新規まき直しは、元々は種を「蒔(ま)き直す」こと。ゆえに「巻き直し」は誤りとされますが、3分の1超で最多でした。新聞等は表外字の「蒔」を避け「まき直し」としますが、仮名書きによって元の漢字が分からなくなった面もありそうです。

「新規まき直し」という表現の書き方について伺いました。

「巻き直し」が3分の1超え最多だが

「今までのことをあらため、最初から始めること」です。どう書きますか?
新規まき直し 27.8%
新規巻き直し 36.1%
新規蒔き直し 13.9%
上のいずれもなじみがない 22.2%

 

本来は種を「蒔(ま)き直す」意味の「まき直し」。よって「巻き直し」は誤りとされますが、最多の3分の1超を占めました。新聞等は「蒔」が常用漢字表に入っていない表外字のため「まき直し」と書きますが、漢字使用が避けられてきたために元の意味が分からなくなっている面もありそうです。

戦前は「蒔き直し」が標準的

神戸大学付属図書館のデータベース「新聞記事文庫」で記事を検索してみると、「新規まき直し」10件、「新規巻き直し」0件、「新規蒔き直し」34件――と、差は明らかです。同文庫では現在1836~1945年の記事を検索できるようになっていますが、漢字の使用に制限がなかった時代には「巻き直し」と誤る余地は小さかったことがうかがえます。

国語辞典は「まき直し」について「①(一度種をまいたのに芽が出ないので)改めて種をまくこと。②転じて、物事を改めてやり直すこと」(岩波国語辞典8版)と説明します。日本国語大辞典(2版)に出ている「新規蒔き直し」の初出は二葉亭四迷「其面影」で、20世紀初頭の作品ですからさほど古い言葉ではないようです。ゼンマイも日常的になった時代の言葉と言えそうですが、「巻き直し」と書く例は青空文庫の近代文学作品でも見当たりません。

「巻き直し」と書くという人でも、「蒔き直し」と意味上の使い分けをしているわけではないことも踏まえると、過去の表記からの継続を重んじて、やはり「蒔き直し」ないし「まき直し」と書くのが穏当であると言えるでしょう。

「ニューディール」は「巻き直し」?

校閲のツイッターへのコメントでは、フランクリン・ルーズベルト米大統領による1930年代の「ニューディール(New Deal)」政策が「新規まき直し」政策と訳されていたことに触れた方がありました。

そういえばそんなの習った覚えがありますね、と思い改めて事典の「ニューディール」の項目を引いてみると――

大恐慌の経済危機の下で、1930年代にアメリカ合衆国のF・D・ルーズベルト政権により実施された政策の総称。ニューディールは「新規巻き直し」といった意味(後略)。(日本大百科全書)

うーん、ニッポニカが「巻き直し」を使うとは。もっとも国語辞典などは「ニューディール」についても「新規まき直し」と書いており、「巻き直し」は少数派です。

英語の「deal」は他動詞だと「分配する、分け与える」といった意味。カードゲームの親(カードを配る人)をdealerということを考えれば分かりやすいでしょうか。出題者は「ニューディール」という言葉もトランプの札を配り直すようなイメージを持っていました。「種をまく」という意味があるわけではありませんが、「札をまく」様子は類推を誘います。「巻き直し」では意味が曖昧になるように思います。

なじみの薄い表現になってきたのかも…

一方、そもそも「新規まき直し」という表現にあまりなじみがない、という人も2割以上ありました。毎日新聞の記事データベースを見ても、ここ30年ほどで使用している記事は35件に過ぎません(東京本社版、地域面除く)。少なくとも、近年ではよく使われる表現とは言い難く、書き方の正誤を気にする機会がないという人も多そうです。

先ごろ公表された文化庁の2019年度「国語に関する世論調査」(PDFが開きます)では「新規まき直し」と「新規まき返し」のいずれを使うかを質問していました。結果は文化庁のPDFにあるとおりですが、「どちらも使わない」「分からない」の合計が11%というのは今回のアンケートの結果と比べて意外に少なく感じます。案外、「新規まき直し」とは関係ない新しい表現の「新規まき返し」であれば使う、という人がそれなりに存在するのかもしれません。

(2020年10月27日)



質問に際して

先ごろ公表された2019年度の文化庁「国語に関する世論調査」に関連する質問です。調査では「今までのことをあらため、最初から始めること」として「新規まき直し」と「新規まき返し」のどちらを使うか、という質問がありました。

結果は「まき直し」を選んだ人が42.7%、「まき返し」が44.4%。本来の形とされる「まき直し」と、「まき返し」がほぼ同率でした。しかし「新規まき返し」か、あまり見たことがないなと思ったのですが、考えてみると「新規まき直し」自体、それほど見かけないように思います。書き言葉としてのニーズが少ないだけかもしれませんが。

校閲にとっては、この言葉は「新規巻き直し」と書かれがちなので注意すべき言葉とされます。「まき直し」は「(一度種をまいたのに芽が出ないので)改めて種をまくこと」(岩波国語辞典8版)。種まきに使う漢字の「蒔」「播」が常用漢字に入っていないので新聞では平仮名を使います。とはいえ今の社会では、ゼンマイを「巻き直す」のような形がイメージしやすいかもしれません。そもそも使うかどうかも含め、この機会に伺ってみようと思います。

(2020年10月08日)

 

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