「ひろめる」を「拡める」と書いても「問題ない」としたのは4分の1程度。4分の3の人は「広める」の方がよいと考えていました。「拡める」という表記を載せている国語辞典は見当たらず、意味の上からも使いにくい印象を受けます。

「ひろめる」を「拡める」と書くことについて伺いました。

4分の3の人は「広める」を推すが…

「ひろめる」という場合に「拡める」と書くのはどうですか?
問題ない。「広める」とは意味が違う 23.9%
許容できるが、「広める」を使いたい 35.3%
違和感が強い。「広める」を使う 40.9%

 

「拡める」という書き方について「問題ない」としたのは4分の1程度。4分の3の人は「広める」の方がよいと考えていました。ただし、「拡める」を許容できるか、という点では6割の人が許容しており、どう考えるか難しい結果になりました。

コロナを「拡め」、アプリを「広める」?

回答から見られる解説にも書きましたが、今回の質問のきっかけは、新型コロナウイルスの「接触確認アプリ(COCOA=ココア)」の画面でした。起動画面には感染症を防ぐという妖怪アマビエのイラストとともに「知らないうちに、拡めちゃうから」という文言が記されています。

接触確認アプリの画面から

一方でその後に表示される画面には、同アプリをSNSなどでアピールすることを求めて「本アプリを広めましょう」という表現が出てきます。

接触確認アプリの画面から

「拡めちゃう」と「広めましょう」――この二つの「ひろめる」を使い分けるほどの根拠があるのかどうか。どうも落ち着きません。

国語辞典は「拡める」の表記を載せず

「ひろめる」は国語辞典を引くと「物事が広く行き渡るようにする。『学問を世に―』。特に、広く知られるようにする。『名を―』」(岩波国語辞典8版)とあり、多くの辞書では「広める」「弘める」という二つの表記が載っています。「拡める」は国語辞典では確認できませんでした。

「弘」は人名ではよく使われますが、常用漢字表に入っていない表外字のため、動詞の表記としては今はほとんど使われません。ただし、現在は「広報」と書く語でも以前はよく「弘報」が使われていたことからも分かるように、情報などを広く行き渡らせる場合に「弘」が使われています。「ひろめる」という語が「弘める」と表記されたのも「広く知られるようにする」という意味に即した使い方でしょう。

一方、国語辞典に「拡める」が載っていないのは、表外訓だからというわけではなく、代表的な表記と認められていないということのようです。転じて「ひろげる」を引くと、こちらは「広げる」「拡げる」という表記が目に入ります。意味は「占めるまたは及ぶところを広くする」(岩波8版)。「拡」は漢語でも「拡大」「拡散」のような使い方が目につき、何かが及ぶ範囲を人為的に大きくする、というニュアンスを感じます。

使い勝手が良いのは一般的な「広」

国語辞典を引いたうえでの印象からいうと、コロナウイルスについては「感染拡大」と言うことからも「拡」を使いたいのかもしれませんが、それならば「拡める」よりは「拡げる」とした方がよいのではないかと感じます。もっとも、「広」を使うならば、「広める」「広げる」のいずれでも問題ないでしょう。

一方でアプリを普及させることについては、「広く行き渡るようにする」のがアプリの有効性を高めるためにも必要ということを考えると、「ひろめる」で良いでしょうし、常用漢字の「広」を使って「広める」と書いて問題ありません。

円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)は「ひろまる/ひろめる」の項目で「弘」「拡」「広」の3字を挙げ、「一般には《広》を用いる」「積極的なニュアンスを強調したい場合には、《拡》を使うこともできる」「役に立つことを多くの人に知らせる場合には、《弘》を書いてもよいが、やや古風」としています。

created by Rinker
¥2,530 (2020/09/24 22:06:59時点 Amazon調べ-詳細)

しかし、考えてみるとコロナの場合の文言は「知らないうちに、拡めちゃうから」というものでした。「知らないうちに」というならば「積極的なニュアンス」を帯びるという「拡」を使うのはためらわれます。ここは一般的な「広」を使うのが穏当だったのではないでしょうか。

(2020年08月25日)



質問に際して

新型コロナウイルスの「接触確認アプリ(COCOA=ココア)」をスマートフォンにインストールしました。アプリをインストールした人同士が、無線通信のブルートゥースを起動させて「1メートル以内」に「15分間以上」いた場合、互いのスマホに個人が特定できない形で接触情報が記録されるというものです。

機能についてはともかく、アプリの表示で気になる部分がありました。起動画面にはコロナ騒動ですっかり有名になった妖怪「アマビエ」のイラストとともに、「知らないうちに、拡めちゃうから。」というメッセージが載っています。

「拡めちゃう」か、常用漢字表にない表外訓だけれど「拡」を使いたいのかなあ、と思いつつその後の画面を見ると、接触情報などの表示の下方に「本アプリを広めましょう」という文言が。アプリを使う人が増えればより効果的に接触を確認できるわけですが、「拡めちゃう」と「広めましょう」で表記を使い分ける理由がわかりません。

国語辞典で「ひろめる」を引くと漢字表記は「広める・弘める」となっています。漢和辞典では「拡」に「ひろめる」という訓も認めていますが、使い分けの根拠は見えてきません。あえて「拡める」も使ったアプリの表示、どんなものでしょうか。

(2020年08月06日)

 

フォローすると最新情報が届きます

Twitter