2019年後半に脚光?を浴びたシュレッダーでの「さいだん」は「裁断」か「細断」か。春に改訂した用語集に使い分けを明記していたため、迷わずにすみました。仕事や生活で迷ったり気になったりした言葉をもとにしている「#ことばの質問」の一年を振り返る後編です。

2019年のアンケートを振り返る後半です。

「職場的に」話題になった使い分け

校閲センターとして2019年の大きな出来事は、毎日新聞用語集が改訂されたことでした。

「からあげ」

みんな大好きな鶏の「からあげ」。漢字交じりだとどう書きますか?
唐揚げ 79.4%
空揚げ 3.7%
から揚げ 17%

 

改訂で「からあげ」の表記を「空揚げ」から「唐揚げ」に変更したのを機に、皆さんがどの表記を使うか伺いました。結果は上記の通りで「唐揚げ」が圧倒的です。「空」には違和感があるとしてもなぜ「唐」になるかは今ひとつはっきりしないのですが、理由はともかくとして現に使われている表記が力を持つという好例と言えます。

 

「身につける」「立ち上げる」

今回の用語集の改訂では「知識を身に着ける」を「身に付ける」に変更したり(衣服の場合は「身に着ける」のまま)、パソコン以外での「立ち上げる」の使用を許容したりと、以前にアンケートで伺ったような内容に即した変更もありました。

 

「裁断」と「細断」

そういえば19年後半の話題の一つは首相主催の「桜を見る会」でしたが、中でも特に脚光を浴びたのがシュレッダー。名簿がシュレッダーによって「さいだん」されたという場合はどう表記しますか? 実はこれについても、今回の改訂で新たに「裁断」と「細断」の使い分けが示され「機密文書を細断する、細断機<シュレッダー>」という用例が載りました。

お陰で内閣府がやったことについても迷わず「細断」の表記を選ぶことができ、なかなかタイムリーな改訂だったと言えるかもしれません。

毎日新聞用語集(2019)

聞いてみたいものの聞けずにいること

アンケートの題材は、大抵は仕事中や普段の生活で使い方に迷った言葉や気になった言葉を控えておき、後でその中から解説を付けるまで話を膨らませることができそうなものを選んで使用しています。ネタとして取り上げようかと思っても、選択肢や解説の書き方がつかめず塩漬けになっているものもあります。

縦書きの「.」

たとえば縦書きのドット「.」をどう処理すべきかという問題。どうするのが一番違和感を持たれないのか伺ってみたいとは思うのですが、今ひとつ質問として作りづらい。選択肢としては中黒「・」に変えるとか、いっそ省略するとか。あるいは文字の右下あたりにそれっぽく置いてみるなど。ウェブサイトのURLなどは縦書きの記事でもその部分を横倒しにするので問題になりませんが、19年にできた参院の野党統一会派は「立憲民主・国民.新緑風会・社民」というお名前で、中黒「・」とドット「.」を使い分けている! 厄介な名前を付けたものだと思います。

毎日新聞2019年10月16日朝刊

亡くなった著名人の敬称

亡くなった著名人にはいつまで敬称を付ければよいかというのも、質問してみたいと思いつつ二の足を踏んでいます。共同通信の用語集には「敬称を付けない場合」として「歴史上の人物(歴史上の人物として定着したかどうかは没後30年をめどとする)」という項目があります。おそらくこれが各社の中で唯一、年数の基準を示しているものなのですが、共同通信もそれでよいのかちょっと迷いがある様子。しかし質問するにしても選択肢をどうしたらよいか。現在、アンケートで選択肢は四つまでと自主規制しているのですが、それでは足りない感じがします。「ずっと必要」「すぐに不要」という人もいるでしょうし。個人的には偉い人ほど「すぐに不要」になるだろうと思っていますが、そうなると「人による」という選択肢も必要になりそうですし。

共同通信社記者ハンドブック(13版)

複数の読み方

言葉の読み方などは“正解”があるものが多いので、かえって聞くことが少ない面はあります。実務の問題として、例えば「施策」が「しさく」「せさく」のどちらで読まれたとしても新聞には影響がないということも、質問する意欲をそいでいるのかも。「憧憬」や「口腔」のように、常用漢字表にない文字を含んでおりルビが必要なものは聞いてみてもよいのかもしれませんが、どうでしょうか。

今後も「手探り」の形をお届けします

ところで校閲記者は言葉のプロであるかのように言われることもありますが、個人的には「そうかしら?」という思いも抜きがたく存在します。もちろん、職業(プロフェッション)として言葉に関わっているのは確かなので、プロでなければならない面はあるのですが……。一方で、素人が手探りしながら「ああでもない、こうでもない」と作業をしているところもあり、だからこそ読者に近いところに立てる場合もあろうと考えています。このアンケートもそうした「手探り」の表れと受け止めていただければ幸いです。

皆さんの反応やアンケートの結果から得られるものは実に多く、また質問や解説を書く作業から私たち自身が学ばせてもらっています。今後も担当者一同、文章を書く場合などに役立つような、あるいは好奇心をくすぐるような質問を用意できるよう努めてまいります。どうぞ来る年も、お付き合いのほどをよろしくお願い申し上げます。

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