「○日ぶり」という表現を好ましくないことについて使うのに違和感があるか伺った結果は、「ある」と「ない」がほぼ半々。違和感を持つ人も相当数いるようです。ただし、継続的にデータを扱う内容の記事では珍しくない表現でもあります。

「○日ぶり」という表現を、好ましくないことが起きる場合に使うのをどう感じるか伺いました。

「違和感あり」も半数に達する

感染者数が「3日ぶりに」100人を上回った――こうした「ぶり」の使い方、どうですか?
違和感がある 51%
違和感はない 49%

 

結果は、違和感がある人とない人がほぼ半々。報道ではごく普通に使われる表現ですが、違和感を持つ人が相当数いるという結果でした。

「よくないことには使わない」説

時間の経過を表す「ぶり」を「好ましくないことには使わない」というのは、NHK放送文化研究所の2001年7月の記事(「~ぶり」の使い方や数え方は?)に記されています。

<注意>「~ぶり」には、語感の中に「待ち望んでいることへの期待感」を含んでいるので、「○年ぶりの大病」などという言い方は普通しません。

国語辞典編集者の神永暁さんも「日本語どうでしょう?」の2013年6月の記事(「2年ぶりに出場」──前回の出場はいつ?)で触れています。

「ぶり」にはそのことが起きることへの期待感が言外に含まれているので、「5年ぶりの大事故」といったような、よくないことには使わないとされてきた。

その上で、「好ましくないことにも使う」と明鏡国語辞典2版が注記していることに触れ、使い方が揺れていると指摘しています。

「期待されること」に使われやすい

出題時の解説で紹介した明鏡2版と新明解国語辞典7版を除くと、近年出た多くの辞書の説明は「それだけの時間を経過して、再び同じ状態になることを表す」(大辞林4版)、「間にそれだけの時間がはいるようす」(三省堂国語辞典7版)といった具合に「ぶり」を使う時の「感情」には踏み込んでいません。

それでも示されている用例は「期待感」が感じられるものがほとんどです。

「五年ぶりの帰郷」「三日ぶりの晴天」(大辞林4版)
「七日ぶりに救出された」「五年ぶりの再会」(三省堂国語辞典7版)
「十年ぶりに日本の土を踏む」「しばらくぶりに映画を見た」(デジタル大辞泉)

これらを見ると、実態として、期待されることに使われることが多いというのは、確かに言えそうです。ただそれは、そもそも望まない出来事について「前の時からどれくらいたったか」ということを殊更に意識して表現したくなることが少ないからではないかとも感じられます。

「好ましくないことにも使う」という明鏡2版が二つ例示するうちの一つ、「九年ぶりの大地震」も、ありえない表現とは思いませんが、あえて実際にこういう使い方がされることはあまりないのではないかと感じます。一方で、もう一つの用例、「三年ぶりの低成長」のような言い方はよく見かけます。

推移に注目する場合は感情抜きでも

1日ごとに集計される感染者数もそうですが、企業の決算や経済指標など、継続的にデータが示されるようなものごとの場合、良しあしにかかわらず、時間を追って推移に注目するのは自然なことです。そのため「3四半期ぶりの営業赤字(黒字)」「感染者数が3日ぶりに増加(減少)」というのは、「待ち望む」「期待する」ような感情を抜きにして、いずれも変化を客観的に示す表現として成り立つと考えられます。また「ぶり」と同じように端的に経過した時間を示せる別の表現は、なかなか思いつきません。

つまり、「ぶり」は期待感を込めて使うことも多いが、そういった感情を抜きにして使うこともできる、と言うべきなのではないでしょうか。前述したように多くの辞書が「感情」に明確に触れていないのも、よいことばかりに使うとは言い切れないから、と受け取れます。

不自然な感じが強くないか、意識したい

今回のアンケートの結果は予想外でした。実は出題者は「よくないことには使わない」という説を知らなかったのですが、職場でベテランら何人かに尋ねても一様に「初めて聞いた」「知らなかった」という返答ばかり。報道の文章に慣れているせいもあるのか、新聞校閲者には「ぶり」の使い方に制約があるという認識は薄いようです。

しかし、一般に「ぶり」を使う場面で期待感が含まれることが多いということについては、言われてみると、なるほど、と感じる部分はあります。今回伺った例のような使い方は不適切とはいえないと考えますが、気にする人が多いということからしても、「ぶり」を使う際は不自然な感じが強い使い方になっていないか、意識した方がよいと思われます。

ところで、この時間の経過を表す「ぶり」の用法については、もう一つ論点があります。それは「ぶり」の前と後が、「同じ状態」でなくてもよいかということ。そちらについては、以下の記事で取り上げていますので、ぜひ併せてご覧ください。

(2020年10月16日)



質問に際して

新型コロナウイルスの感染者数の増減が連日報じられています。感染者数が一旦減少し、ある期間をへて再び増加したような場合、「○日ぶりに○人を上回った」などと表現されますが、これが気になると指摘する声があるようです。

新明解国語辞典7版は時間を表す語につく「ぶり」の説明として、「(期待される)その事態が実現するまでに、予測される以上のそれだけの時間が経過することを表す」と記しています。「期待される」ということは、つまり好ましい出来事について使うと示していることになるでしょう。

一方、明鏡国語辞典2版は同じ「ぶり」の項で「好ましくないことにも使う」と付記し、「九年ぶりの大地震」「三年ぶりの低成長」という例文を挙げています。ただ、あえてそう書いているのは、「好ましくないことには使わない」という説があることを踏まえていると言えるでしょう。

冒頭に挙げた感染者数の例も含め、報道では、期待されること、されないことに関わらず「ぶり」が使われているのが実態だと思いますが、好ましくない事柄で使うのは違和感がある、という人はどれくらいいるのでしょうか。

(2020年09月28日)

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