「期待がかかる」は「懸かる」「掛かる」「かかる」のどれを使うか。いずれも間違いではありませんが、「懸」と仮名書きがともに4割超でした。新聞・通信社では仮名書きを慣用と認めている社もあり、漢字にこだわる必要はなさそうです。

期待が「かかる」という場合の表記について伺いました。

「懸かる」と「かかる」が互角

五輪でメダルの期待が「かかる」種目――漢字で書くならどう書きますか?
掛かる 13.9%
懸かる 43.3%
かかる 42.8%

 

いずれの表記でも間違いにはなりませんが、漢字で書くならば「懸かる」とする人が「掛かる」を選んだ人の3倍あまりで、4割超を占めました。ただし、平仮名の「かかる」を選んだ人も「懸かる」と同じぐらいあり、漢字書きにこだわらない人も多いようです。

文化庁の問答集は「懸」を推奨

漢字を選んだ人の間では「懸」が優勢です。「懸」の元の形は「縣」で、行政単位の「県」の旧字体。「首を逆さにぶら下げる」ことを意味した文字でしたが、行政区分に使われるようになり、ぶら下げる意は「心」を付けて分離し「懸」になったとのこと。心にかけることや気がかりなことも指します。

文化庁の「言葉に関する問答集20」(1994年)は「『懸ける』と『架ける』と『掛ける』」の項目で、「懸」について「『心にかける』というような意味で、『かける』という語は、①願いや望みを託す。――期待を懸ける。願を懸ける。(中略)など、いろいろな意味で用いられるが、これらに対応する『かける』には、『懸』を使うことになるであろう」と言います。

なんだ、答えが出ているじゃないか、と思われるかもしれません。しかし、ここで「問答集」が挙げている例にしても、「願を懸ける」は名詞にすると「願掛け」と書かれるのが普通で、「かける」の書き方が安定しているとは言えません。「期待を懸ける」の評価についても留保が必要でしょう。

広く使える「掛」も可能

「掛」は「当たるも八卦(はっけ)」の「卦」に手偏が付いたもの。すなわち「掛は筮竹(ぜいちく)を指に掛けて別(わ)ける意である」(白川静「字統」)と言います。「掛かる/掛ける」という表記は、物を何かに引っかける場合など広く一般的に使われ、毎日新聞用語集は「かかる・かける」の使い分けに当たって「掛」を「一般用語」としています。

広く使えるなら「期待が掛かる」でもよいだろう――そう考えることはもちろん可能です。明鏡国語辞典(2版)は「かける」の項目の表記を「掛ける(懸ける・架ける・賭ける)」としており、一般的には「掛」が使えると示唆しつつ、個別の意味について違う表記を使う場合もあるといいます。「『願い[願]を―』『期待[希望]を―』などの形」の表記は「『懸ける』とも」としていますが、それは同時に「掛ける」でも構わないということです。

平仮名「かかる」も有力

漢字での書き分けは、どちらの表記も可能だが、いずれも決め手に欠けるという印象を受けます。それならば仮名書きの方が誰にも受け入れやすいという考え方もあるでしょう。

新聞・通信社の用語集の中で「かかる/かける」の項目に「期待が~」とする用例を挙げているのは2点。そのいずれもが「慣用」を理由として「期待がかかる」と仮名書きにすることを定めています。

明鏡国語辞典は、先ほど引いた「かける」とは別に、「かかる」の項目の一節では「迷惑や負担など、好ましくないことが身に及ぶ。また他が抱いた情念の影響などが身に及ぶ。『他人に迷惑が―』『何かと世話の―人だ』『優勝[謀反]の期待[疑い]が―』」という説明および用例を挙げています。「情念の影響」とは何だかすごい。

表記については「『掛』は広く一般に使うが、かな書きも多く(中略)、実質的な意味が薄れたものは積極的にかな書きにされる」と言います。こちらでは「かける」の時と違い、「期待」には「懸かる」を使うとしないのですが、「掛」よりは平仮名が通用していると考えているようです。

「懸」か仮名書きがおすすめ

結局のところ、いずれの表記も誤りではないとは最初に断った通りですが、やはり決め手になる要素はないようです。しかし、アンケートの結果が「かかる」と「懸かる」を推しているというのは当てにしてよい事実であろうと考えます。多くの人に受け入れやすい書き方として、「期待」のような言葉については「懸かる/懸ける」「かかる/かける」のいずれかを使うことをおすすめします。

(2020年03月17日)



質問に際して

「かかる/かける」の表記に関する質問です。これは同訓異字の使い分けが多い言葉の一つで、毎日新聞用語集は「掛かる・懸かる・架かる」の使い分けを載せていますが、ほかに「係る」や「罹る」が問題になる場合もありますし、「かける」では「賭ける」も使い分けの対象になり得ます。

とはいえ、質問のようなケースで使い分けに迷うのは「掛」と「懸」の二つではないでしょうか。毎日新聞の用語集は、残念ながら「期待がかかる/~をかける」という用例を挙げていません。「思いを懸ける」という例が、何かに思いを託すという意味で、それに近いでしょうか。一方で「疑いが掛かる」のような例も載せており、他者から何かをかぶせられるような意味合いでは「掛かる」もあり得るのかと思わせます。

これから東京五輪に向け、質問のような言い回しは頻々と登場しそうです。ここで皆さんの意見を伺って、表記についての考え方を固めておきたいところです。

(2020年02月27日)

 

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