「闘い」を選んだ人が6割と、はっきり差を付けて多数を占めました。「戦闘」という言葉があるように、「戦」と「闘」はほぼ同じ意味を持つ文字ですが、病原体を相手にする場合は「闘」がしっくりくる人が多いようです。

ウイルスを相手にした「たたかい」の表記について伺いました。

「闘い」が6割占める

新型コロナウイルスとの世界規模の「たたかい」。漢字はどちらがなじみますか?
戦い 24.5%
闘い 60.5%
どちらでもよい 14.9%

 

「闘い」を選んだ人が6割と、はっきり差を付けて多数を占めました。ウイルスとの「戦争」という表現が散見される新型コロナウイルスの世界的流行ですが、病気を相手にする場合はやはり「闘」がしっくりくるようです。

「戦争」なら「戦」、困難には「闘」

新聞社・通信社の用語集はそれぞれ異字同訓の言葉について使い分け例を載せています。2002年版までの毎日新聞用語集では「たたかう」の項目で「戦う」を「一般用語」とし、「闘う」を「闘争、規模の小さいたたかい」としていました。この書き方だと、世界的にまん延するウイルスとの「たたかい」は規模の大きさからいって、「戦い」を選ぶ方が良さそうに思えます。

しかし、用語集のその後の改訂で「たたかう」の記述にも変化が生まれました。現在使われている2019年版の用語集では

戦〔戦争・勝負・競技、競争相手と優劣を競う〕
闘〔闘争・格闘。利害・主張の対立で争う。困難などに打ち勝とうと努める〕

と、説明がより詳しくなっています。ウイルスとの「戦争」と考えれば「戦い」になりますが、ウイルス禍という困難に打ち勝つ「たたかい」と考えれば、「闘い」になっても差し支えなさそうです。

字義の差は小さい「戦」と「闘」

「たたかう」は「『たたく』を再活用した形で、うちあうこと、武器を執って戦うことをいう」(白川静「字訓)とされます。一方、漢字の「戦」は左側が盾の形、右側が戈(ほこ)の形。「左に盾を擁し、右に戈を執って戦うことを戦という」(同)。日本語の意味と字義がよく合っています。

一方、「闘」は新字体では「もんがまえ」に見えますが、元は「鬪」(その正字は鬭)と書く「たたかいがまえ」の文字です。「鬥」は「二人が手をあげて相手の髪をつかみ合って格闘する形」(同)で、「鬭」はそれに武器を加えて「盾と斧(おの)を以て戦う意である」(同)とのこと。要するに、漢字はいずれも武器でたたき合うことを意味するので字義の上からは「戦う」も「闘う」も同じように使えると言えます。

たたかっている“状態”に注目なら「闘」

辞書編集者の円満字二郎さんも「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)で、「『戦闘』という熟語があるように、この二つは意味が似ていて、どちらを使っても表す内容としてはたいした違いがないことが多い」と言います。ただし、そのうえで「ニュアンスにはかなりの差があり、文脈によっては、どちらかでないと落ち着かないこともある」とも。

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どう違うか。「《戦》は、“勝ち負けや優劣を決める”という意味合いが強く、争った“結果”がどうなったかに関心がある。一方、《闘》は(中略)どのように争っているのかという“状態”に対する意識が強い」と言います。たとえば「『たたかう』相手が目には見えない“苦しさ”である場合は、基本的に“状態”を問題にしているので、《闘》を書く方が落ち着く」など。ウイルスとの「たたかい」も具体的に殴り合ったりするものではなく、見えない相手にこちら側が一方的に頑張るべきものですから、「闘」の方がなじむと感じる人が多いのかもしれません。

どちらも可だが、おすすめは「闘」

もちろん、ウイルスとの「戦い」という表記もまったく間違ったものではありません。「戦争」と考え、戦略を駆使して打倒するというならば「戦い」がなじむ場面も大いにあり得ます。ただし、今回のアンケートの結果を踏まえると、一般的には「闘い」を使う方が、ウイルス相手の「たたかい」ではすんなり読んでもらえると考えられます。

(2020年04月10日)



質問に際して

病気との「たたかい」では通常は「闘」を使います。「闘病」と書くことを考えれば妥当でしょう。毎日新聞用語集にも「たたかう」の項目に「病魔との闘い」という用例が載っています。

しかし、病気そのものではなく、病気を引き起こす病原体が相手の場合はどうなるか。これも「闘い」でよい、とする考え方がまずあります。病原体に打ち勝つことは、結果的に病気との闘いを制することにもなるからです。

一方で、闘病のような言葉は個人の場合に使うものであって、世界的にはびこる病原体が相手では不似合いだとする考え方もありそうです。フランスのマクロン大統領や国連のグテレス事務総長が「ウイルスとの戦争」という表現をしています。マクロン氏は「guerre」、グテレス氏は「war」という言葉を使っているので、「戦争」という訳語で問題ないでしょう。

現在、紙面では「闘い」が出てくることが多いのですが、「闘」には用語集で「規模の小さいたたかい」という説明を入れている社もあり、「人類vsウイルス」の戦争と捉えるなら「戦い」がなじむと感じる人もあると思います。どちらを選ぶ人が多いでしょうか。

(2020年03月23日)

 

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