「言い間違○」「取り違○」という形を名詞として用いる場合「い」「え」のいずれが入るかという質問は、「言い間違い」「取り違え」が多い結果となりました。この2語の使われ方の差には、一種の”気分”の違いが反映しているようです。

名詞として使う場合に「言い間違」「取り違」の後にくるのは「い」か「え」か。セットでお聞きしました。

「『言い間違い』と『取り違え』」が多数

「言い間違○」や「取り違○」が多い――○を埋めると、どうなりますか?
言い間違「え」、取り違「え」 5.8%
言い間違「い」、取り違「い」 18.8%
言い間違「い」、取り違「え」 67.6%
言い間違「え」、取り違「い」 7.8%

 

「言い間違い」と「取り違え」の組み合わせが最多で約3分の2となりました。これは使用実態からいってもおおむね納得できる結果です。毎日新聞の記事データベースで、名詞としての例に限定するため「言い間違○」「取り違○」に、「が」「で」「の」「に」「を」の助詞を付けて、ヒットする記事の件数を調べました。件数には若干重複を含みます。

言い間違え  12件

言い間違い  89件

取り違え   459件

取り違い   49件

「言い間違○」「取り違○」のそれぞれについて「言い間違い」「取り違え」がおよそ9割。今回のアンケートはそれより少なめですが、個別に「言い間違」「取り違」を問うたものではなくセットだったため、どちらかにひきずられて同じものを選んだ人もいて「言い間違い・取り違え」の数字を押し下げたかもしれません。

文法的に説明すると

文法的には次のように説明されます。

「言い間違い」は五段動詞「言い間違う」の連用形の名詞化

「言い間違え」は下二段活用動詞「言い間違える」の連用形の名詞化

「取り違い」は五段動詞「取り違う」の連用形の名詞化

「取り違え」は下二段活用動詞「取り違える」の連用形の名詞化

ここで動詞についてもう一度毎日新聞の記事データベースで調べると

言い間違う   5件

言い間違える   90件

取り違える  225件

取り違う    1件

となりました。つまり「取り違う」よりも「取り違える」の方が圧倒的に用いられるため名詞も「取り違え」が圧倒的に多いという図式が成り立つのに対し、「言い間違い」についてはそうなっていないことになります。

「あなたは間違っている」と言われると…

この違いって何でしょう。以下、多分に私見が入ります。

「違う」という動詞は自動詞ですが「違える」は他動詞です。だから「戦没者遺骨を取り違える」のように「~を」という目的語を伴って使われやすいことになります。というより、目的語を伴わない使い方が思い浮かびません。だからでしょう、辞書はほとんど「取り違う」を採らず「取り違える」を掲げています。そして、三省堂国語辞典7版は「取り違える」の名詞形として「取り違え」も付記しています。

「間違う」については複雑です。「間違う」は本来自動詞、「間違える」は他動詞です。例えば「あなたは間違えている」「あなたは間違っている」の違いを考えてみます。前者は「間違える」の、後者は「間違う」の連用形です。「あなたは間違えている」と言われると「何を?」と聞けばすむでしょうが、「あなたは間違っている」だと「あなた」そのものが全否定されたような衝撃を受けるのではないでしょうか。だから普通は「~を間違えている」のように言うのが穏当です。

「動詞の気分」が抜けない名詞

しかし、だからといって名詞形が「間違え」になるとは限らない、というか、「間違い」しか使われないのが実態でしょう(方言として「い」「え」の区別ができず「間違え」となる場合は除いて)。思うに、「間違い」は動詞の名詞化という出自から離れて独立した名詞としての地位を確立しているために、「間違え」とはならないのではないでしょうか。

それに対し「取り違え」は名詞になっても動詞の「気分」が抜けない。だから他動詞の名詞化として「取り違い」ではなく「取り違え」が選ばれるのかもしれません。そして「言い間違い」は「言い」が動詞としての「気分」を少し呼び起こすものの「間違い」の名詞としての地位に押されて「言い間違い」とすることが多くなると思われます。

ただ、動詞としての「気分」は時ににじみ出るのか、名詞であるべきところが「言い間違え」となるケースも散見されます。例えば下の写真のような見出しが毎日新聞ニュースサイトに載りました。

毎日新聞ニュースサイトから

 

読者の指摘を受け、「言い間違え」を「言い間違い」に直しました。ご指摘くださった方にこの場を借りて感謝いたします。

(2020年07月28日)



質問に際して

名詞として「間違」の後に仮名を付ける問題が出たら、多くの人は「い」と答えるのではないでしょうか。しかし「間違え」という名詞は間違いとはいえません。三省堂国語辞典(7版)には「間違える」の名詞形として「間違え」が記されています。もっとも単独で「間違えが多い」と使われる例が多いとはいえません。

同辞典ではそれとは別に「間違い」を立項し、「見―・聞き―・言い―・読み―・計算―」の例を挙げています。「違い」の項にも「聞き―」の例があり。それに倣えば「言い間違い」「取り違い」が正しいことになると思われます。

ただし、特に「取り違え」は「遺骨取り違え」「赤ちゃん取り違え」など実際に使われている名詞の例が多く見られます。皆さんはどうお使いでしょうか。

(2020年07月09日)

フォローすると最新情報が届きます

Twitter