盗んだ物を売ることについて「転売」を使うのは、おかしな表現だと答えた人が半数近くに上りました。確かに国語辞典は「買った物をそのまま売ること」と説明するものがほとんどですが、盗品についての使用は広がりつつあると感じます。

「転売」という言葉について伺いました。

半数近くは「おかしい」を選択

盗んだ物を「転売」した――この表現、違和感がありますか?
転売は買った物を他へ売ることなのでおかしい 47.1%
本来は誤りだが、許容できる 37.6%
特におかしいとは思わない 15.3%

 

盗んだ物を売ることについて「転売」という言葉を使うのは、おかしな表現だと答えた人が半数近くに上り、許容派の中にも本来は誤りだと考える人が多いことが分かりました。

実は出題者はこの問題をあまり意識したことがなく、昨年秋に新聞協会加盟社の用語担当者による会合で「最近、盗んだ物を売る場合に転売と書く原稿を目にすることが増えてきた」と話題になった際も、自分ならすっと読み飛ばしてしまいそうだと感じたものです。

国語辞典は「買った物を売ること」と説明

しかし、確かに国語辞典を引けば「転売」は「買った物をさらに他の人に売ること」(集英社国語辞典3版)などと、古い辞書から新しい辞書までほぼ例外なく「買った物」に限定した説明が載っています。

買った物でなくても転売と表現したくなる心理は、例えばこういうことでしょうか。「転」という字の意味を手元の漢和辞典で見ると、①ぐるりとまわる。ころがる②方向を変える。位置を動かす。うつしかえる③変化する。うつりかわる──などと分類され、うち②の中に「転換・転記・転売……」の用例が入っています(岩波新漢語辞典3版)。売買関係の「方向を変え」、売買の当事者を「うつしかえる」ことになるのだから、きっかけが盗むことであっても転売に当てはまると考える余地があるかもしれません。

「転」は「人を介する」こと

ところが、もっと厳密で具体的な説明も見つかりました。①めぐる。めぐらす。まわる②うつる。うつす。かわる。うごく③ころぶ。ころがる。ころげる。まろぶ④たおれる。ひっくりかえる⑤直接でなく間に人を介して事を処理すること──と突然5番目の意味で説明の調子を変え、そこに「転売」の用例を据えたのは旺文社漢和辞典・改訂新版です。

つまり「はじめに売ったAさん→それを買いそのまま売ったBさん→Bさんから買ったCさん」がいるとします。Bさんが買うのではなく盗んだ場合、Aさんは売ったことにならないので「間に人を介して売った」とは言えない、すなわち転売に当たらないと解釈できるのではないでしょうか。本来は誤りだという主張は、このあたりに根拠がありそうだと考えました。

新しい用法として広がるか

先日、盗品をネット上で売買するケースについて伝える記事を担当した同僚から「これも転売といえるのか」と相談されました。以上のことを踏まえて違和感が拭えないと伝えると、出稿デスクと相談のうえ「盗品のネット販売」などと直すことになりました。

ただ、今回のアンケート結果もそうですが、本来は正しくないものの許容できると考える人が一定程度いるのも事実です。冒頭で触れた会合での提起も、各社に対応を尋ねる形でしたし、校閲担当者全員が必ず直すとは限りません。結果として、そのまま紙面化したこともあります。また、今回調べた中では唯一でしたが、三省堂国語辞典7版が「買ったりしたものを、またほかに売ること」と、「たりした」を使って解釈の幅を持たせているのが印象的でした。

本来は買った物を売ることを表し、その用法を守るのが望ましい。しかしながら少し柔軟に解釈される余地もあり、盗品などにも当てはめる新たな用法が広がりつつある――というのが現実のようです。

(2021年02月12日)



質問に際して

「買った物でなく、盗んだ物を売る行為を『転売』と表現する原稿が近ごろ増えてきて、悩む場面がある」。昨年秋にあった新聞協会の用語担当者による会合で話題にした社がありました。確かに国語辞典を引くと「転売」は「一方から買ったものを、更に他に売り渡すこと」(岩波国語辞典8版)とあります。

それを聞いたときは自分ならすっと読み飛ばしてしまいそうと感じましたが、先日実際に「盗品のネット転売」といった表現を原稿で目にしたときは、はっきりと違和感を覚え、同僚や出稿デスクと相談のうえ表現を修正することになりました。ただ、場合によっては簡単に直せないこともあるようです。みなさんはどう考えるでしょうか。

(2021年01月25日)

 

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