宇宙のある場所を「地点」と呼ぶことをどう感じるかは、回答が三つに割れました。最多は「比喩なので問題ない」で4割程度。違和感が「ある」対「ない」の比率は3対7で、多くの人にとってはさほど違和感は感じられなかったようです。

宇宙空間について「地点」という言葉を使うことをどう感じるか伺いました。

回答は三つに割れる

国際宇宙ステーション(ISS)への貨物船が、ISSから15キロの「地点」まで接近――この言い方、どうですか?
違和感がある 31.5%
比喩なので問題ない 40.3%
そもそも何の問題もない 28.1%

 

大きな差はつかず、回答は三つに割れました。最も多かったのは「比喩なので問題ない」との回答で4割程度。「違和感がある」「何の問題もない」はいずれも3割前後でした。ただし、違和感が「ある」か「ない」かで比べるとその比率は3対7で、多くの人にとっては受け入れられる表現であると言えるでしょう。

「地点」は地上か――辞書もまちまち

出題時にも触れましたが、「地点」については「ある場所。ある位置」(大辞林4版)のように広い意味を認めている国語辞典もある一方で、「地球上の、特定の場所」(新明解国語辞典7版)、「ある地上の場所。位置」(集英社国語辞典3版)のように地上に限定する辞書もあります。

しかし、最も多かった回答のように「比喩表現」と受け取ることもできます。宇宙に関する表現は比喩が使われることも多く、「宇宙船」や「宇宙ステーション」も、元々は地上で使われるものに由来する呼び方です。多くの人にとっては「地点」を含んでいても違和感なく読める文であったといえます。

入社3カ月の頃の出題者も、指摘されるまで全く疑問を持たずに読んでいました。今なら普通に読んでいてもセンサーが働くのか?というと、残念ながらそんなことはありません。出題者だけかもしれませんが、こういった小さな違和感を拾うためには、よく知っていると思う単語も一字一字分解して読む過程が必要になります。

「上空」はどこまで広がる?

例えば「ISSは日本のはるか上空を通過し・・・・・・」という一文。「上空」を分解すると「上」と「空」になります。ISSは高度400キロあたりを飛行しています。JAXAによると、「どこからが宇宙という境は実はない」とした上で「一般的には100キロ先からは宇宙」としています(空と宇宙の境目はどこですか?)。

ではISSがあるところは「空」ではないのでは?と若干引っかかりを覚えるかもしれません。しかし明鏡国語辞典(2版)によると「上空」は「空の上の方。また、ある地点の上方の空」とあるので、宇宙が「空」の「上」にあるものと捉えれば理屈はつきます。

ちなみに「空」について、広辞苑(7版)には「地上に広がる空間。地上から見上げる所」との語釈がありました。そもそも月や星の光は宇宙から届くものですが、私たちは「空に浮かぶ月」「夜空にまたたく星」などと、空の一部としても捉えています。同様にISSも、地球から肉眼で観測することができます。私たちの目が届く範囲はすべて「空」と捉えることもできるでしょう。

「知っているつもり」が要注意

この例のように、検討を加えてみても問題なく使用できることのほうが多いです。しかし、「知っている」と思う言葉ほどその意味を深く考えたことはないもの。辞書を引けば「正解」が載っているというわけではありませんが、それぞれの辞書の個性が言葉を知るための多面的な切り口を与えてくれます。意外なところに潜んでいるおかしな用法を見逃さないためにも、「知っているつもり」の言葉に注目することは、どれほど経験を積んでも必要な心構えだといえます。

(2020年06月12日)



質問に際して

「地点」とは「地上のある一定の場所」(広辞苑7版)。ISSは我々のいる地表から400キロの上方にある施設です。つまりISSから15キロという場所は、地球寄りに貨物船があるとしても高度385キロ。どう考えても「地上=地面の上」ではありません。

今回の質問のくだりは、出題者が入社3カ月の頃に実際に見かけた例です。当時は違和感もなくスルーしたのですが、上司から「位置」とする直しが入りました。

ただし、「地点」の説明として「ある場所。ある位置」(大辞林)のように、もっと広い意味を認めている辞書もあり、「地点」ではダメなのかとなると、読者の皆さんの受け止め方次第というところもあります。

単語を構成している文字をひとつひとつ見ると違和感がある場合でも、実際の使い方としては問題のないこともあります。とはいえ校閲記者としては、見慣れた言葉だからと知っているつもりになって読み飛ばすと、変な用法を見落とすことにもなりがちです。「地点」もそんな言葉かもしれませんが、皆さんはどう感じるでしょうか。

(2020年05月25日)

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