「搬送」「搬出」「搬入」という、主に物を運ぶ際に使う表現を人についても使うかどうか。アンケートの結果、多くの人は「搬出」「搬入」には抵抗を感じるものの、「搬送」は負傷者など人間を運ぶときにも使うということが分かりました。

主に物を運ぶ際の表現について、人にも使えるかどうか伺いました。

「搬送」は人にもOKが大多数

負傷者を「搬送/搬出/搬入」――人に使わない言葉はありますか?
いずれも使う 5.5%
搬送/搬出は使うが、搬入は物にしか使わない 12.6%
搬送は使うが、搬出/搬入は物にしか使わない 75.7%
いずれも人には使わない 6.3%

 

「搬送」は負傷者など人間を運ぶときにも使うが、搬出や搬入は物にしか使わないと答えた人が4分の3を占めました。出題者の感覚が世間とあまりずれていないようだとわかり、まずはほっとしています。

というのも、実は質問をした後で、日本新聞協会発行の「放送で気になる言葉2011」で「搬送」が取り上げられていることを知ったのです。「一概に禁止はできない」と断りつつ、「人は物ではないから『搬送』はおかしいという批判も」あるとして、「搬送先の病院→受け入れ先の病院」などの言い換え例を示しています。

辞書の説明の「など」が含むものは

搬送を人に使うかどうかは、国語辞典でもそれぞれ立場が違うようです。物に限定する度合いが強いのは新明解国語辞典(7版)で、「〔重い(かさばる)物を〕遠くまで運ぶこと」という語釈。ここまで強い縛りはしないまでも、「荷物などをはこびおくること」(広辞苑7版)のように「荷物など」と補う辞書がいくつか見られました。

ただ、この「など」がちょっとくせものかもしれません。学研現代新国語辞典(改訂5版)は「〔荷物などを〕運び送ること」と説明する一方で、用例は「急病人を──する」。うーん、「荷物など」に人間が含まれることがあるとは……。まあそれは別としても、語釈ではっきり「〔貨物や急病人などを〕車などにのせて送り届けること」と書く三省堂現代新国語辞典(6版)をはじめ、「人にも使う」派の辞書もいろいろありました。全体として見れば、搬送を人に使ってはいけないとまでは言えないようです。

「搬出」「搬入」を人に認める辞書は見当たらず

思うに、健康な人を搬送すると表現するケースはあまりないのではないでしょうか。多くの辞書が、人に使う場合でも「急病人」を例に取っているように、けがや病気で一刻を争う状態を想起させ、生々しさや痛ましさを伴う表現であるとも考えられます。そこに留意して使うべき言葉なのでしょう。

なお、「搬出」や「搬入」を人にも使えると示した辞書は今のところ見当たりません。今回のアンケート結果もあわせ、「けが人を搬出する」などは人間を物のように扱う語感があるので避けた方がよいという意を強くしました。

「救急搬入口」など違和感ない場合も

日本赤十字社 高知赤十字病院のウェブサイトから

 

蛇足ながら、不思議に思うこともあります。行政関係の文書などに「傷病者の搬出」といった表現が出てきたり、医療機関に「救急搬入口」との表示があったりするようですが、個人的にはこうしたケースをそれほど失礼には感じません。プロが手際よく任務に当たる様子が浮かぶからかもしれません。もちろん新聞記事や一般の文章としての判断は別ですが、やはり言葉は一筋縄ではいかないともしみじみ感じたのでした。

(2020年11月06日)



質問に際して

事故のニュースなどで「負傷者が病院に搬入された」と書く原稿を見かけたことが何度かあります。人間を物扱いしているように感じられ、周囲も同意見なので「運び込まれた」などと直しています。

ところが「負傷者が現場から搬出された」となると、人に使うことへの抵抗感がやや弱まるように出題者は感じており、実際に記事化されることもあります。それでも、できれば「運び出す」などと書くほうがより丁寧で適切だろうとも思っています。

「救急搬送」などというように、「搬送」はまず問題視されないと予想しますが、字面からは理屈をつけにくい違いでもあります。私たちの感じ方は読者の皆さんとずれていないかどうか、一度確かめてみたいと思った次第です。

(2020年10月19日)

 

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