「8年近く」は7年何カ月から言えるかという問いに、回答は割れました。8カ月からは「盛りすぎ」という声がある一方で、選択肢にない7カ月からとする反応も。ただしやはり、なるべく7年8カ月くらいで「8年」は避けたいものです。

「8年近く」は7年何カ月から言えるのか伺いました。

「7年10カ月から」が最多だが

「8年近く」と言えるのは7年何カ月からですか?
7年8カ月 30.5%
7年9カ月 17.9%
7年10カ月 43.4%
7年11カ月 8.1%

 

もとより、正解がある質問ではありません。毎日新聞としての基準があるわけでもありません。ただ、どのあたりが一般的なのかを知りたいと思いました。

結果は「7年10カ月」が最多で、これは順当なところでしょう。次に多いのが「7年8カ月」で最少が「7年11カ月」というのは出題者にとって意外でした。7年8カ月で8年というのは「盛りすぎ」というツイートがある一方、選択肢にはないのですが「7年7カ月からと思った」という反応もあり、半年を過ぎれば「8年近く」とみなす人が一定程度いることが分かりました。

閣議決定された談話でも「8年近く」

出題の直接のきっかけは、首相官邸ホームページで安倍晋三さんが礼をする画像とともに表れる「国民の皆様、8年近くにわたりまして、本当にありがとうございました」という文字を見たことでした。7年8カ月を「8年近く」と言っていいのかしらん、と素朴な疑問を持ちました。

その後、9月16日に閣議決定された文書「内閣総辞職に当たっての内閣総理大臣談話」でも、最初に「この八年近く、内政、外交の諸課題に全力でチャレンジしてまいりました」、最後に「八年近くにわたり、本当にありがとうございました」と繰り返されています。

首相官邸ウェブサイトから

第2次安倍政権発足が2012年12月26日。月を指折り数えても7年と9カ月に至りません。8年近くということに違和感は拭えませんでしたが、このアンケートの結果をみる限り、変と思う人はそれほど多くはないのかもしれません。

やはり正確に記すのが主流

そこでこう考えてみました。もし「今年も1年近く過ぎた、というのは何月から言えるか」という問いだったら、少し違った結果になったかもしれないと。例えば8月時点で「今年ももう1年近く過ぎた」と言う人は多分あまりいないでしょう。それに対し、7年8カ月は92カ月。8年つまり96カ月のうちの4カ月くらいは「ゲタを履かせる」ことが許されるという気持ちが働く人が少なくないのかもしれません。

その裏付けとして、毎日新聞記事データベースで「鳩山由紀夫」「1年近く」のワードで検索してみました。鳩山首相の任期は2009年9月16日から10年6月8日まで、約8カ月半。この任期について「1年近く」とした記事は見当たりませんでした。

もっとも、第2次安倍政権の期間について「8年近く」とするものも、「約8年」とするものも、あまり毎日新聞では出ていません。やはり「7年8カ月」と正確に記すのが主流です。校閲としても「8年近くの長期政権」という原稿が来たとき、「間違いではありませんが丸めすぎでは」と疑問を呈した方がよいと思います。

では「アラ○○」は何歳から?

余談ですが、「丸める」は岩波国語辞典(8版)によると「数値計算で四捨五入をする」「roundの訳語」とあります。roundといえば、aroundからきたアラサー、アラフォー、アラ還(還暦近く)などは定着し、同辞典にも「アラ」が載っています。しかし同辞典では何歳からアラ○○と言うかは示していません。インターネットでは25歳でアラサーと言うとするものもあり、これも人により多様のようです。しかし個人的な感覚としては、25歳をアラサーと言ったり55歳をアラ還と言ったりするのはその人に失礼と思います。

岩波国語辞典8版から

それと同様、年月に関して四捨五入的に半年をちょっと過ぎたくらいで切り上げた数字を使うのはしっくりきません。正解はないにしても、アンケートで比較的多かった「10カ月」が一つの目安にはなるのではないでしょうか。

(2020年10月06日)



質問に際して

「国民の皆様、8年近くにわたりまして、本当にありがとうございました」。安倍晋三さんは首相辞任を表明した8月28日の記者会見冒頭発言を、このように締めくくりました。

第2次安倍内閣が発足した2012年12月から数えて7年8カ月で、安倍さん自身も同じ冒頭発言で「7年8カ月」と言っていましたが、縮めて「8年近く」とも述べているのです。

8カ月。微妙な数字です。あと4カ月たてば8年にはなりますが「8年近く」と言えるでしょうか。そもそも何カ月くらいたっていれば、年数を切り上げる形で「近く」と言えるのでしょう。皆さんの感覚としてはいかがですか。

(2020年09月17日)

 

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