「御の字だ」の使い方は「とりあえず合格」派が「大いに満足」派を上回り、文化庁の調査と同様の結果となりました。「御の字」の意味が揺らいでいる背景として、「御」の使われ方が変わってきているということが挙げられるかもしれません。

「御の字」という言い回しの用法について伺いました。

「満足」「とりあえず」が意外に拮抗

70点取れれば「御の字だ」――カギ括弧の中、どう受け取りますか?
大いに満足だ 38%
とりあえず合格だ 44.5%
上のいずれも違和感あり 17.5%

 

「とりあえず合格だ(=一応、納得できる)」派が「大いに満足だ(=大いにありがたい)」派を上回り、文化庁の「国語に関する世論調査」と同様の結果となりました。ただ同調査よりも両者の差は小さく、意外と拮抗(きっこう)したなという印象です。「毎日ことば」を読んでくれている皆さんは、言葉に関心のある方が多いためでしょうか。

「一応納得」を記載する辞書も

国語辞典で「御の字」を引いてみました。広辞苑7版は「(『御』の字をつけるほど丁重に扱うべきの意から)①最上のもの。極上のもの。結構なもの。②ありがたい、しめたなどの意」、日本国語大辞典2版は「(江戸初期の遊里語から出た語。御の字を付けたいほどのものの意から)①特にすぐれたもの。また、そのような人。②非常に結構なこと。きわめて満足なこと」。つまり、尊敬の接頭語「御」の文字をつけたくなるほど素晴らしい、ありがたいもの(人)というのがもともとの意味です。

大辞林4版

 

一方、大辞林4版は上のような意味に加え、「近年『満足ではないが一応納得できる』の意で用いられることがある」と注記しています。文化庁の世論調査が示すように、本来の用法とされる「大いにありがたい」という意味よりも、現在では「一応、納得できる」という意味で解釈する人が多くなったこともあり、3版までは無かった説明を加えて、後者の意味を紹介しています。

軽くなりつつある「御の字」

「御の字」の意味が揺らいでいる背景として、「御」の使われ方が変わってきているということが挙げられるかもしれません。「御(おん)」は「御(お、ご)」よりもさらに敬意が高く丁寧な接頭語ですが、昨今では「御礼」「御中」などのように一種の定型句としても用いられています。また、最上のものだけでなく、たとえそれに届かない水準のものであったとしても、相手や対象物への敬意や満足を表現するために、形としてより丁寧な「御(おん)」を使うということもあります。

「御の字」についても、「大いにありがたい、満足だ」という水準に達していなくても、それなりのラインを突破していれば「とりあえず合格だ」というお墨付きを与えるために使われることが増えたのでしょう。「御(おん)」の用法が形式的なものとしても広まったことで、ニュアンスが「軽く」受け止められるようになったのかもしれません。そういえば、語義である「ありがたい」も、本来の「『有る』ことが『難しい』」=「有り難い」「めったにない」という意味から感謝の意味へと派生し、現在では「めったにない」わけではなくても、「ありがとね」などと「軽く」用いられるようになりました。

「とりあえず」も定着しそう

以上のように考えてみると、「御の字」をつけたくなるほど素晴らしいという原義が変わったというよりも、つけたくなるラインが下がったということかもしれません。質問の例で言えば、平均点が40点のテストで70点を取れて「満足」なのか、平均点の70点は取れたから「とりあえず合格」なのかは文脈で判断する必要があります。しかし、いずれにせよ発言者として「御の字」をつけたい気持ちが存在することは間違いないようで、用法の広がりは定着する可能性が高そうです。

(2019年12月06日)



質問に際して

先日発表された文化庁の2018年度「国語に関する世論調査」からの質問です。同調査の結果によると、「一応、納得できる」(=とりあえず合格だ)と解釈した人が49.9%で、本来の意味とされる「大いにありがたい」(=大いに満足だ)と回答した人の36.6%を上回りました。

文化庁は08年度にも同じ設問で調査をしており、そのときも「一応、納得できる」派が51.1%、「大いにありがたい」派が38.5%という結果でした。

「御の字」という表現から「願ってもない、ありがたい」というニュアンスをくみ取りにくくなっているというのは、昨今では「御」という接頭語が、すっかり形式的なものになっているということかもしれません。

ここでも文化庁調査と同様の結果になるのではないかと予想しますが、いかがでしょうか。

(2019年11月11日)

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