「憧憬」という熟語をどう読むかは、「しょうけい」を選んだ人が最多で、慣用読みの「どうけい」を上回りました。ただし「どうけい」も常用漢字表で認められている読み方であり、誤りというわけではありません。

「憧憬」という言葉の読み方について伺いました。

「しょうけい」が「どうけい」を上回る

あこがれを意味する「憧憬」。どう読みますか?
しょうけい 48.2%
どうけい 40.2%
上のいずれでもよい 10%
わからない 1.6%

 

さすがと言うべきでしょうか、校閲のツイッターをご覧の方は「わからない」が少ないことに感心しました。「しょうけい」を選んだ人が慣用読みの「どうけい」を上回った点にもまた感心。ただし慣用読みの「どうけい」も“不正解”というわけではありません。

常用漢字表は両方を認める

「憧」は2010年の常用漢字表の改定で、新たに表に入った漢字です。許容されている音訓は「ショウ」「あこがれる」で、「憧憬」の語も「ショウ」音の横に記されています。つまり読み方は「しょうけい」になるわけですが、備考欄に「『憧憬』は、『ドウケイ』とも」と言います。つまり常用漢字表では慣用読みの「どうけい」も認められているのです。

常用漢字表から

でも、「~とも」ということは、標準の読み方から外れているということでしょう?という声も聞こえてきそうです。しかし、同様に常用漢字表の備考欄で「~とも」とされている言葉を見てみると、堪能は「タンノウ」とも▽「末子」「末弟」は「マッシ」「マッテイ」とも▽妄言は「モウゲン」とも▽礼拝は「レイハイ」とも――などなど。それぞれ表に挙がっている音に基づけば「かんのう」「ばっし、ばってい」「ぼうげん」「らいはい」なのですが、いずれも備考欄の読み方の方がなじみ深いはずです。

「しょうけい」優先が実用的か

2019年度の文化庁「国語に関する世論調査」では、「憧憬」をはじめ、改定常用漢字表で追加された漢字を使った語について、どう感じるかを聞いています。「読みにくいので、振り仮名を付けるのが望ましい」とされた割合が高かった語は、回答から見られる解説でも挙げましたが、「語彙(ごい)」「錦秋(きんしゅう)」「憧憬」「毀損(きそん)」「歯牙(しが)」の順でした。

しかし振り仮名を付けるといっても、「憧憬」のように複数の読み方が普及している場合には迷うことになりそうです。毎日新聞では読み仮名を「しょうけい」とすることを決めていますが、これには表記を統一するためという面もあり、唯一の“正解”を提示しているわけではありません。「憧」の漢音は「ショウ」ですが、漢和辞典には「ドウ」の音もあり、「どうけい」も誤りとして否定するのは難しく感じます。実用の点からはまず「しょうけい」を覚えておき、他人が「どうけい」を使ったとしても問題視しない、というのが穏当かと考えます。

「隠蔽」になじんだ人が増えたのは…

国語世論調査では「憧憬」を含む28の熟語について、漢字を使うことをどう感じるか聞き、2009年度の同じ質問の結果と比較しています。そのうち「漢字を使うことで、意味の把握が容易になる」とした人の割合がこの10年で増えた――つまり漢字表記になじんだ人が増えた――のは6語のみ。常用漢字の改定で目にする機会が増えたはずの文字でもこの結果というのは、やはり後から追加されたのは難しい文字だったのだなと思わざるを得ません。

ところで、漢字表記になじんだ人が増えた6語のうち、もっとも数字が動いたのは「隠蔽(いんぺい)」でした。2009年度に「漢字を使うことで、意味の把握が容易になる」を選んだ人は33.3%でしたが、今回は41.6%と目立った増え方をしています。思えば公文書改ざんだの名簿の破棄だのと、政府による隠し事がいたく目に付いたここ数年でありました。「隠蔽」になじんだ人が増えたというのもそうした世情を映したものと考えると、漢字の読みについての調査といっても、存外奥行きのあるものと感じられるのではないでしょうか。

(2020年10月20日)



質問に際して

先ごろ、2019年度の文化庁「国語に関する世論調査」の結果が公開されました。慣用句の使い方などが特に話題に上りますが、あるセクションでは漢字表記についてどう感じるかを聞いています。

2010年の常用漢字表改定で追加された漢字に関するもので、そのうち「読みにくいので、振り仮名をつけるのが望ましい」という回答が多かった語を挙げていくと、上から順に「語彙」「錦秋」「憧憬」「毀損」「歯牙」――などとなります。

読みは順に「ごい」「きんしゅう」「しょうけい」「きそん」「しが」。錦秋が入っているのがやや意外ですが、あとは順当という印象を受けます。「語彙」などは60.9%もの人が、振り仮名が望ましいとしています。

「憧憬」で「振り仮名を」としたのは55.4%。ただし、その振り仮名をどうするかは若干問題があります。多くの国語辞典は「しょうけい」を通常の読み方として「どうけい」は慣用読みとしていますが、三省堂国語辞典(7版)のように「しょうけい」は空項目にして「どうけい」に誘導する辞書もあり、大勢は「どうけい」にあると考える向きもあるようです。皆さんはどちらを選んだでしょうか。

(2020年10月01日)

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