「イチオシ」を漢字交じりで書くならどうするか――「オシ」については「推し」が6割で「押し」が4割と差が付きました。マスメディアは主に「一押し」「イチ押し」を使うようですが、「一推し」「イチ推し」も自然な表記と言えます。

「イチオシ」の漢字表記について伺いました。

「推」が「押」を上回る

一番おすすめ!という意味の「イチオシ」。あえて漢字を交えて書くなら?
一押し 20.6%
一推し 29.4%
イチ押し 18.3%
イチ推し 31.7%

 

「イチオシ」の「イチ」は漢字と片仮名で真っ二つに分かれましたが、「オシ」については差が付きました。「推し」が6割で「押し」が4割。推薦するという「推し」の方が、プッシュするという「押し」よりも支持を集めています。最近は「推し」という言葉が使われることも多く、イチオシの表記にも影響を与えているかもしれません。

辞書は両方を載せるものが多数派

国語辞典で「いちおし」を引いてみたところ、見出し語として採録していた11点のうち、「一推し・一押し」(順不同)と両方の表記を載せているものが6点、「一押し」のみが4点、「一推し」のみが1点でした。「押し」の方がやや分が良いですが、どちらも使われているという判断が大勢のようです。

しかし「一押し」のみを挙げている4点の辞書も、説明を見ると考えてしまいます。

・第一番に推薦するだけの価値あるもの(新潮現代国語辞典2版)
・最も推奨すること。一番のお勧め(大辞泉2版)
・最も推薦できるもの。そうすること(岩波国語辞典8版)
・まず第一に推薦・推奨すべきものであること。また、そのもの(明鏡国語辞典2版)

お気づきの通り、どの説明にも「推薦」「推奨」として「推」の字が出てくる一方で「押」は出てこないのです。

本欄ではおなじみ、円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)は、「おす」と訓読みする字の使い分けに当たって「《押》と《推》では、意味がかなり異なる。迷いそうになったら、『推薦』『推測』『推進』のどれかに置き換えられるかどうかを考えれば、判断が付く」と説明します。要するに「推薦」の意味であれば「推す」を使うのが普通だということです。

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これに従うと「一押し」の表記を採りながら「推薦」の言葉を使った説明にはちょっともモヤモヤします。「前面に押し出し、人に薦めたいもの」のような説明がほしいところです。あるいは「推薦」を使うなら、表記に「一推し」を加えても差し支えなかったのではないでしょうか。

新聞では「押」が多いが…

もっとも、日本新聞協会の用語に関する集まりでも「意味としては『推』だろうが『押』がなじんでしまったのでは」という意見が出ており、メディアにおいて「一推し」があまり使われていないことが分かります。

毎日新聞でも、記事データベースで検索すると「一推し」「イチ推し」に比べて「一押し」「イチ押し」の方が多く見つかるのは確かです。「一押し」は「ひとおし」と読むものが多いので数字の上ではっきりしたことが分からないのですが、「イチ押し」と「イチ推し」は1987年以降でそれぞれ78件と6件(東京本社版、地域面除く)。明らかな差があります。

両方可能、「一推し」も自然な表記

しかし今回のアンケートの結果では「推し」を使う人が「押し」を上回りました。これはやはり、意味を考えれば「推薦」なので「推し」を使う方が合理的だと考える人が多いということでしょう。

また近年になって「推し」が単独で使われることも影響していると考えます。「推し」を載せている辞書は2点(大辞林4版、現代新国語辞典6版)のみで、説明も「推すこと。人に推奨すること」(現代新6版)ですが、すでに推奨の対象として使われることも多く、「最も推薦できるもの」という「イチオシ」の辞書的説明とも重なります。

結論を言えば、「イチオシ」の漢字表記で「推」を使うのも多くの人に選ばれる自然な書き方であり、メディアで「押」が多く使われているとしても、それが「推」を使うのを妨げる理由にはならない、ということになるでしょう。いずれの表記も「あり」なので、雰囲気やニュアンスによって使い分けるのもよいかもしれません。

ところでこれは無駄口ですが、国語辞典が「推しが尊い」という用例を載せる日は来るものでしょうか。もし載るとしたらどんな説明が付くのかが気になるところです。

(2020年06月02日)



質問に際して

「漢字で書けば『一押し』か『一推し』か」――このくだりが毎日新聞に現れたのは1992年。当時は目新しい言葉だった「いちおし」が、映画の字幕に登場したのをめざとく見つけた記者が記しました。

それから28年。いまだに漢字表記は定まっていません。先日も、日本新聞協会加盟社の用語担当者の集まりで、この語の表記をどうしているか問う声が上がりました。

特に取り決めはしていない社が多く、毎日新聞もその例に漏れず。過去記事では「一押し」というものをたくさん見かけますが、その大部分は「ひとおし」と読むものです。「一推し」は意味の上からは推せるのですが、用例は少数で使用実態の点からは推しにくい。

とはいえ、最近は「推し」という言葉もよく使われます。「推すこと。特に、『応援していること』『ファンであること』をいう若者言葉。『T君―』『―メン(=応援しているメンバー)』」(大辞林4版)。一般には「推しメン」の意味で「推し」を使うことも多いようで、この場合は明確に「推し」と表記されます。であれば今は「一推し」ないし「イチ推し」が優位に立つかも? いかがなりますでしょうか。

(2020年05月14日)

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