イチゴのようにあまりかたくないものの「かたさ」をどう書くかは、「固さ」と「硬さ」が均衡しました。どちらも誤りではありませんが、かたすぎる場合には「硬さ」、ほどよいかたさには「固さ」とするのが、よりふさわしいと考えられます。

イチゴのような、あまりかたくないものの「かたさ」をどう書くか伺いました。

「固さ」と「硬さ」が僅差

ほどよい「かたさ」のイチゴという場合、どう書きますか?
固さ 38.2%
堅さ 6%
硬さ 35.6%
かたさ 20.2%

 

回答が最も多かったのは4割弱の「固さ」でしたが、「硬さ」も僅差で続いています。出題者もこの二つのどちらがよいかで迷いました。いずれかが誤りというものではありませんが、よりよいのはどちらか。アンケートでは顕著な差はつかず、支持が多いものを選べばよい、というわけにはいかないようです。

「かたい物」の書き分け方

「かたい」の使い分けについて、文化審議会国語分科会が示した「『異字同訓』の漢字の使い分け例」(2014年)は以下のように示しています。

【堅い】中身が詰まっていて強い。確かである。
堅い材木。堅い守り。手堅い商売。合格は堅い。口が堅い。堅苦しい。
【固い】結びつきが強い。揺るがない。
団結が固い。固い友情。固い決意。固く信じる。頭が硬い。
【硬い】(←→軟らかい)。外力に強い。こわばっている。
硬い石。固い殻を割る。硬い表現。表情が硬い。選手が緊張で硬くなっている。

それぞれについて「中身が詰まっていて強い」「結びつきが強い」「外力に強い」とニュアンスの違いを説明しています。しかし、これらは「かたい物」の書き分けについて示唆を与えてくれるのですが、「あまりかたくない物」をどう書き分けるかについてはもう少し別の切り口がほしいところです。

対義語から考える

文化庁の「言葉に関する問答集10」(1984年)は「『硬い』と『堅い』と『固い』の使い分け」という項目で、この話題を取り上げています。要約して引くと

・「硬い」は「力を加えても形が変わらない」状態を表し、その反対は「やわらかい(軟)」
・「堅い」は「中が詰まって砕けにくい」状態を表し、反対は「もろい」
・「固い」は「全体が強くて形が変わらない」状態を表し、反対は「ゆるい」

とのこと。それぞれに対義語を挙げて、用法をより具体的に考えさせてくれます。

イチゴの場合、対義語で言うと「やわらかいイチゴ」は考えられても「もろいイチゴ」や「ゆるいイチゴ」はなさそうなので、やはり「硬いイチゴ」がよいだろうかと感じます。ただし上の説明では、「硬いイチゴ」と書いた場合にはちょっと歯が立たないかと思わせるような、食べごろと言うにはほど遠いイチゴという印象を受けます。

一般性があるのは「固」という見解

円満字二郎さんの「漢字の使い分けときあかし辞典」では「かたい」の使い分けについて「最も一般性があるのは《固》である」としており、「広く用いることができ、どのような場合に使っても、ほとんどは間違いにはならない」と言います。一方で「硬」については「変化すべきであるのに変化できない」という意味にも使われると言い、食べ物が「かたい」場合について次のように説明します。

ちょっと悩ましいのは、食べ物のゆで加減や焼き加減で使われる「かたい」。基本的には《固》を使っておけばよいが、“やわらかくなるべきなのに変化できない”で「かたい」ままである場合には、“硬”を使うとより雰囲気が出る。

イチゴの場合は調理をするわけではありませんが、食用にあたってはほどよく熟して「やわらかくなるべき」ものですから、それが「かたい」ままである場合に「硬」を使うのは納得できる用法と考えられます。

一方で、今回の質問文に挙げたような「ほどよい『かたさ』」という場合には、「やわらかくなるべき」程度のかたさに達しているので、「硬」以外の字がよりふさわしいと考えられます。この場合には最も一般的という「固」を使うのが、より共感を得られる書き方と言えそうです。

ほどよい場合は「固」、かた過ぎには「硬」

アンケートの結果は「固さ」と「硬さ」が均衡しましたが、どちらを使っても間違いではないというのは改めて強調したいところです。その上で、よりその場にふさわしい表記を求めるなら、ほどよいかたさの場合は「固」、かた過ぎる場合には「硬」を使うのがよいと考えます。

(2020年01月24日)



質問に際して

先日は「やわらかい肉」について伺いましたが、今度は「かたさ」について伺います。

イチゴ農家を取材した記事中、「ほどよい固さと甘みが特徴」というイチゴの説明を見て考えてしまいました。毎日新聞用語集は「かたい」という言葉について「固」「堅」「硬」の三つの使い分けを案内していますが、物体がどれくらいかたいか(硬度)について言う場合、「硬い」を使うのが普通です。

しかしイチゴの場合に「硬」を使うと、何だか未熟でおいしくない実のように感じてしまいます。「ほどよい硬さ」とあれば意味は通るかもしれませんが、印象はあまり良くなさそうです。

それならまだ「固さ」の方がよいでしょうか。毎日新聞は「固」の字の意味を「確固、固形」と説明しています。崩れたりしない、しっかりした実という印象を持ってもらえるかもしれません。あるいは「堅」の方が、という人もいるでしょうか。共同通信の用語集は「堅」の字を「中身が詰まっていて強い」と説明しており、イチゴの場合にも当てはまるという考え方もあり得ます。

イチゴのように本来それほど硬くはないものにも「かたさ」というものはあるわけで、それをどう表現するか。訓読みの語に漢字を当てはめるのはつくづく難しいと思います。

(2020年01月06日)

 

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