外からの情報で不安がわく――出題者は「不安をかき立てられる」を「正解」としましたが、同様に考える人が8割近くと大勢を占めました。「駆り立てられる」を使うなら「不安に駆り立てられる」となりますが、意味が違ってきます。

感情などを呼び起こされる場合の表現について伺いました。

2割弱は「駆り立てられる」を選ぶ

感染症のニュースで心がザワザワ――どう表現しますか?
不安をかき立てられる 77.5%
不安を駆り立てられる 18.2%
上のいずれも言う 4.3%

 

回答から見られる解説で、出題者は「不安をかき立てられる」が「正解」だと考える、と書きましたが、同様に考える人が8割近くと大勢を占めました。一方で「駆り立てられる」を選んだ人も2割弱おり、原稿でしばしば「不安を駆り立てられる」という形を見るのも理由のないことではないと考えさせられました。

追い立てるのが「駆り立てる」

「新型コロナウイルスの感染が、人々の不安を駆り立てている」というくだりを目にしたのは4月のこと。「駆り立てる」は「(獲物などを、手に入れるために)さがし出して、追い立てる」(日本国語大辞典2版)というのが元の意味です。「不安を駆り立てる」ならば、不安は心の中から追い立てられて出ていくのではないか、と考えてしまいます。

心に不安を生じさせる、ということであれば「かきまわして、下の方にあるものをわき上がらせる」という元の意味から、「強い刺激を与えて、心の奥に潜んでいる感情をわき上がらせる」(同)こととして使われる「かき立てる」が普通です。何かが心の中をかき回したことで、ある種の感情がわき上がる。質問の例文であれば、感染症のニュースが心の中をかき回し、不安をわき上がらせたということになります。

「似た語形」と「助詞の入れ替わり」が混同招く

「駆り立てる」と「かき立てる」はこうしてみると意味がはっきり違う言葉なのですが、なぜ混同が起きるのか。もちろん「かりたてる」と「かきたてる」で語形が似ている、というのは大きな理由。また、「駆り立てる」の方も感情に関わる意味合いを持つというのも理由と言えるでしょう。

明鏡国語辞典2版の「駆り立てる」の項目には、③として「情念や教説が人を突き動かす。駆る」という説明に加えて「不安に―・てられる」という例文が載っています。ただし、ここで注意しなければならないのは、不安「に」という助詞の付き方です。不安が(人を)駆り立てる=(人が)不安に駆り立てられる、という表現であって、「(何かが)不安をかき立てる」という表現とは一線を画して理解しなければなりません。

もっとも、助詞の間違いや入れ替わりは、日本語の文においては頻繁に起こるものです。まして語形が似ていれば、「不安に駆り立てられる」と「不安をかき立てられる」が混同されて、「不安を駆り立てられる」という形が生まれるのも不自然とは言えないかもしれません。

内面か、行動かで意味を押さえたい

意味の上で改めて押さえたいのは、「駆り立てる」の場合は外からの刺激で感情が生まれるのではなく、感情が人を動かす、ということです。

幾つかの辞書の例文を見ると「投げだしたい衝動に駆り立てられる」「自責の念に駆り立てられる」「仕事への情熱に駆り立てられる」「欲望に駆り立てられる」「なぐりたい衝動に駆り立てられる」――など。ある種の感情が人を行動へと追い立てる、あるいは居ても立ってもいられない気持ちにさせる、そうしたものが「駆り立てる」です。

今回の質問のように、ある種の感情がわき起こるという意味では「かき立てられる」が適切でしょう。アンケートの結果では8割近くの人が「正解」を選んだことを心強く感じましたが、これは一方で、2割程度の頻度で「不安を駆り立てられる」といった言い回しを目にする可能性もあるということ。できればより多くの皆さんに、「駆り立てる」と「かき立てる」の用法の違いを意識していただければと思います。

(2020年08月11日)



質問に際して

今回の質問に関しては、出題者は「正解」について意見を持っています。「不安を~」という場合には「強い刺激を与えてその気持ちをあおる」(岩波国語辞典8版)と説明される、「かき立てる」を使うのがよいでしょう。従って「不安をかき立てられる」が「正解」と考えます。「かき」は漢字で書けば「搔き」ですが、「搔」が常用漢字表に入っていないので新聞では仮名書きです。

しかし、この「かき立てる」は原稿でしばしば「駆り立てる」と入れ替わって現れます。辞書の「駆り立てる」の項目を引くと「情念や教説が人を突き動かす。駆る」ともあり、「不安に―・てられる」という用例も見えます(明鏡国語辞典2版)。注意していただきたいのは、不安「に」、だということです。

外の刺激によって内なる感情を呼び起こされるのが「かき立てられる」、外からでも内からでも何かをせざるを得ないように突き動かされるのが「駆り立てられる」です。例えばの話、感染症の情報に接して不安を「かき立てられ」、その不安に「駆り立てられて」他人の行動を批判するようになる――といった形で使うこともできます。こうして改めて伺うならば「かき立てられる」の割合が高くなると思いますが、いかがでしょうか。

(2020年07月23日)

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