「柔らかい肉」と「軟らかい肉」ではどちらがよりおいしそうに感じるか。結果は「柔」が8割近くと圧倒的支持を集めました。「柔」と「軟」は使い分けに悩むことも多い文字ですが、個人の好みで「柔軟」に使い分けてよい場面もあるようです。

「柔らかい肉」と「軟らかい肉」、どちらがおいしそうに感じるか伺いました。

8割近くが「柔」を選ぶ

「柔らかい肉」と「軟らかい肉」。印象は変わりますか?
「柔」の方がおいしそう 77.5%
「軟」の方がおいしそう 15.2%
特に差は感じない 7.3%

 

「柔らかい肉」が8割近くと圧倒的支持を集めました。「軟」を「柔」に直したくなる用語懇談会メンバーの感覚は一般的であるようです。

調理の前後で使い分けるケース

共同通信社のハンドブックには、「柔」「軟」の使い分けについて次のような注がついています。

食べ物は調理前の素材(肉や果実など)自体の性質は『柔』、調理の結果は『軟』だが、どちらかはっきりしない場合も多いので、平仮名書きでよい

なるほど、一つには「調理前=柔、調理後=軟」という使い分けがあり得るようです。回答時の解説で触れたように、毎日新聞用語集では「柔らかい皮・茎・果物・布地・葉・実・芽」との例を挙げており、類推すれば「素材のやわらかさ」は「柔」で表すと考えられそうです。しかし、調理した肉を「軟」で表す以上「おいしくなさそう」という悩みは解決できません。そこで「平仮名書きでよい」という指針に従うのも一つの手でしょう。

「書き手の好み」次第という見方

「柔」「軟」は、食べ物に限らず使い分けの難しい漢字です。文化庁「言葉に関する問答集8」(1982年)によると、「『柔』は『しなやか』『おだやか』、『軟』は『ぐんにゃり』『手ごたえがない』という意味であるが、『柔軟』という語もあるように、『柔』と『軟』とは、意味上極めて近い関係にあると考えられる」。

用例を見ると「柔」の方が数が多く、また「軟」を使っている場合でもほとんどの場合「柔」に置き換えが可能であるとのこと。そのため「問答集」は「『柔』の方が代表的表記であり、しかも使用範囲が広い」とした上で、どちらでも通用する場合に「『柔』と『軟』のどちらを使うかは、ある程度、書き手の好みによるようである」「どちらを書くか迷う場合には、『柔』(または仮名書き)を使う方が無難であろう」と結論づけています。

円満字二郎「漢字の使い分けときあかし辞典」(研究社)では、「柔」は「広く“弾力がある”という意味」で、「軟」は「“一定の形を持たない”ことを表す」と整理します。そのため「『軟らかい肉を食べる』のように《軟》を使うと、“崩れやすい”という意味だが、“弾力がある”場合には、《柔》を使って『柔らかい肉を食べる』」――と使い分けることになります。

しかし「問答集」と同様、「柔」「軟」の意味は厳密に区分できるものではないので「迷ったら、どちらか好きな方を書くか、かな書きにしておくのが、おすすめ」だそうです。

食の雑誌には「しっとり柔らか」な肉も

3パターンの解説を見てみましたが決定打はありません。「調理後であること」に重きを置いて「軟」、「意味の広さ」を重視して「柔」、無難に平仮名……など、いろいろな考え方があり得ます。

「おいしくなさそうに見える」と言われた「軟らかい肉」も、筋が多くてかみ切れないような硬い肉に対する表現であれば、必ずしもマイナス評価とは限りません。それでも今回のアンケートで「柔」が強かったことからすると、皆さんが求めているのは「しなやか」で「弾力がある」肉だ、ということなのかもしれません。

「dancyu」2020年2月号を見ると、「厚切り豚肉の生姜焼」に「日本酒をたっぷり使って、しっとり柔らか」との見出しがついていました。「とんかつのようにカットされた一切れを口にすると、しっとりと柔らかい」とのこと。全力でおいしく見せようとする食の雑誌も「柔」を選んでいました。

「柔軟」に使い分けてよさそう

というわけで、「剛に対しては柔」「硬に対しては軟」の原則はあるとしても、好みも踏まえて「柔軟」に使い分けていいのではないでしょうか。アンケート結果の通り「柔の方がおいしそうに見えるからこちら」ぐらいの緩いスタンスでよかろうと思われます。

(2019年01月14日)



質問に際して

今秋の日本新聞協会の関西地区新聞用語懇談会で、おいしい肉の形容に「軟らか」という表記があれば「柔らか」「やわらか」などに直すか、というアンケートをしました。食べ物について「軟らかい」という表記ではおいしくなさそうに見えるという意見があるためです。

結果は「直す」6社、「直さない」8社、「場合による」3社と割れました。「直さない」とした社でも、理由は「用語集で規定しているから」というものが多く、積極的に「軟」を使いたくはないという意見も。確かに「軟」にはぐにゃりとしたイメージ、「柔」にはしなやかなイメージを持つことが多そうで、「軟」はおいしくなさそう、「柔」のほうが良い、というのも分かります。

毎日新聞用語集では「柔」は「剛の対語」で、「柔らかい皮・茎・果物・布地・葉・実・芽」との例を挙げています。対して「軟」は「硬の対語」で、「大根を軟らかく煮る」という例があります。この規定からすると、普通「肉が硬い」と書く以上「肉が軟らかい」とするのが基本になります。

平仮名で書くなどの対応をしている社もあるそうです。このアンケートで「軟らかい肉」の評判があまりに悪ければ、我々も考えた方がよいのかも……。

(2019年12月23日)

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