「カツを入れる」はどんな意味で、どう書くか。「叱責」の意味で「喝を入れる」を使う人が、「使い分ける」を選んだ人も含め4分の3に上りました。新聞として使用をお勧めはできませんが、この意味、この形はかなり浸透しているようです。

「カツを入れる」という言い回しの意味と書き方について伺いました。

4分の3の人が「叱責」の意でも使用

人や組織に「カツを入れる」。どんな意味で、どう書きますか?
元気づけの意味で「活」とする 27%
叱責の意味で「喝」とする 43.4%
上の二つを使い分ける 29.5%

 

「叱責」の方が「元気づけ」より多くなるかもしれないと思っていましたが、その点は予想を外れませんでした。「使い分ける」も含めると叱責の意味で「喝を入れる」を使うという人は4分の3に上り、この意味、この形での用法はかなり浸透しているようです。

困ったなあと思うのは、「使い分ける」という人も「元気づけ」を若干ながら上回っていることです。「活を入れる」という言い回しを知っているのに「喝を入れる」も使うということですから、もはや別の用法として自立しようとしているかに見えます。

元々は「活」のみだったが…

「喝」は「禅宗で、誤った考えや迷いをしかり、また励ますときに発する大きな語」(明鏡国語辞典2版)。「語」は声のことか。なお注記して「『喝を入れる』は誤り」としています。「活」の項目中でも念を入れて「『喝を入れる』は誤り」としています。他の国語辞典の扱いも同様で、「喝を入れる」を載せている辞書は確認できませんでした。

毎日新聞用語集では「用字用語」の欄で「活〔生きる、元気づける〕」「喝〔叱る、怒鳴る〕」と意味の違いを示し、それぞれ「活を入れる」「喝を食らわす」といった用法を挙げています。また「誤りやすい表現・慣用語句」の中では「喝を入れる→活を入れる、一喝する」と直すように案内しています。辞書と同様、「喝を入れる」を許容する根拠はないという判断でしょう。

実際、インターネット上の図書館、青空文庫で「喝を入れる」をフレーズ検索しても(活用形を考慮して「喝を入れ」で検索)、一件もヒットせず。同様に検索した「活を入れる」では20件ほどが該当します。明治末から昭和18(1943)年までの新聞記事を検索できる神戸大学付属図書館のデジタル新聞記事文庫を見ても、「活を入れ」が119件ヒットする一方で、「喝を入れ」はゼロ。やはり元々は「活を入れる」のみが使われており、「喝を入れる」という言い回しはなかったと考えられます。

「喝」許容は時間の問題か

国語辞典編集者の神永暁さんが、ジャパンナレッジのコラム「日本語、どうでしょう?」で「『カツを入れる』の『カツ』って何?」としてこの話題を取り上げています。神永さんは「『活』と『喝』、同じ読みでもあるし、禅僧が『カツ!』と言っている姿が頭に浮かんでしまうと、つい『喝を入れる』と書いてしまう気持ちも分からないではない」としつつも、「誤用としか言い様がないのである」と嘆じています。

神永さんは「微妙におかしな日本語」(草思社、2018年)で、定型から外れた言い回しにも比較的寛容な立場を取っていたという印象を受けましたが、それでも「喝を入れる」は許容し難いようです。一方で、「ただし、『喝を入れる』だと思う人が増えてくると、将来これも認められる可能性は否定できない。そのとき、国語辞典としてどうするかが問題なのである」とも述べています。今後どうなるかは使用の実態次第ということになるでしょう。

今回のアンケートの結果から見ても、叱責の意味の「喝を入れる」を使うという人がこれほど存在する以上、誤りだからダメ、と言って済む話でもなくなってきたようです。「喝を入れる」を新聞などがすすんで使用するとは現時点では考えられませんし、使用をお勧めもできません。しかし、今のような形で一般に使われ続けるなら、国語辞典の記述も変わるときが来るはずです。そのときには新聞も改めて判断を迫られることになるでしょう。

(2020年01月31日)



質問に際して

国語辞典に載っている用法は「活を入れる」。気を失った人の息を吹き返させること、転じて人を元気づけることの意味で用いられます。

「喝」は大声の意。「喝を入れる」は上述の「活を……」との混用と考えられ、毎日新聞用語集では「活を入れる」「一喝する」のいずれかへの書き換えを促しています。刺激を与えて元気づけるという意味ならば「活を入れる」、大声で叱りつける意味なら「一喝する」と書くように、という趣旨です。

ただし、以前の毎日新聞の記事で元プロ野球選手の張本勲さんが「うっかりミスには『喝』を入れるようにしています」と語っていたように、テレビ番組の影響もあってか「喝を入れる」という言い回しも浸透しているようです。責の意なら「入れる」と言わずに「『喝』を食らわす」とかにしてくれればなあ、とは思うのですが、これは校閲記者の勝手な希望かもしれません。

「毎日ことば」を見ている皆さんは「活を入れる」が規範的な用法だと知っているかもしれませんが、案外「使い分ける」という人が出てくるのではないかとも心配しております。

(2020年01月13日)

 

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