氷がとけることを「『解氷』と言う」とした二つの選択肢の合計より、「『氷解』と言う」とした人がやや多かったのは意外でした。「氷解」を「氷が解ける」とする説明は国語辞典ではほとんど見られませんが、漢和辞典では確認できます。

「氷が解ける」という意味の漢語表現について伺いました。

「氷解」と言う人がやや優勢か

氷が解けること。言い換えるなら何と言いますか?
「解氷」と言う。「氷解」は不可 21.5%
「解氷」と言うが、「氷解」も許容 11.6%
「氷解」と言うが、「解氷」も許容 35.5%
「解氷」と「氷解」を使い分ける 31.4%

 

回答はバラつきましたが、「『解氷』と言う」とした二つの選択肢の合計よりも、「『氷解』と言う」とした人が多かったのは意外でした。ただし、「解氷」と「氷解」を使い分けるという人がどう使い分けているかが分からず、選択肢の作り方に反省が残りました。

辞書の種類で扱いに差が出る「氷解」

改めて国語辞典を引いてみると、「解氷」は「春、張りつめていた氷がとけだすこと。また、とけて水に浮かぶ氷」(岩波国語辞典8版)、「氷解」は「疑惑・疑念などが、氷の解けるようにすっかり消えてはっきりすること」とあります。国語辞典はどの辞書を見ても大同小異。こうした説明を見る限りでは、氷が解けることは「解氷」で、「氷解」は疑問が解消することの比喩表現――となるはずです。

広辞苑7版

 

しかし一転、辞書であっても漢和辞典に目を向けると話は違ってきます。新潮日本語漢字辞典は「氷」を含む熟語に「氷解」を挙げ「①氷が解けてなくなること」と説明しており、諸橋大漢和も「氷解」の説明に「①氷がとける」としています。実は日本国語大辞典2版も「氷解」の項目に「氷が解けること」という語釈を挙げているのですが、用例は漢文だけ。要するにこの言葉は、日本では漢文の言葉として認識されていたのではないでしょうか。

新潮日本語漢字辞典

 

じゃあ日本語で「氷が解けること」は何と言っていたのよ、というと「こおりどけ(氷解)」が一般的だったようです。日国は室町時代の国語辞典「節用集(文明本)」から「氷解 コホリトケ」を引いています。この言葉は現代にも残っており歳時記に載っています。考えてみれば季節の進行によって雪が解けることを「雪解け」と言い、漢語表現を用いる必要もさほどないのですから、氷も「氷解け」で何の問題もなかったのでしょう。

温暖化が「氷解」の使い方に影響

氷が解けるという意味での「氷解」が毎日新聞の紙面に現れたのは、地球温暖化の進行を指摘する声が強くなった2000年代前半からです。使用例はさほど多くありませんが、最近も1面に載った記事で使われています。

2019年11月5日付毎日新聞朝刊

 

政府の文書としては、04年の経済産業省のパンフレット「守ろうオゾン層 防ごう地球温暖化」に「温暖化による海水膨張と両極の氷解」というくだりがあり、その頃から「氷解」が大規模な氷解けを意味する語として使われるようになったとみられます。

なぜ解氷ではないのか、理由は不明です。実際のところ、温暖化の報道などにあっても「解氷」は使われており、Googleの検索結果などから見ても用例は半々といったところ。温暖化関連の国際会議で出た文書の仮訳が「氷解」を使っていてそれが広まったのではないか――というのは、今回の質問にあたって立てていた仮説なのですが、目立った根拠となるような文書は見つかりませんでした。単に「氷が解ける」だから「氷解」でよかろう、という感じなのでしょうか。

「使い分け」、どう使い分け?

今回のアンケートの結果で「使い分ける」としている人が3割程度ありましたが、その多くは、「氷が解ける」という意味と「疑念が晴れる」という意味で使い分けているのではないか、という印象を持っています。一般の「氷解け=解氷」と、最近見かける温暖化などに際しての用法との使い分けではないのではないか、と。その点で選択肢の作り方に不備があったという反省があります。

紙面に「氷解」という見出しを載せたことについては、アンケートで「氷解」を優先した人が意外に多かったことからみて、読者に与える違和感はさほどでもなかったと考えられホッとしました。国語辞典がほぼ「解氷」一色なので気になっていたのですが、漢和辞典にある「氷解」が、温暖化のような新しい事象にあたって改めて呼び出されたと見ることもできそうで、日本語として筋が悪いとも言えないと考えています。

(2019年12月10日)



質問に際して

地球温暖化に伴い極地の氷が解けているという記事。「氷解は過去数百年で例のない速度で進んでいるとされる」などのくだりも「問題なし」と読んだのですが、見出しで「氷解」と大きく書かれたのを見て急に気になりました。氷が解けるっていうのは「解氷」が普通じゃなかったかしらん。

国語辞典で「氷解」を引いてみると「氷が解けるように疑惑のとけること。疑いのすっかり晴れること。『疑問が―する』」(広辞苑7版)とあるのみで、他の辞書も大同小異です。つまり「氷解」は疑問などが解消することの比喩表現で、実際に氷が解ける場合に使う言葉ではないということのようです。

しかし、ナショナルジオグラフィック日本版は2007年に「極地氷解」というタイトルで特集を組んでいます。どうも地球温暖化に関連して海氷が解ける場合には「氷解」も使われているようです。

結局、記事も見出しも「氷解」のまま紙面化されたのですが、違和感を持った読者がいないかは気になりました。しかし案外、こうした使い方は既に普及しているのかも? 皆さんはどう感じるでしょうか。

(2019年11月14日)

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