ皆さんには、新聞で「へんとう」が使われる事情を理解してもらえればと思います。

(2021年02月16日)



質問に際して

口を開いた時に喉の入り口の両横に見える、アーモンド形の組織。これが腫れるのが「へんとう炎」です。発熱したり、ものをのみ下す際に痛みを感じたりする場合があります。

へんとう炎? へんとう腺なのだから「へんとう腺炎」じゃないの?と思う人もいるでしょうか。毎日新聞用語集の「へんとう」の項目を見ると「へんとう (扁桃)→へんとう(炎) [注]『へんとう腺』は『へんとう』の旧称」とあります。現在の名称は「へんとう」で、新聞は「へんとう腺」とは書かないのです。

しかし市販薬のウェブサイトを見ると「扁桃腺のはれ・痛みに」のような書き方をするものもあり、いまだに「へんとう腺」の方がなじみ深い名称なのかもしれません。アンケートの回答も「へんとう腺」が多くなるように思いますが、どうなるでしょうか。

(2021年01月28日)

 

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