ピアニストとオーケストラの「きょうえん」には「共演」を使う人が6割を占め、ともに2割程度だった「競演」「協演」に大きく差をつけました。三つの中では「共演」の使い勝手がよいのですが、ふさわしい場面では「協演」もおすすめします。

「きょうえん」という言葉の使い分けについて伺いました。

「共演」が最多で6割占める

新進ピアニストがオーケストラと「きょうえん」――どう書きますか?
共演 60.1%
競演 19.4%
協演 20.5%

 

「共演」が6割を占め、いずれも2割程度だった「競演」「協演」に対し大きく差をつけました。同じ舞台に立つことなどを意味する「共演」は他の二つよりも指し示すものが広く、使い勝手がよいため選ばれやすいと考えられます。

三つの「きょうえん」の使い分け

回答から見られる解説でも引きましたが、改めて「きょうえん」の使い分けに関する毎日新聞用語集の記述を引用します。

共演〔同じ舞台・ドラマなどに出演する〕3大スターの初共演
競演〔同じ役柄・演目などを競い合う〕映画と舞台で話題作を競演、ビッグバンドの競演
協演〔協力して演奏する・演じる〕ウィーンフィルと協演、長唄と地唄の協演

文字から見て、大体の意味は察することができるのではないかと思いますが、辞書を引くと細かいニュアンスが感じられます。

「共演」は「映画・演劇・音楽などで、主役格の者が二人以上一緒に出演すること」(広辞苑7版)といいます。「主役格の者が……」というくだりを見ると、単に一緒に出ることとして使う言葉ではなかったようです。もっとも「主役になる人物といっしょに出演すること」(三省堂国語辞典7版)というように、共演する側は必ずしも主役格でなくとも構わない場合が多いと思われます。

「競演」は「共演」と比べてみると分かりやすいでしょう。「同音語同訓語使い分け辞典」(東京堂出版)は「『二大女優の 共演/競演』では、前者は単に一緒に演じる意だが、後者は競い合うの意からセンセーショナルな趣が加味されて意味が強まる」と説明します。同じ役柄でなくとも、同じ作品の中で演技を競う場合に使うことができ、互いに張り合うような意味を持たせることができます。比喩的には例えば花火大会の記事で、次々に上がる花火が美しさを競い合っていると見立てて「競演」が使われることがあります。

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「協演」推奨の場面でも「共演」の使用実績多数

さて残りの「協演」です。毎日新聞用語集は、用例に「ウィーンフィルと協演」と挙げており、今回の質問のようにピアニストがオーケストラと一緒に演奏する場合なら「協演」を推奨しています。ただし、同じ舞台に立つという意味では「共演」とも言えるため、「協演」が選ばれない場合もあります。

毎日新聞の記事データベース(1987年以降、東京本社版)を見ても、「オーケストラと協演」という検索語でヒットする記事は26件、「オーケストラと共演」では104件と、用語集で推奨している言葉が必ずしも選択されていないことが分かります。

ウェブで公開されている、新聞に限らず言葉の使用例を集めている現代日本語書き言葉均衡コーパス「少納言」で検索すると、「協演」で見つかる記事は7件、「共演」では570件と圧倒的な差があります。もちろん「共演」の方が広く使えるので用例が多いのは当然なのですが、一般的ななじみ深さに差があるのは間違いありません。その差ゆえに、新聞においても「協演」が使える場面で「共演」が選ばれるということが起きるのでしょう。

ふさわしい場面では「協演」を使いたい

しかし、単に社のルールに従うという観点からだけでなく、ふさわしい場面では「協演」という言葉も使いたいと思います。使用可能な場面の限られる言葉をあえて使うことによって、表現の精度を高めることができるのではないでしょうか。ツイッターでは、質問への回答に当たって、「協演」の言葉に「ピアニストがオケと『協』奏曲を演奏する場面が頭に浮かびます」という感想も見られました。そのように受け止めてくれる人もいるということを踏まえ、場面による使い分けの意識は大事にしたいと考えます。

(2020年09月08日)



質問に際して

演技や演奏に関わる「きょうえん」と読む言葉について、毎日新聞用語集は三つの表記を挙げています。「共演」「競演」「協演」です。

用語集の説明には、「共演」が「同じ舞台・ドラマなどに出演する」、「競演」は「同じ役柄・演目などを競い合う」とあります。そして「協演」は「協力して演奏する・演じる」こととし、「ウィーンフィルと協演」という用例を載せています。ですから、今回の質問のようにピアニストがオーケストラと、という前提であれば「協演」と書くことが推奨されます。

しかしこの「協演」は、あまり書き手に選ばれない表記です。原稿でも大抵は「共演」と書かれたものを、校閲記者が「協演」と直しています。どうしてかくも選ばれないのか、改めて「協演」を辞書で引いてみると――あれ、載っていない? 広辞苑、大辞林、大辞泉といった中辞典クラスはいずれも記載がなく、小辞典でも載っているのを確認できたのは2点だけでした。

うーん、そんなに使われない言葉だとすると、新聞で使うことも考え直さねばならないのでしょうか。皆さんが何を選ばれたかが気になるところです。

(2020年08月20日)

 

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