刺し身を意味する「おつくり」は「お造り」と書くという人が約9割と、「お作り」「おつくり」派を圧倒する結果となりました。辞書には「お作り」も出ていますが、店のお品書きなどでよく目にする「お造り」の表記が浸透しているようです。

「おつくり」という言葉の表記について伺いました。

「お造り」が9割と圧倒的

刺し身を表す「おつくり」。どのように書きますか?
お作り 3.4%
お造り 89.7%
おつくり 6.9%

 

「お造り」と書くとする人が約9割と、「お作り」「おつくり」派を圧倒する結果となりました。お品書きなどでよく目にする「お造り」の表記が浸透していることがうかがえます。

辞書は「お作り」「お造り」の併記多し

ただ国語辞典では、現代新国語辞典6版のように「【お造り】お刺身」「【お作り】お化粧」と意味によって使い分けているものもありますが、「【御作り】」(大辞泉2版)と「作」の表記のみを載せているものや、「【御作り】(『御造り』とも書く)」(広辞苑7版)、「【御作り・御造り】」(大辞林4版)のように両方を併記しているものが多く、いずれも正しい表記といえるでしょう。ちなみに新聞では、接頭語の「御」は固有名詞的なものを除いて原則ひらがなにしています。

毎日新聞の用語集では、2007年版までは「おつくり」の表記についての取り決めがありませんでした。動きがあったのは10年発行の「別冊」。その中で「つくる」の項に「鮮魚を刺し身に作る」という用例が加えられました。日本新聞協会の新聞用語懇談会での議論を踏まえて設けられたものです。「おつくり」については明記されていませんが、この用例に照らせば「お作り」ということになります。

ただ16年に同懇談会で再び話し合われ、名詞の「おつくり」は「お造り」が定着しているとして、「お造り」の表記を認めると決めました。これを受けて、毎日新聞でも最新の19年版用語集で「鮮魚を刺し身に作る<刺し身は「お造り」とも>」との説明に変えた経緯があります。世間では「お造り」が浸透しているということで、新聞として「お造り」の方に統一したのです。
 

「お造り」が好まれるのはなぜ?

なぜ「お造り」の表記が定着したのかを考察するために語源を探ってみました。「暮らしのことば 新語源辞典」は「刺身」の項で以下のように説明します。

新鮮な魚肉などを薄く切り、わさびや生姜(しょうが)などを入れた醬油(しょうゆ)をつけて食べる料理。サシミという語が見られる室町期の武家社会では、「切る」という語を用いることを忌み嫌い、「刺す」といったところから「刺身」という語が成立したという。関西ではツクリというが、これは「作り身」のミを省略した語であろう。

魚の「切り身」との表現を忌避して、「刺し身」と表現するようになり、関西ではさらに「刺す」も嫌ったために「作り」「作り身」と言うようになったようです。

この「つくりみ」はほとんどの辞書が「作り身」のみを載せています。「作り身」は薄く切った「刺し身」を表すだけでなく、魚を適当な大きさに切っただけの「切り身」を指すこともあるためか、一般用語である「作る」が用いられているのかもしれません。一方「おつくり」は刺し身のことを表し、刺し身を花のように盛り付けたり、薬味を添えたりと、ひと手間加えたものもあります。「お造り」の表記が用いられるのは、「おつくり」がいわば一種の「料理」であり、「造形する」「手の込んだものを造る」という意識が反映されているのではないでしょうか。

そういえば「作り」「刺し身」は「おつくり」「おさしみ」と、「御」をつけて丁寧にすることがありますが、「お作り身」とは言いません。お品書きに「お造り」と書いてある方がなんだか高級な感じがすることから、店側がこちらの表記を好んでいるということもありそうです。

社会での浸透度も用語の指標に

表記の決定には常用漢字表や辞書などを根拠にすることが多いですが、それだけでは済まない場合もあります。昨年の毎日新聞用語集の改訂で「からあげ」の表記を「空揚げ」から「唐揚げ」に変更したように、複数の書き方がある語の表記から一つを選ぶ際には、みなさんがしっくりくるものかどうかという感じ方も指標の一つになるのです。

(2019年01月03日)



質問に際して

国語辞典では、「お作り」として項目を立てているものが多数派ですが、刺し身については説明の中で「お造り」という表記を示すものも見られます。三省堂現代新国語辞典(6版)のように、刺し身の「お造り」を「お作り」と切り離して見出し語に取っている辞書も。ちなみに「お作り」の方は「お化粧」と説明されています。

要するに、いずれの書き方でも問題があるわけではなさそうです。ただ、日本料理店や居酒屋のお品書きなどで「お造り」という表記をよく目にするからか、「お造り」の方がしっくりくるという方が多いのではないでしょうか。

毎日新聞の用語集では「つくる」の項に「鮮魚を刺し身に作る」という用例を載せていますが、日本新聞協会の新聞用語懇談会での議論を踏まえ、最新版では「鮮魚を刺し身に作る<刺し身は「お造り」とも>」と、説明が追加されています。

(2019年12月12日)

フォローすると最新情報が届きます

Twitter