「はむかう」の書き方としては「歯向かう」が多数派でしたが、「刃向かう」を選んだ人も4割程度と少なくありませんでした。新聞・通信社では「歯向かう」を採用する傾向も見られますが、現状ではいずれを使用しても問題なさそうです。

「はむかう」を漢字でどのように表記するか伺いました。

「刃向かう」「歯向かう」大差はつかず

権力に「はむかう」。どちらの表記を使いますか?
刃向かう 38.4%
歯向かう 51.2%
どちらも使う 10.4%

 

最多は「歯向かう」となりましたが、「刃向かう」を選んだ方も4割いました。片方が優勢だといえるほどの大差はなく、どちらの表記も浸透しているといえそうです。

国語辞典は両方の表記を記載

国語辞典を見てみると、「刃向かう」のみを載せたもの(集英社国語辞典3版など)も存在するものの、ほとんどの辞書が「刃向かう」「歯向かう」の双方を載せています。「もと、刃物を持って向かってくる、または、かみつこうとして歯をむき出してくる意」(岩波国語辞典8版)、「『歯』と書くのは、語源意識が薄れて以降の用字」(新明解国語辞典7版)との記述を参考にすると、もともとは「刃向かう」だったようです。

とはいえ戦前の1934年に発行された「大言海」も、「はむかふ」の項に「歯向」「刃向」双方を載せていることから、「歯向かう」もそれなりに歴史を積み重ねてきているといえるでしょう。

権力に「はむかう」といえば、元来は敵意を持ってお上に「刃物」で切りつけることが代表例であったはずです。こうした場面は時代劇などでは現在も見ることができるものの、だんだんと時代が下るにつれて「歯が立たない」などにも使われる「歯」の方が、抵抗のイメージとして身近になってきたように感じます。

新聞・通信社は「歯向かう」化の傾向も

質問に際して各社の用語集の表記を紹介しましたが、それぞれの記述は版を重ねるにつれて徐々に変化してきています。毎日新聞では、初めて「はむかう」を掲載したのは92年。当時は「刃向かう」のみでしたが、次の96年版で「(歯向かう)→刃向かう」と、現在と同じ内容になりました。

「歯向かう」を採用する各社でも、例えば日本経済新聞は「歯向かう・刃向かう」(2011年)から「歯向かう」(17年)に、時事通信は「歯向かう・刃向かう」(06年)から「(刃向かう)→歯向かう」(10年)へと対応が変わっています。段々と「歯向かう」の表記が拡大していくにつれて、「刃向かう」に統一するということを明示すべきだ、あるいは「歯向かう」のみにかじを切ろうなどと、各社が議論した形跡がうかがえます。

さまざまな用例を紹介する辞書とは異なり、新聞・通信社の用語集は書き手によるばらつきをなくすために一定のルールを示しています。それゆえ表記が揺れているものについても、いくつかの資料や指標から判断し、何らかの見解を記載する必要があるのですが、「はむかう」についてはどちらかに統一する明確な決め手がありません。各社で表記が割れているのは、それぞれの用語担当者が悩みに悩んだ結果だともいえるのです。

当面は両方可、今後はどうなる?

今回のアンケートの結果では「歯向かう」がやや優勢でしたが、現状では毎日新聞の表記を「刃向かう」から変更しなければならない根拠はないように思えます。しかし、今後「刃向かう」に違和感を持つ人が増えたり、「歯向かう」が圧倒的に優勢になったりすれば、表記を変える日が来るかもしれません。

(2020年08月28日)



質問に際して

相手に逆らって抵抗することを表す「はむかう」。漢字では「刃向かう」「歯向かう」と書き、ほとんどの国語辞典では双方の表記を載せています。「かみつこうとして歯をむき出しにして向かっていく。また、刃物を持って向かっていく」(広辞苑7版)さまから、両様の書き方が存在するようです。

毎日新聞では「刃向かう」に表記を統一していますが、新聞・通信各社で対応が分かれています。同じく「刃向かう」としているのは朝日新聞。一方、日本経済新聞・産経新聞・共同通信・時事通信は「歯向かう」を採用しており、読売新聞は「歯向かう・刃向かう」の双方を認めています。

一方で日本新聞協会が発行する「新聞用語集」は、加盟各社の用語集のベースとなるものですが、「はむかう」を記載していません。協会としては表記についての統一指針が出せないから、どうするかは各社で決めてほしいということでしょう。

調べてみると、どうやら「刃向かう」がもともとの表記のようですが、「歯向かう」も広く使われており、十分に浸透していると言えると思います。みなさんはどちらがしっくりくるか、ぜひお聞かせください。

(2020年08月10日)

 

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