「少子化/将棋の指し手」について「はやい」ペースで進むという場合に漢字表記をどうするかは、少子化の場合には「早」「速」が半々でした。新聞社などでは「速」に統一する社もありますが、あえて統一すべきかは検討の余地がありそうです。

「はやいペース」という場合の漢字表記について伺いました。

「少子化」では「早い」と「速い」が半々

「はやい」ペースで「少子化/将棋の指し手」が進む――「はやい」はどう書きますか?
ともに「早い」 21.4%
ともに「速い」 33.2%
少子化の場合は「早い」、指し手は「速い」 30.1%
少子化の場合は「速い」、指し手は「早い」 15.3%

 

少子化と将棋の指し手について、いずれも「速い」とする人が3分の1を占めて最多でしたが、他の選択肢と比べて目立つほどの差はついていません。選択肢をバラして、「少子化」「指し手」それぞれについての選択がどうだったのか、改めて割合を示すと以下のようになります。

少子化――「早い」51.5%、「速い」48.5%
指し手――「早い」36.7%、「速い」63.3%

少子化については「早い」と「速い」がほぼ半々、指し手については「速い」が3分の2近くを占めて多数、という結果でした。

手を動かして指す様子が目に見える将棋の方は、動作について使われる場合が多い「速」がなじむと感じる人が多いものの、少子化の場合はそうした動きがないだけに、回答が割れたとみられます。「はやい」という言葉自体は日常的に使い慣れたものではありますが、書き分けるとなると悩む場合が少なくないことを示しています。

「速いペース」とする社が多数派

新聞社・通信社の用語集は各社とも「はやい・はやさ」について漢字の書き分け例を載せていますが、「ペースが速い」または「ペースを速める」という用例を載せている社が7社中5社ありました。これらの社は、「ペース」という言葉と「はやい」を組み合わせる場合、何の「ペース」かを問うことなしに「速い」を使うと取り決めているわけです。ちなみに毎日新聞は表記を定めていません。

「ペース」とは何か。「歩いたり走ったりなどする時の(一定の)速さ。また、(物事の)進みぐあい。『―を乱す』『自分の―を守る』」(岩波国語辞典8版)。日本語で言うと「歩度」に近い言葉ですが、比喩的に仕事などの「進みぐあい」にも使われるので、もう少し使い方の幅が広い。歩き方であれば、岩波が語の説明で言うように「速さ」を選ぶのが自然ですが、「進みぐあい」という場合にはそう簡単でもないという印象を持ちます。

「時間」と「スピード」で使い分けるとされるが…

文化審議会国語分科会の報告「『異字同訓』の漢字の使い分け例」は「はやい」の表記について

【早い・早まる・早める】時期や時刻が前である。時間が短い。予定よりも前になる。
【速い・速まる・速める】スピードがある・速度が上がる。

と説明します。要するに「早」は時間、「速」は動きの勢いについて使う――というのは明らかなのですが、それでも使い分けに迷うのはどうしたことでしょうか。

森田良行「基礎日本語辞典」(角川書店)は「はやい」の項目で、「動作面の『はやい』も、一定時間における仕事量(もしくは一定仕事量における所要時間)を問題とする」のだから、時間の前後や長短を問題とする場合と、本質的には同じであると言います。結局のところ、タイミングや持続時間に着目するか、物の動き自体に着目するかによって、表記も「早い」と「速い」のいずれになるか変わってくる、ということでしょう。迷うのも当たり前と言えそうです。

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物事をどう捉えるかを表記に反映させたい

将棋の指し手の場合にしても、校閲のツイッターに、「早指し将棋」と書く以上「早いペース」でよいのではないかという声が寄せられました。「早指し将棋」は持ち時間が短い将棋で、「早指しの棋士」といえば短い消費時間で指し進める棋士のこと。そうした例を見ると「早いペース」という書き方も無理ではないと思われます。

結論すれば、物事が(思ったより)早め早めに起こってくるという場合、「早いペース」を使うことも無理とは考えられません。新聞・通信社は「速いペース」を採用する社が多数派とはいえ、あえて統一する必要があるかは検討の余地があるのではないでしょうか。実際に文章を書く場合には、時間は「早」で動作は「速」、という原則は有効ですが、物事について「予想していたより前に、もう発生してしまった」と捉える場合には「早」、物事の勢いを印象づける場合には「速」――といった形で使い分けるのがよいのではないかと考えます。

(2020年08月04日)



質問に際して

「はやい」と読む漢字表記は、常用漢字表には「早い」「速い」の二つがあり、意味によって使い分けられます。毎日新聞用語集は「はやい・はやまる・はやめる」の項目で、「早」は「主として時間関係」に使うとし、「速」は「主として速度関係」に使うとしています。

例えば「早」は「出発時間が早まる」「早めに来る」「早い者勝ち」のように使い、「速」は「足が速い」「回転が速い」「スピードが速まる」のように使います。

少子化の進行にしても将棋の指し手にしても、速度が目立つものではありませんが、ペースの「はやさ」を感じることはあります。こういったものにはどちらの表記がなじむかという質問でした。

実は毎日新聞以外の多くの新聞・通信社は「ペースが速い」「ペースを速める」という用例を載せており、大勢は「速」にあると見えます。しかし、一律に「速」でよいのかは悩むこともあり、毎日新聞の過去記事では「はやいペース」の2割程度が「早」になっています。皆さんはどう感じるでしょうか。

(2020年07月16日)

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