2019年の「#ことばの質問」で最も回答数が多かったのは「ほぼほぼ」が「ほぼ」より確実性が高まるのかどうかでした。また、春先には「聞いたこともない」人が8割近くだった「カスハラ」。今なら、だいぶ違う結果になるのではないでしょうか。この一年を振り返ります。

毎日新聞2019年6月26日朝刊

 

2019年もいよいよ押し詰まってまいりました。今年も多くの方に「毎日ことば」のアンケートにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。担当者一同、あらためて御礼申し上げます。年末に当たり、今年の質問から目立ったものを振り返ることで、一年の締めくくりといたします。

 

字形も注目された「令」

今年の質問というと、やはりこれでしょうか。

新元号に入る「令」。字の形、気になりますか?
気になる。(A)を使いたい 31.5%
気になる。(B)を使いたい 40.7%
気にならない 27.7%

 

今年の前半の大きな話題の一つは「元号が何になるか」でした。結果はご存じの通り「令和」。これに含まれた「令」は日本漢字能力検定協会による「今年の漢字」にも選ばれたのですが、そのニュースを知ってまず思ったのは、例年選ばれた漢字を揮毫(きごう)する清水寺の森清範貫主(かんす)がどんな字を書くのだろう、ということでした。

手書き文字でよく使われる(B)の字形よりも、明朝体に通じる(A)の字形に近いようです。そもそも発表の折に官房長官が掲げた字形も、「ひとやね」の下が横棒ではなく点になっているものの(A)に近いものでした。

漢検協会は「令」を選んだ理由の中で「『令』の字が持つ意味・書き方にも注目が集まった」としています。意味はさておき、この機会に字形というものについて、「令」の場合に(A)(B)どちらでも問題がないように、手書きや印刷文字で多少異なるのはよくあることだと知られるようになったなら、意義のあることだったと思います。

 

辞書に採用された「ほぼほぼ」

2019年に一番多くの回答を集めたのはこの質問でした。

「ほぼ完成」と「ほぼほぼ完成」。完成に近いのはどちら?
ほぼ完成 40.5%
ほぼほぼ完成 33.5%
どちらも同じ 7.4%
「ほぼほぼ」を使わないので分からない 18.7%

 

合計3480件の回答をいただきました。「ほぼほぼ」は世間でそれなりに使われているし、自分で使うこともあるけれど、はっきりした意味はどうなのか――と、気になる人が多かったのかもしれません。このアンケートでは「使わないので分からない」とした人は2割弱にとどまり、言葉自体は普及していると言えそうです。

回答をまとめた時点の解説では、「ほぼほぼ」は主観的な使い方をされるもので、確実性が高いかどうかがきちんと伝わる言葉ではないという趣旨の説明をしました。回答がほぼ二分されたことからも分かるように、使い手によって意味が割れてしまうのです。

なお、その時の解説では三省堂の現代新国語辞典6版(2019年1月)にも「ほぼほぼ」が採用されなかったことに触れ、辞書に載せるにはまだ熟し具合が足りないのだろうか、秋に出る大辞林4版はどうするかが注目される、と書いたのでした。そして9月に出た新しい大辞林を引いてみたところ――ある! 見出し語になっているではないですか。驚きました。解説は以下の通り。

大辞林4版

 

うーん、これを見てもよく分からないですね……。ちなみに同じ大辞林の「ほぼ」の説明は「だいたい。あらかた。およそ」というもので、「強調」するとどうなるか、やはりはっきりしません。

しかし、「名詞的にも用いる」というのは面白いところです。「ほぼ」は名詞的には使えませんので。ただし副詞の「ほぼほぼ」の発音は平板(大辞林では[0]で示される)でよいでしょうけれど、名詞だとアクセントは変わるかも? それとも場合によるものでしょうか。

 

浸透進んだ「カスハラ」

アンケートの時期から現時点までの間に、回答の割合がだいぶ変わっただろうなと感じる言葉もありました。

「カスハラ」という言葉、ご存じですか?
分かる 11.1%
分からないが聞いたことはある 11.7%
聞いたこともない 77.2%

 

「カスハラ」はまさにそんな言葉でしょう。質問をした3月から4月にかけての時期では、「聞いたこともない」という人が8割近くを占めていましたが、企業などでのパワーハラスメントへの風当たりが強くなるとともに、顧客や取引先からの悪質なクレームなども耳目を引くようになりました。毎日新聞の記事によると

顧客による「カスタマーハラスメント(カスハラ)」対策は国際労働機関(ILO)でも話し合われ、6月に採択されたハラスメント全面的禁止条約で、顧客ら第三者によるパワハラに考慮するよう求めた。

(2019年10月21日朝刊)

とのこと。カスハラは世界的な懸案になっているのです。日本の厚生労働省は11月に、パワハラ防止のための企業向け指針案を示した中で、顧客からの迷惑行為についても企業側の「望ましい取り組み」の例を挙げています。やはり名前が付くこと、またその名前が浸透することによって明らかになる事実というのはあるもので、「カスハラ」という言葉によってその事実が浮かび上がったとも言えるでしょう。

   ◇
2019年の振り返りは明日に続きます。

 

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