「集団」という意味の「クラスター」に慣れたか否か、結果は真っ二つになりました。元々はブドウなどの「房」を意味し、何かが「集まったもの」として使われる言葉ですが、急速に「感染者集団」という意味に染め上げられてきました。

「クラスター」という言葉について伺いました。

「慣れない」人がなお半数

「クラスター」という言葉には慣れましたか?
以前から慣れている 23.1%
「集団」の意味として分かるし、慣れた 27.6%
「集団」の意味として分かるが、慣れない 34.4%
慣れないし、意味が分からない 14.9%

 

「慣れている」「慣れた」という人、「慣れない」という人で真っ二つになりました。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、急に目立つようになった「クラスター」という言葉ですが、違和感のある人は少なくないようです。

新型コロナ関連でも使い方が変化

しかしこの「クラスター」という言葉の使われ方は、今回のアンケートで質問した時期の前後でも使われ方が変わっており、単なる「集団」から、「クラスター」だけで「感染者集団」を意味するようになってしまいました。

政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が2月25日に出した感染症対策の基本方針では、クラスターは「集団」の意味として使われていました。

 

しかし3月28日に出た「感染症対策の基本的対処方針」では、「クラスター(患者間の関連が認められた集団)」という書きぶりに変わっています。

 

毎日新聞の過去記事を検索してみても、アンケートの質問をした3月30日以降、「クラスター」は大半が「感染者集団(感染者の集団、患者集団、感染集団)」の意味として使われています。流行初期は「感染者クラスター」のような書き方をしていた場面が、「クラスター」だけに置き換えられていったようです。

元々はブドウなどの「房」の意

クラスターはそもそも「花やブドウなどの房の意」(大辞泉2版)。転じて同種のものの集まりを指す言葉として使われます。

出題者が初めてこの言葉を見たのは、パソコンのハードディスクのデフラグをした際かもしれません。データの区画を複数まとめたものが「クラスタ」と呼ばれていることを知りました。

新聞でよく見るのは「クラスター爆弾」です。親爆弾の中に入れられた多数の子爆弾が、空中で飛び散ってばらまかれるもの。不発弾となった子爆弾が散乱したまま放置されて大きな問題になっていますが、これも子爆弾の「集団」であるためクラスターと呼ばれます。競馬のクラスターカップ(盛岡競馬場)は、多くの競馬場が連携してしのぎを削る様子を「星団」になぞらえての命名と言います。

折しも作曲家のクシシュトフ・ペンデレツキ氏が亡くなりましたが、氏は「トーンクラスター」と呼ばれる、和音というか、音の集合体を使うことで知られていました。これは例えばピアノであれば、ある音から別の音までの間にある鍵(けん)すべてを同時にたたくようなものです。オーケストラであれば各員が違う音を一斉に奏でることになり、記譜すると下の写真のように真っ黒に塗りつぶされる場合もあります。

クシシュトフ・ペンデレツキ「ヒロシマの犠牲者への哀歌」の譜面/芥川也寸志「音楽の基礎」(岩波新書、1971年)から

「感染者集団」の意味は残るか

こうしてみると「クラスタ-」自体はなじみのない言葉というほどではないのですが、感染者の集団を指して使われるのは意外というか、改めて知らない言葉と巡り合ったような印象を受けます。分かりづらさはあるものの、未曽有の事態に見慣れない用法が出てくること自体は理解できます。

しかし、校閲センターのツイッターには、「クラスター」ついて「集団」の意味としては見慣れているが、「感染集団」には慣れない、というコメントを寄せてくれた人もありました。回答から見られる解説では、大辞林の4版に「同種の傾向を持つ集団。グループ」という説明が載せられたことを紹介しましたが、コロナのせいで、何かのファンの集団などを指す語としては使いにくい言葉になったと考えられます。

新型コロナウイルス感染症の流行と、それを巡る騒動はいずれ落ち着くはずですが、その後「クラスター」という言葉はどうなるでしょうか。今回のことが記憶に深く刻まれるなら、国語辞典にも「感染者集団」という説明が載ることになるかもしれません。

(2020年04月17日)



質問に際して

新型コロナウイルス感染症に関連して「クラスター(集団)感染」という言い方をよく目にします。「クラスター」は、感染源を共有する感染者の集団を指して使われています。

ほかにも「ロックダウン」「オーバーシュート」とカタカナ用語が頻出する状況に、防衛相が注文を付けました。それぞれ「都市封鎖」「感染爆発」でよいではないか、と。「クラスター感染」は、単に「集団感染」でよいだろうとのこと。

もっともだと思う面もありますが、「クラスター」はしばらく前からよく見聞きする言葉になっていたなあ、とも感じます。SNSなどでは「クラスタ」という形で、特定のミュージシャンや作家、作品などを支持する集団について使われるようです。大辞林は2019年に出た4版で、「クラスター」の項目に「同種の傾向をもつ集団。グループ『政治―』」という説明を付け加えました。

辞書によると、元々はブドウなどの「房」を意味する言葉ですが、科学やコンピューター技術に関連した場面でも使われる語で、単に目新しい言葉ではないという印象も受けます。皆さんはどう受け止めるでしょうか。

(2020年03月30日)

 

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